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メビウス

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第4章 焔の中の怪物

第12話 詠唱

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~~side A班プレアデス~~

ゴーレム達の侵攻が停滞した。およそ100体近くのゴーレムの攻撃を、完全に耐えている。たった2人で。

「凄い……」

「さすが雪ダルマさんたちだね!」

「うん、僕達も負けてられない。というわけで、協力してほしいんだけど」

そう言って、僕は一枚の紙……というか、ゲーム内メモをハルに渡した。

「うん、何をすれば……って!何これ!?」

ハルは渡された物の内容を見て、思わず焦ったような上擦った声を出す。まあ、大方予想通りのリアクションだ。こんなもの唐突に渡されたら誰だって戸惑う。

「【桜花壊塵撃】の詠唱だよ。まあ、とりあえずで僕が決めたものなんだけど。発動前にこれを一緒に唱えてほしいんだ」

「い、嫌だよ。恥ずかしい……そもそも、詠唱なんて必要ないんじゃ?」

「僕も最初はそう思ってたんだけどね……」

そう。彼が【剣の解放】を宣言する前、彼は小さな声で何やらボソボソと呟いていた。雪ダルマさん曰くそれが詠唱らしく、詠唱を通した方がスキルの効果が高まるんだとか。因みに、ユノンさんが発見したらしい。

そもそもスキルの効果量は、使用者のスキルに対するイメージ力で決定する。イメー力が高いプレイヤーは、無詠唱でも十分高い効果を発揮できる。しかし、そうでない場合、詠唱という手段でイメージを底上げした方が良い。詠唱に使う言葉やフレーズは何でも良いらしい。とにかく、そのスキルに対するイメージを増幅できるなら。

そして、2人以上で協力して発動するタイプのチェインスキルにおいて、イメージ力はただ高いだけでなく、使用者全員のイメージが一致している必要がある。僕達が1発で開発に成功したのも、入念にイメージの共有を繰り返していたから。

だから、雪ダルマさん達レベルで心が通じ合っていない限り、詠唱によって互いのイメージを合わせた方が良い。特に、今回は彼らのおかげで時間的余裕がある。無詠唱で打たなくてはならないほど切迫詰まっているわけではない。

「ね?そういうわけだから」

「うぅ……噛んじゃったらごめんね?」

「大丈夫だよ、ゆっくりやろう」

無事に?ハルの了承も得られたので、詠唱を開始していく。長いほど良いというわけではないらしいが、せっかくなので切り札っぽい長さにしてみた。厨二っぽいのは仕方ないね。

「行くよ?」

「うん」

ハルが頷く。僕はハルの隣に立ち、ハルは小春を鞘から引き抜く。そして2人で柄を握り、桜色の刃の切先を前方に掲げる。これで準備は整った。

「桜よ踊れ」

「爆ぜりて壊せ」

僕から口を開き、それにハルが続く。互いのスキルのイメージを補完するように。間もなく、僕達の周りを、時折蒼く煌めく桜吹雪が渦巻き始めた。それは徐々に小春の刃に引きつけられ、刀の先へと集中して行く。

「「大地に無数の花咲かし 仇なす全てを無に還せ!」」

轟々と滝のような音を立て、桜と蒼粒石の奔流は切っ先を中心に竜巻を作り、どんどん太く大きくなって行く。僕達の準備が完了したのを察してか、雪ダルマさん達がスキルを解除して後方に飛ぶ。動きの鈍いゴーレム達は、突然の後退に反応できず狼狽える。この隙を逃さない。

「「【桜花壊塵撃】!!」」

刹那、噴き出るように桜吹雪が飛んで行く。それは1秒も待たずにゴーレム軍の先頭集団に触れると、次々と切り裂きながら奥へ奥へと進み、呑み込んでいった。そして……

起爆。

激しい音と光が戦場に現れる。土煙を防ぐように、腕で顔を覆う。竜巻に呑み込まれた者は、身体に無数の切り傷を作り、思うように動かせず逃げられない。そこを容赦なく消し飛ばす。改めて考えると恐ろしいスキルだ。最も、これの元である2つも相当凶悪なスキルだが。

ーーープレイヤーレベルがアップしました。(Lv.31→32)

あれ、結構たくさん倒せたはずなのに。経験値の入りが思いの外悪い。まさか、耐えられた?いやいや、そんなはずはない。元々のスキルの威力が高いうえ、詠唱もやったし、僕達が互いに近くにいることで《運命の赤い糸》の補正もある。倒せないはずはない。

プレアデス:ユノンさん、これ倒せてるんでしょうか?

