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第1章 錬金術の世界
第14話 夜の平原
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「それにしても、まさか最初に受けるクエストがギルドのじゃなくてNPCのとはねえ」
「あはは、言われてみればボクたち、素材を売る以外にはほとんど行ってなかったもんね…ある程度やりたいことが落ち着いたら、ギルドの方にも行ってみようか?」
「うん、そうしよう…さて、荷物はこんなもんでいいかな?」
僕達は『旅人の住処』で食事と茶番を楽しんだ後、そこの店長であるセルゲイさんから受けたサブクエストを達成するため、偵察も兼ねて夜の平原に向かうことになったのだ。今はその準備をしに宿に戻っていた頃だ。
「ボクはいつも通りだけど…プレア殿はどう?」
「うん、僕もいつも通り。でも一応作業台セットだけ追加で入れといた。あとは…少し防御が心許ないかな?」
「言われてみれば、ボクたちまだ防具は初期装備のまんまだもんね…」
すっかり武器の強化にかまけていたが、防具についてはまだ何もしていなかった。何れやろうとは思っていたのだが…主に刀関連でやりたいことが多く、未だ手付かずだったというわけだ。
「まあ、今までほとんどダメージ受けずに切り抜けてきたし大丈夫かな?いざって時は【硬化】よろしく!」
「んな無茶な…あれだって連発は出来ないんだし、割合強化だから低いステータスだとあんまり恩恵高くないんだからね?」
「あはは、分かってるよ、大丈夫。さて…じゃあ行こっか?」
そう言ってハルはこちらを振り向く。何故か手を差し出して来てるが、別に人混みに行くわけでもないんだし大丈夫だろう。というわけで手はスルーするとして。
「うん、ここでウダウダ言ってても仕方ないしね」
「そうそう、当たって砕けろ!だよ」
「そうね…いや、砕けたらダメでしょ!?」
「あはははははっ!」
うん、やっぱり楽しいな。ハルと一緒にいると。最初はある程度1人でプレイするつもりだったけど…気付いたら隣にハルがいて、それが当たり前のようになっていて。ハルは…どう思ってるのかな?僕と一緒にいて楽しんでくれていれば良いけど。
「あははは…いやー、こんなに笑ったの久しぶりかも」
お腹を抑えながら目元に滲んだ涙を拭うハル。笑いすぎて涙が出るって…うん。それくらい全力で笑えてる今は、きっと大丈夫だ。現実に関してあまり深く介入するつもりはないし、それはマナー違反だ。でも、だからこそこのアルケミア・オンラインの世界で。思い切り楽しみたい。楽しんでもらいたい。そして、思い出として忘れないでいてほしい…そう思わずにはいられなかった。
………
その頃、夜の平原では…。
「グルァァァァッ!!」
「うぁっ!くっ…腕が…」
「大丈夫かミハイル!おい、回復してやってくれ!」
「待ってセイス!手持ちもうないって!」
「言ってる場合か。ミハイルがやられたら俺達後衛組が狙われて全滅だぞ」
「分かってる…はい、とりあえず応急処置!飲んで」
手持ちの回復アイテムが底を尽き、セイスという手負いのハンターに急かされながら、素材を使い急遽回復アイテムを錬成する少女。ミハイルと呼ばれた深手を負った前衛に応急処置と称してアイテムを投げ渡す。しかし、十全な素材もない環境下で作るポーションなど、当然まともに飲めるものでもなく…。
「ゴクッ…ゲッホゲッホ!おいカンナ!!不味いなんてもんじゃねえぞ!余計にダメージ受けた気分だわ!」
そう言ってえずくミハイル。カンナが必死に作ったポーションは、確かに効果の割に味は劣悪。しかし、それでもこの場を繋ぐ命の綱。味の問題だけで吐き捨てるほど無価値などではない。手持ちの素材を全て使わされた挙句、その結晶を無駄にされたカンナにも、静かに火が点き始めた。
「仕方ないでしょ!薬草しか持ってないんだから苦いに決まってるじゃない!この状況なんだし我慢して飲んでよ」
「お前の準備が足りねえのが問題なんだろうが!いつもそうやって足引っ張りやがって」
「私はいつも通りの万全な準備で来てるわよ!それに、毎回こんなモンスターが出る状態を想定してたら素材が持たないと何度言えば…!」
ミハイルとカンナは、強大な敵を前に愚かにも喧嘩を始めてしまう。だが、それは仕方ないことでもあるのだ。人は誰でも、恐怖を前にしては正常な判断が出来なくなってしまう。セイスというハンターも、2人の衝突を止められるほどの余裕はない。この事態を収められる人は、誰もいないのだ。
そしてこの状況で、まともなのは誰が見てもカンナだ。実はポーションが底を尽きた理由も、概ねこのミハイルにある。彼はこの強力な魔物を前に、愚かにも喧嘩を売ろうとした。それは討伐報酬のためだ。勿論後衛2人は止めたのだが聞かず、無謀な戦いを挑んでこのザマである。
