アルケミア・オンライン

メビウス

文字の大きさ
84 / 230
第4章 焔の中の怪物

第19話 呼び覚ませ

しおりを挟む
~~side スロウ~~

「フフ……ハハハハハハハッ!!」

いいぞ、ぼくの目論見通りだ!まさかプレアデスより先に、あの女が『真影』に触れるとは予想外だったが……これが、感情の成せる力というわけか。

思っていた以上の収穫に、思わず高笑いがこぼれてしまった。誰もいない空間に、ぼくの笑い声が響きわたる。余韻の反響を楽しみながら、ぼくは部屋の奥にある、巨大なカプセルに歩いて行った。表面に触れ、パラメータ画面を表示する。ふむ……エネルギー充填率70%、か。王都を離れた時は2割しか溜まっていなかったので、随分な進歩だ。

一応、完全体にするためのエネルギーはもう揃っている。しかし、これだけではまだ弱い。きっと、あの3人か4人に倒されるのが関の山だろう。だから、ここからは力を蓄える時間だ。そのためには、強大なエネルギーをもたらしてくれる人が必要だ。

「精々、良い養分になってよね?プレアデス、春風。そして……ユノン!」


~~side ユノン~~

「ガガガ!ドウシタ、ソノ程度カ!?」

「くっ……こいつ、見かけによらず速い……!」

今、ウチはグレンの攻撃を躱し続けている。大振りなので回避は出来るが、何しろ手数が多い。そこに、たまに隙の短い突き攻撃なんかが混ざるので、油断できない。そして何より、動きが速い。これだけ大型のゴーレムなので、もっと鈍重な動きをすると思っていたのだが……流石、軍のトップを任されるだけのスペックはある、というわけか。

でもウチだって、ただ避けてるわけではない。相手の攻撃パターンを予測し、より安全性を高める。本来ならタンクがこなすべき仕事だが、生憎今回はウチ1人。序盤に攻め手に欠けるのは仕方ないのだ。

そういえば、さっきから随分と身体が軽い。特にバフがかかってる様子もなく、雪ダルマの言うように、本当に何か身体に変化があったのかもしれないな、と思いながら、相手の袈裟斬りを横跳びに回避。即座に斧を足場に頭上に駆け上がる。跳躍し、空中で宙返りして姿勢を制御。そして撃つ!

「【スパークウェイブ】!」

文字通り、電磁波を飛ばして攻撃するスキル。シンプルで威力は高くないが、その分発生が速く、取り回しが良い。空中からの不意打ちにはピッタリだろう。

「フン、効カンワ」

まあ、ですよね。いくら電気に脆弱なゴーレムとはいえ、素のHPが高ければ耐えられるのも無理はない。でも、そんなことは織り込み済み。むしろ、次が本命だ。ウチは着地してすぐに、二の矢を放つ。

「【ボルテック・スフィア】!」

文字通り電磁波の半球を、グレンを中心に展開させる。あれは半球内にいる敵に電気ダメージを与え続ける、光属性錬金術の1つだ。光属性という割に黒い色が混じっているのは、恐らくさっきのと同じように、闇属性系の1つ、重力がかかっているからだろう。現に、周囲の岩や瓦礫が少しずつ吸い込まれている。

「グオオオオオッ!?」

よし、効いてる効いてる。少し前に分かったことだが、グレンは対陸戦闘力が非常に高い一方で、空からの攻撃への対処が難しいようで、防御してから動き出すまでに少し時間がかかっていた。そこを逃さず撃ったのだ。これで、暫く動けまい。今のうちにMPを回復しておこう。

そう思っていたところ。

「ッ!!?」

背後から急速に接近する敵影あり。ウチの索敵スキルが警鐘を鳴らしていた。咄嗟に振り返る。そこには、半球に囚われているはずのグレンがいた。

(な、どうして……!?)

とにかく逃げなきゃ!そう思ったのも束の間。急に上体を翻したことが災いしたのだろうか、ウチは足を絡ませて尻餅をついてしまった。目の前に、いないはずのグレンが迫る。しかし今度は、斧に首を捧げる気にはなれなかった。今は、倒れるわけにはいかないんだ。

しかし、スキルも間に合わない。立ち上がることも出来ない。仲間2人は他の相手で手一杯。このピンチは1人では何も出来ない。ダメだ……やられる。

(ごめん……フーちゃん)

ギュッと目を瞑る。瞬間、耳を劈くような爆音に驚き、爆風に軽く身体が吹き飛ぶ。一体、何が起こったのか……?見ると、迫っていたグレンの身体が後方に吹き飛んでいた。その身体の各所から黒い煙を立ち上らせて。

「これは……プレアデスの!」

そういえば、彼は王都前の各所に対大型モンスター用の地雷を散布していた。何でも、ウチらプレイヤーやNPCが踏んでも作動することはなく、ゴーレムのように重いモンスターが踏むことで初めて起爆するんだとか。おかげで助かった。

