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6章
04 不思議な少女
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4
優美と渚が雑居ビルの中に入り、階段をそろって上がっていく。
「どんな演劇なのか気になるわね」
「タイトルが『俺(私)のことを愛してくれないか(くれませんか)?』だから、ちょっと想像つかないよね」
「無難な予想だけど、男と女の視点を交互に見て、相手の想いを理解する作品だと思うわ」
「まあ、あたしは優美と観るなら、なんでもいいけどね!」
優美の腕が一層強く締め付けられる。
優美が困ったふうに笑っているうちに、階段を上がりきって目的の階に到着した
上がってすぐさま、ふたりの目が釘付けになった。視線の先には上下が赤ジャージで、首から長方形の箱を提げた人物が、ドアの前に立っていたのだ。
金髪のボブカットで、無表情に視線を正面の窓に突き刺している。
「え? どうする?」
「あの娘(こ)に訊いてみる?」
ふたりが当惑し、ひそひそ声で話す。
と、赤ジャージが歩み寄ってくる。身長は渚より低く、緑色の大きな目でふたりを見上げていた。
「お客? お客、券、この箱、に、入れる。オッケー?」
片言の日本語である。「オッケー?」だけはやけにイントネーションがよかったから、欧米人らしい。
ふたりは不思議な気持ちを抱きながら、箱の上部に入れられた切れ目に券を投入していった。
「ありがと、ありがと。こっち、ご案内、ついて、来て」
踵を返し、今さっきまで立っていたドアに早歩きで進む。ふたりも遅れまいと、早歩きで追う。
赤ジャージは、ドアを開くと無言のまま片手を部屋に向かって広げる。どうやら部屋に入っていいぞと言いたいらしい。
ふたりは思わず躊躇したが、意を決して入った。
中は映画館のように薄暗く、歩きづらかった。少し部屋の中を進むと、左手にまた部屋がある。そのドアは開け放たれていて、照明がこちらに漏れていた。
不気味な空間だった。
ふたりがそれでも半意識的に一歩踏み出す。ドアから離れたと見ると、
「そこの、部屋に、入って、待って、いて、ください」
片言かつ食い気味に言って、赤ジャージが部屋から出て行った。しかもご丁寧にドアをきっちり閉めてしまう。
「おばけ屋敷?」
渚が声をひそめて辺りをうかがう。
「そう思いたくなるほど暗いわね。とりあえず、入るわよ」
優美も声の音量を極力落として促す。
光のある部屋に入ると、漏れていた光の正体がわかった。それは、ステージを高い位置で吊り下げられて照らしている裸電球だった。
部屋を見渡すとこの部屋は、照明が映えるように部屋全体を黒い布で覆っている。
ステージは低いし、最前列の客が手を伸ばせば届くぐらいの近さである。
客席は丸座布団が敷かれ、隣同士の間隔が極端に狭い。一度の公演で最大で15人ほど入れば満員になるだろうと予想された。
ステージの両脇はほかの部屋とつながっているらしい。足音を立てずに行き来している人物がチラホラいた。
客層は若く、カップル客も何組かいる。
上演前だというのに、客と劇団員は私語を交わす者はいなかった。みんなが真剣なまなざしでステージを見つめている。
あまりにも異様な一体感に、ふたりは思わず息を呑む。物音を立てないよう慎重に移動して空席に座る。そして、話すことも携帯を開くこともできない空気だったので、大人しくステージを見つめることにした。
時計がなく、おそらく何分か経ったとき、ステージを照らす照明が全部一斉に消えた。
「まもなく、始まります」
すぐさまマイク越しで淡々とした声が、部屋の右上の隅のスピーカーから流れる。静寂に慣れた客たちの敏感な耳朶を打ちつけた。
ステージ上に人の気配を感じたかと思うと、消えたばっかりの照明が一斉に点いた。
優美と渚が雑居ビルの中に入り、階段をそろって上がっていく。
「どんな演劇なのか気になるわね」
「タイトルが『俺(私)のことを愛してくれないか(くれませんか)?』だから、ちょっと想像つかないよね」
「無難な予想だけど、男と女の視点を交互に見て、相手の想いを理解する作品だと思うわ」
「まあ、あたしは優美と観るなら、なんでもいいけどね!」
優美の腕が一層強く締め付けられる。
優美が困ったふうに笑っているうちに、階段を上がりきって目的の階に到着した
上がってすぐさま、ふたりの目が釘付けになった。視線の先には上下が赤ジャージで、首から長方形の箱を提げた人物が、ドアの前に立っていたのだ。
金髪のボブカットで、無表情に視線を正面の窓に突き刺している。
「え? どうする?」
「あの娘(こ)に訊いてみる?」
ふたりが当惑し、ひそひそ声で話す。
と、赤ジャージが歩み寄ってくる。身長は渚より低く、緑色の大きな目でふたりを見上げていた。
「お客? お客、券、この箱、に、入れる。オッケー?」
片言の日本語である。「オッケー?」だけはやけにイントネーションがよかったから、欧米人らしい。
ふたりは不思議な気持ちを抱きながら、箱の上部に入れられた切れ目に券を投入していった。
「ありがと、ありがと。こっち、ご案内、ついて、来て」
踵を返し、今さっきまで立っていたドアに早歩きで進む。ふたりも遅れまいと、早歩きで追う。
赤ジャージは、ドアを開くと無言のまま片手を部屋に向かって広げる。どうやら部屋に入っていいぞと言いたいらしい。
ふたりは思わず躊躇したが、意を決して入った。
中は映画館のように薄暗く、歩きづらかった。少し部屋の中を進むと、左手にまた部屋がある。そのドアは開け放たれていて、照明がこちらに漏れていた。
不気味な空間だった。
ふたりがそれでも半意識的に一歩踏み出す。ドアから離れたと見ると、
「そこの、部屋に、入って、待って、いて、ください」
片言かつ食い気味に言って、赤ジャージが部屋から出て行った。しかもご丁寧にドアをきっちり閉めてしまう。
「おばけ屋敷?」
渚が声をひそめて辺りをうかがう。
「そう思いたくなるほど暗いわね。とりあえず、入るわよ」
優美も声の音量を極力落として促す。
光のある部屋に入ると、漏れていた光の正体がわかった。それは、ステージを高い位置で吊り下げられて照らしている裸電球だった。
部屋を見渡すとこの部屋は、照明が映えるように部屋全体を黒い布で覆っている。
ステージは低いし、最前列の客が手を伸ばせば届くぐらいの近さである。
客席は丸座布団が敷かれ、隣同士の間隔が極端に狭い。一度の公演で最大で15人ほど入れば満員になるだろうと予想された。
ステージの両脇はほかの部屋とつながっているらしい。足音を立てずに行き来している人物がチラホラいた。
客層は若く、カップル客も何組かいる。
上演前だというのに、客と劇団員は私語を交わす者はいなかった。みんなが真剣なまなざしでステージを見つめている。
あまりにも異様な一体感に、ふたりは思わず息を呑む。物音を立てないよう慎重に移動して空席に座る。そして、話すことも携帯を開くこともできない空気だったので、大人しくステージを見つめることにした。
時計がなく、おそらく何分か経ったとき、ステージを照らす照明が全部一斉に消えた。
「まもなく、始まります」
すぐさまマイク越しで淡々とした声が、部屋の右上の隅のスピーカーから流れる。静寂に慣れた客たちの敏感な耳朶を打ちつけた。
ステージ上に人の気配を感じたかと思うと、消えたばっかりの照明が一斉に点いた。
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