ユノン:間違いないわ……ああ、レベルが全然上がらなくて不安になってたのね?

春風:はい、その通りです……。

テラナイト:恐らく振り分け制なんだろう。今回のクエストには多くのプレイヤーが参加していると聞く。そうなりゃ、貢献度が高くてもレベルが上がりにくいのは仕方ないだろうよ。

なるほど。つまり、今回僕達が頑張ってたくさん倒しても、この前みたいにレベルが一気に上がることはないのか。うーん、ちょっとだけ損した気分。まあ、そりゃ個人のインフレを防ぐためなら仕方ないんだけど。

プレアデス:それで、今ので何体倒せたんでしょうか?

ユノン:今計測中よ。少し待ってて。

既に鑑定スキルを使っているらしい。こちらも、ようやく土煙が晴れてきたので見えるようになった。うーんパッと見たところでは……かなり倒せてると思うんだけど。

ユノン:出たわ。今倒したのがおよそ1000体……流石の攻撃ね。

春風:えへへ、ありがとうございます!

プレアデス:ちょっと待って下さい、1000体ですか?確かこの軍って1万以上いるんですよね?

ユノン:ええ。つまり、あと9000体いることになるわ。

馬鹿な。9000もいるなら、僕の視界はゴーレム達で埋め尽くされていてもおかしくない。なのに、今僕の見た限りでは、ゴーレム達は殆どいない。精々100体程度だろう。ここからでもはっきり見えるので、恐らく大型機だろうが。

セイス:まさか、奴ら……。

ユノン:ええ、そのまさかでしょうね。

春風:何か分かったんですか?

セイス:恐らく今回の軍は囮だったんだろう。だから、いつでも後退することができた。さっきの爆風に紛れて、行軍ルートを変えて迂回した可能性が高い。

雪ダルマ:確かに、彼らの本命はフリーディア。ここに攻め込むこと自体は目的ではない……。

なるほど、陽動作戦か。考えうる限りでは真っ当な意見だ。しかし、だからと言ってこんな短時間で、跡形もなく移動できるだろうか?あの、鈍重なゴーレム達が?考えろ。相手はスロウだ。僕達プレイヤーにはできないことが、奴にはできる。常識は通用しないだろう。

プレアデス:まさか!?いや、でも……。

テラナイト:カシラ、何か気づいたか?

どうやら思ったことがそのままチャットに流れていたらしい。しかし、僕が何かに気づいたというか、思いついたのは本当だ。スロウに初めて会った時と、2回目に会った時。その2つを比べていたら、あることを思い出した。もし、彼のその能力を他者にも行使できるのだとしたら。

プレアデス:えっと、あくまで予想なんですけど……奴ら、もしかして空間転移したんじゃないでしょうか?



プレアデス Lv.32
種族:ホムンクルス/職業:宝石技師Lv.26
HP:550(+250)
MP:170(+360)
STR:75→80(+50)
VIT:50(+50)
AGI:0(+30)
INT:50(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:30

SP:5→0

頭…なし
胸…バトラースーツ
右手…噴炎する竜骨牙の戦槌ブーストファング・ドラゴハンマー
左手…-
脚…バトラートラウザーズ
足…執事の革靴
特殊…蒼穹のタリスマン
特殊…レイジ・オブ・イフリート
特殊…空間機動ベルト

所持金:42600G

満腹度:70%

装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加エンチャント(火炎) 《火傷》付与(高) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒) 《火傷》耐性

称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者ジェム・コレクター》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》《禁忌の扉》《炎纏いし者》《運命の赤い糸》

生産スキルセット(9/12)
【統合強化】【金属探知】【分解】【精錬】【拡大鏡】【簡易調整】【宝石融合ジェム・ボンド】【宝石分解ジェム・スクラップ】【宝石変換ジェム・コンバージョン

戦闘スキルセット(9/12)(装備中)
【硬化】【宝石片弾ジェム・ブラスト】【ジェットファング】【付加エンチャント:陽炎柱ヘイズピラー】【脆弱化】【ジェノサイド】【精霊喚起】【付加エンチャント:炎獄ブレイズプリズン】【ドラゴンフレイム】

チェインスキル:【連鎖爆破】【バーストスマッシュ】【桜花壊塵撃】【ヴォルカニック・ゲイザー】
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