この男の愚行はそれだけではない。普通、挑んだ相手が強力だった時、撤退可能なら撤退し対策をしてから挑むのがセオリーだ。しかし、目の前の報酬に目が眩んだのか、それすらもせず、無駄にダメージを受けては回復薬を浪費するばかり。
そうして手持ちの全ての回復薬を使い潰した上でのこの言動である。ミハイルの粘りで魔物も手傷を複数負わされているものの、後衛のことを考えず1人で突っ込んで行くその様は、果敢などではなく、ただの死にたがり。味方に迷惑をかけている分、尚更タチが悪い。
「グルルル…グァァァァッ!!」
そんな2人の喧嘩を退屈そうに眺めていたその魔物は、やがてそのやり取りにも飽きたのか、完全に視界から魔物を外し、カンナと本格的に喧嘩し始めた前衛(笑)のミハイルの背中を、一撃の元に切り裂いてみせたのだった。
「ガハァっ…!クソ、覚えてろよ…!!」
そう吐き捨てて、ミハイルはポリゴンとなった。その憎悪の視線を、敵ではなく、目の前の少女に突き刺しながら。
「ミハイル!」
「あのバカ、最後の最後まで…!」
「どうするセイス?私はもうさっきので薬草もほとんど…」
「分かってる…逃げられそうか?」
そう問うてみるものの、それが不可能であることは、セイス自身理解していた。ただ、決心をするきっかけ欲しさの質問。それは、隣にいるカンナが、一番よく理解していた。
「…難しいと思う。ずっとこっちを見てきてるし、私AGI無振りだし、追いつかれるかも」
「だよな…仕方ない、俺が時間を稼ぐから、お前は助けを呼んでこい!」
そう言って一丁のボウガンを構え、モンスターに立ち向かうセイス。その背中はカンナが、いや誰が見ても、ミハイル以上に前衛らしく、頼もしかった。
「…うん、分かった!AGI極振りの粘りを信じる!」
「あぁ、早く行け!」
カンナはセイスの力強い言葉に頷き、踵を返して駆け出した。仲間として、友達としてセイスを助けるために…。その姿は、AGI無振りとは思えないほどの、必死な走りだったという…。
「……ったく、いくら前ゲームで回避盾やってたって言ってもなぁ、流石にこいつじゃ無理があるだろうが!」
悪態を吐きながらも、その顔に戦士の獰猛な笑みを浮かべると、セイスは単身、無謀な戦いに身を投じるのだった…。
「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」
………
「あはは、言われてみればボクたち、素材を売る以外にはほとんど行ってなかったもんね…ある程度やりたいことが落ち着いたら、ギルドの方にも行ってみようか?」
「うん、そうしよう…さて、荷物はこんなもんでいいかな?」
僕達は『旅人の住処』で食事と茶番を楽しんだ後、そこの店長であるセルゲイさんから受けたサブクエストを達成するため、偵察も兼ねて夜の平原に向かうことになったのだ。今はその準備をしに宿に戻っていた頃だ。
「ボクはいつも通りだけど…プレア殿はどう?」
「うん、僕もいつも通り。でも一応作業台セットだけ追加で入れといた。あとは…少し防御が心許ないかな?」
「言われてみれば、ボクたちまだ防具は初期装備のまんまだもんね…」
すっかり武器の強化にかまけていたが、防具についてはまだ何もしていなかった。何れやろうとは思っていたのだが…主に刀関連でやりたいことが多く、未だ手付かずだったというわけだ。
「まあ、今までほとんどダメージ受けずに切り抜けてきたし大丈夫かな?いざって時は【硬化】よろしく!」
「んな無茶な…あれだって連発は出来ないんだし、割合強化だから低いステータスだとあんまり恩恵高くないんだからね?」
「あはは、分かってるよ、大丈夫。さて…じゃあ行こっか?」
そう言ってハルはこちらを振り向く。何故か手を差し出して来てるが、別に人混みに行くわけでもないんだし大丈夫だろう。というわけで手はスルーするとして。
「うん、ここでウダウダ言ってても仕方ないしね」
「そうそう、当たって砕けろ!だよ」
「そうね…いや、砕けたらダメでしょ!?」
「あはははははっ!」
うん、やっぱり楽しいな。ハルと一緒にいると。最初はある程度1人でプレイするつもりだったけど…気付いたら隣にハルがいて、それが当たり前のようになっていて。ハルは…どう思ってるのかな?僕と一緒にいて楽しんでくれていれば良いけど。
「あははは…いやー、こんなに笑ったの久しぶりかも」
お腹を抑えながら目元に滲んだ涙を拭うハル。笑いすぎて涙が出るって…うん。それくらい全力で笑えてる今は、きっと大丈夫だ。現実に関してあまり深く介入するつもりはないし、それはマナー違反だ。でも、だからこそこのアルケミア・オンラインの世界で。思い切り楽しみたい。楽しんでもらいたい。そして、思い出として忘れないでいてほしい…そう思わずにはいられなかった。