「ガガ……命拾イシタナ……」

目の前のグレンが立ち上がる。と共に、背後から声がする。チラッと振り返ると、グレンが片膝をついていた。なるほど、謎が解けた。よく見れば分かる話だが、脚の本数が半分になっている。グレンの脚は、左右2本の大脚に4本の脚が付いた8本足構造だった。それが今は4本のみ。つまるところは。

「分裂って……それはズルくないかなぁ」

この強さのゴーレムが、2体。しかも、身体が半分になったことで軽くなっており、さっきよりも素早い。パワーは若干失われているだろうが、正直1人で2体を相手する方がよっぽど辛い。さっきのラッキーパンチも期待しない方が良いだろうし、ウチの不利に変わりはない、か。

2体のグレンが突撃してきた。やっぱり、さっきより速い。後ろ跳びで回避。電気系のスキルで牽制しつつ、距離をとる。攻撃……の暇はないな。回避。くっ、さっきまで1体牽制すれば動きが止まったのに、これではキリがない。スキルの乱発もできない。クールタイムもあるし、外した時のリスクが大きすぎる。だから、1発が限度なのだ。

その後も、避けては牽制してを繰り返す、苦しい展開が続いた。大技を使わない分MPにはまだ余裕はあるが、問題はスキルだ。色々なスキルを駆使したため、残っているのは発動する暇のない大技と、クールタイムの短い数個のみ。次の次の展開を予測しながら使わないといけないため、ウチの頭は疲労を重ねていた。

「ガラ空キダ!」

「うぁっ……!」

一瞬立ち止まった時、身体の側面からタックルを決められる。斧でないとはいえ、仮にも鋼鉄の巨体による体当たり。無事で済むはずもなかった。さっきの雪ダルマのように身体が吹き飛ばされ、宙を舞う。急な出来事に、身体の制御が追いつかない。それを見逃してくれるグレンではなかった。

「ガガ……【パラライズ・ショック】!」

「あああぁぁあぁぁぁっっ!!」

もう片方のグレンだ。空中で何も出来ずにいるウチに、外すことなく決めてきた。コイツ、そういえばまだスキルを使っていなかった……所詮ウチでは、本気を引き出すことすら出来なかったということか。

受け身を取れずに着地。さっきのスキルで《麻痺》がかかっていて、まともに挙動を取れなかったからだ。加えて、タックルと着地でHPも半分を切った。身体が、悲鳴をあげている。

何とか視線をグレンの方に向ける。ヤツは分裂体と合流すると、優雅に元の状態に戻っていた。その様子がどうにも腹立たしく、そして悔しく思えてならなかった。大きな力を前に、何もできない。フーちゃんが味わったのも、きっとこんな感情だったのだろう。

「ガガガ……シブトイ奴メ。ダガ、コレデ終ワリダナ」

合体を終えたグレンが、のそのそと近づいてくる。やめろ……来るな……。心ではそう思っても、どこかに隠し続けていた恐怖が顔を覗かせたか、まともに声を絞り出すこともできない。勝利を確信したように、敢えて余裕を晒すように……さっきまでの高速戦闘が嘘みたいに、ゆっくりと歩みを進めてくる。

きっと、虚ろな目をしていたんだと思う。恐怖や怒りの感情は、いつしか諦めに変わろうとしていた。ダメだ……勝てない。ネガティブな思考が、にじり寄るようにウチの頭を満たしていく。精一杯、抵抗はした。でも、敵わなかった。届かなかった。だから、もう無理だ……。1人では、何も出来なかった。ウチ1人では……。

暗い海に沈むように、ウチの意識は溶けていった。



………



『痛いよ、怖いよ……助けて……ご主人様!お父さん!』



………



『ぐ、あぁぁぁっ、脚が……だが、私は屈しないぞ。あいつが……ご主人の元に帰るまでは!』



………



「……ッッ!」

まだだ、まだ諦めちゃダメだ!

ゴーレムが進軍する危険地帯を、危険を承知でギリギリの高さまで降りて、ウチらに分かりやすいように飛び続けてくれたホーちゃん。自分の娘を助けるために、命と引き換えにウチの元へ逃がしてくれたフーちゃん。

彼らが感じた恐怖は、もっと大きかった。彼らがその身に受けた痛みは、もっと痛かった!

「心配スルナ……ガガ。オ前モスグニ、アノ鳥ノ元ニ送ッテヤロウ」

ふざけるな。ウチはまだ死ねないんだ。ゲームだろうとなかろうと、生き返ろうとなかろうと関係ない。ただ、グレン……お前を消し炭にして、フーちゃんの仇を討つまでは、死にたくない。死ぬわけにはいかないんだ!

ぐっ……身体が麻痺で動かない。動け、動け、動け!

神でも良い。悪魔でも良い。もう一度立ち上がって、コイツと戦うための力を貸してくれ!