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その頃、夜の平原では…。
「グルァァァァッ!!」
「うぁっ!くっ…腕が…」
「大丈夫かミハイル!おい、回復してやってくれ!」
「待ってセイス!手持ちもうないって!」
「言ってる場合か。ミハイルがやられたら俺達後衛組が狙われて全滅だぞ」
「分かってる…はい、とりあえず応急処置!飲んで」
手持ちの回復アイテムが底を尽き、セイスという手負いのハンターに急かされながら、素材を使い急遽回復アイテムを錬成する少女。ミハイルと呼ばれた深手を負った前衛に応急処置と称してアイテムを投げ渡す。しかし、十全な素材もない環境下で作るポーションなど、当然まともに飲めるものでもなく…。
「ゴクッ…ゲッホゲッホ!おいカンナ!!不味いなんてもんじゃねえぞ!余計にダメージ受けた気分だわ!」
そう言ってえずくミハイル。カンナが必死に作ったポーションは、確かに効果の割に味は劣悪。しかし、それでもこの場を繋ぐ命の綱。味の問題だけで吐き捨てるほど無価値などではない。手持ちの素材を全て使わされた挙句、その結晶を無駄にされたカンナにも、静かに火が点き始めた。
「仕方ないでしょ!薬草しか持ってないんだから苦いに決まってるじゃない!この状況なんだし我慢して飲んでよ」
「お前の準備が足りねえのが問題なんだろうが!いつもそうやって足引っ張りやがって」
「私はいつも通りの万全な準備で来てるわよ!それに、毎回こんなモンスターが出る状態を想定してたら素材が持たないと何度言えば…!」
ミハイルとカンナは、強大な敵を前に愚かにも喧嘩を始めてしまう。だが、それは仕方ないことでもあるのだ。人は誰でも、恐怖を前にしては正常な判断が出来なくなってしまう。セイスというハンターも、2人の衝突を止められるほどの余裕はない。この事態を収められる人は、誰もいないのだ。
そしてこの状況で、まともなのは誰が見てもカンナだ。実はポーションが底を尽きた理由も、概ねこのミハイルにある。彼はこの強力な魔物を前に、愚かにも喧嘩を売ろうとした。それは討伐報酬のためだ。勿論後衛2人は止めたのだが聞かず、無謀な戦いを挑んでこのザマである。
この男の愚行はそれだけではない。普通、挑んだ相手が強力だった時、撤退可能なら撤退し対策をしてから挑むのがセオリーだ。しかし、目の前の報酬に目が眩んだのか、それすらもせず、無駄にダメージを受けては回復薬を浪費するばかり。
そうして手持ちの全ての回復薬を使い潰した上でのこの言動である。ミハイルの粘りで魔物も手傷を複数負わされているものの、後衛のことを考えず1人で突っ込んで行くその様は、果敢などではなく、ただの死にたがり。味方に迷惑をかけている分、尚更タチが悪い。
「グルルル…グァァァァッ!!」
そんな2人の喧嘩を退屈そうに眺めていたその魔物は、やがてそのやり取りにも飽きたのか、完全に視界から魔物を外し、カンナと本格的に喧嘩し始めた前衛(笑)のミハイルの背中を、一撃の元に切り裂いてみせたのだった。
「ガハァっ…!クソ、覚えてろよ…!!」
そう吐き捨てて、ミハイルはポリゴンとなった。その憎悪の視線を、敵ではなく、目の前の少女に突き刺しながら。
「ミハイル!」
「あのバカ、最後の最後まで…!」
「どうするセイス?私はもうさっきので薬草もほとんど…」
「分かってる…逃げられそうか?」
そう問うてみるものの、それが不可能であることは、セイス自身理解していた。ただ、決心をするきっかけ欲しさの質問。それは、隣にいるカンナが、一番よく理解していた。
「…難しいと思う。ずっとこっちを見てきてるし、私AGI無振りだし、追いつかれるかも」
「だよな…仕方ない、俺が時間を稼ぐから、お前は助けを呼んでこい!」
そう言って一丁のボウガンを構え、モンスターに立ち向かうセイス。その背中はカンナが、いや誰が見ても、ミハイル以上に前衛らしく、頼もしかった。
「…うん、分かった!AGI極振りの粘りを信じる!」
「あぁ、早く行け!」
カンナはセイスの力強い言葉に頷き、踵を返して駆け出した。仲間として、友達としてセイスを助けるために…。その姿は、AGI無振りとは思えないほどの、必死な走りだったという…。
「……ったく、いくら前ゲームで回避盾やってたって言ってもなぁ、流石にこいつじゃ無理があるだろうが!」
悪態を吐きながらも、その顔に戦士の獰猛な笑みを浮かべると、セイスは単身、無謀な戦いに身を投じるのだった…。
「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」
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