「う……ごけ、動け、動け!!」

ウチの手。ウチの足。ゲームのシステムなんかに負けるな!ウチのためじゃない。ウチの一番大切なもののために!

お願い……誰か、力を貸して。

戦うための……守るための……力を!!



………



ーーー称号《生への渇望》を獲得しました。

ーーー感■■ント■■■シ■テムが■カイ■を突破。称号《生への渇望》は究極称号《真理を超える意志オーバーロード・マインド》に派生進化しました。

ーーー『真影』との交信を確認……条件が揃いました。エクストラスキル群【真影術】を解放します。

ーーースキル【真影術の壱・遷し身】を獲得しました。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。 ─────── 自筆です。 アルファポリス、第18回ファンタジー小説大賞、奨励賞受賞

【VTuber】猫乃わん太 through Unmemory World Online【ぬいぐるみ系】

mituha
SF
「Unmemory World Online」通称「アンメモ」は実用、市販レベルでは世界初のフルダイブ方式VRMMOである。 ぬいぐるみ系VTuberとして活動している猫乃わん太は、突然送られてきたベータテスト当選通知に戸惑いつつもフルダイブVRMMO配信を始めるのだったが…… その他の配信はこちら https://kakuyomu.jp/users/mituha/collections/16817330654179865121 777文字で書いた短編版の再編集+続きとなります。

俺の職業は【トラップ・マスター】。ダンジョンを経験値工場に作り変えたら、俺一人のせいでサーバー全体のレベルがインフレした件

夏見ナイ
SF
現実世界でシステムエンジニアとして働く神代蓮。彼が効率を求めVRMMORPG「エリュシオン・オンライン」で選んだのは、誰にも見向きもされない不遇職【トラップ・マスター】だった。 周囲の冷笑をよそに、蓮はプログラミング知識を応用してトラップを自動連携させる画期的な戦術を開発。さらに誰も見向きもしないダンジョンを丸ごと買い取り、24時間稼働の「全自動経験値工場」へと作り変えてしまう。 結果、彼のレベルと資産は異常な速度で膨れ上がり、サーバーの経済とランキングをたった一人で崩壊させた。この事態を危険視した最強ギルドは、彼のダンジョンに狙いを定める。これは、知恵と工夫で世界の常識を覆す、一人の男の伝説の始まり。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

【完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。

鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。 鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。 まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。 ──────── 自筆です。

癒し目的で始めたVRMMO、なぜか最強になっていた。

branche_noir
SF
<カクヨムSFジャンル週間1位> <カクヨム週間総合ランキング最高3位> <小説家になろうVRゲーム日間・週間1位> 現実に疲れたサラリーマン・ユウが始めたのは、超自由度の高いVRMMO《Everdawn Online》。 目的は“癒し”ただそれだけ。焚き火をし、魚を焼き、草の上で昼寝する。 モンスター討伐? レベル上げ? 知らん。俺はキャンプがしたいんだ。 ところが偶然懐いた“仔竜ルゥ”との出会いが、運命を変える。 テイムスキルなし、戦闘ログ0。それでもルゥは俺から離れない。 そして気づけば、森で焚き火してただけの俺が―― 「魔物の軍勢を率いた魔王」と呼ばれていた……!? 癒し系VRMMO生活、誤認されながら進行中! 本人その気なし、でも周囲は大騒ぎ! ▶モフモフと焚き火と、ちょっとの冒険。 ▶のんびり系異色VRMMOファンタジー、ここに開幕! カクヨムで先行配信してます!

もふもふと味わうVRグルメ冒険記 〜遅れて始めたけど、料理だけは最前線でした〜

きっこ
ファンタジー
五感完全再現のフルダイブVRMMO《リアルコード・アース》。 遅れてゲームを始めた童顔ちびっ子キャラの主人公・蓮は、戦うことより“料理”を選んだ。 作るたびに懐いてくるもふもふ、微笑むNPC、ほっこりする食卓―― 今日も炊事場でクッキーを焼けば、なぜか神様にまで目をつけられて!? ただ料理しているだけなのに、気づけば伝説級。 癒しと美味しさが詰まった、もふもふ×グルメなスローゲームライフ、ここに開幕!

ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ
ファンタジー
ブラック企業『アメイジング・コーポレーション㈱』で働く経理部員、高橋翔23歳。 理不尽に会社をクビになってしまった翔だが、慎ましい生活を送れば一年位なら何とかなるかと、以前よりハマっていたフルダイブ型VRMMO『Different World』にダイブした。 今日は待ちに待った大規模イベント情報解禁日。その日から高橋翔の世界が一変する。 ゲーム世界と現実を好きに行き来出来る主人公が織り成す『ハイパーざまぁ!ストーリー。』 計画的に?無自覚に?怒涛の『ざまぁw!』がここに有る! この物語はフィクションです。 ※ノベルピア様にて3話先行配信しておりましたが、昨日、突然ログインできなくなってしまったため、ノベルピア様での配信を中止しております。

処理中です...