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メビウス

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第4章 焔の中の怪物

第21話 二者合一

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「『ッ!!』」

意識が身体に接続される。今度はウチと影ちゃん、2人の意識が合わさった状態で、ウチのアバターに入り込んだ。アバターはというと、影ちゃんが跳躍したあの高さから、絶賛落下中だった。え、こういう合体シーンでも宙に浮かせてくれたりとかしないのね!?わあ、やっぱこのゲーム鬼畜!

『とりあえず着地するわよ!合わせてね』

「オッケー!」

因みに今、口は動かしていない。どうやらウチら2人がやり取りをする分には、口から発さずとも念話で意思疎通が取れるみたいだ。まあ、今は同じ身体を共有しているし、当然といえば当然だが。と、そんなことを考えているうちに、そろそろ着地だ。

「『せーのっ!』」

着地の衝撃を、ローリングで地面に逃がした。HPも着地前から殆ど減ってないし、初めてにしては上出来じゃない?どうやら身体の制御は影ちゃん、意識コントロールはウチが担当らしい。といっても、今みたいに大事な動きは、ウチも手伝う必要があるようだが。

「ガ、ガガ……ナンダ、ソノ姿ハ!?」

グレンだ。早いな、もう追いついたのか。さて、どう言おうものか……。まあ、こういうのは多少大袈裟でも強気でアピールするのが効果的っていうからね。

「『これがウチの真の姿だ!』」

とでも言っておこう。実際今の時点ではそういう扱いだし。でも、あのスキルツリーを見る感じだと、まだ続きがありそうなんだけどね……。

「真ノ姿……ガガガガガッ!面白イ!ナラバ、諸共粉砕シテヤロウ!」

うわー、このグレンも改めて見ると随分な戦闘狂なんだな。さっきは感情が昂っていたせいで色々頭が回ってなかったけど……影ちゃんがいてくれるからか、今は周りがちゃんと見える。すっきりと冴え渡って、必要な情報がしっかり入ってくる。そして、グレンに勝てるという自信も。

『行くよ、まずは感覚を慣らしてね』

「うん、任せて!」

影ちゃんとの相槌も終わった。心の準備もよし。使えるスキルは……どうやら、ウチのと影ちゃんのが両方使えるらしい。チートかな?スキルの発動タイミングは多分ウチの制御だし、気を抜かないようにしなくちゃ!

「『行くぞ、グレン!』」

「来イ!勝負ダ!!」

先手はウチらだ。影ちゃんの身体の制御に合わせて、ウチが必要なコントロールを加えていく。半自動操作のようなものだ。って、さっきよりずっと速い!?一瞬で懐まで来ちゃった。

『ッ!』

ウチが狼狽えたのを察してか、影ちゃんは一撃軽く加えただけで間合いから離れた。ちょうど、行って帰ったような感じだ。

『しっかりして』

「こ、こんなに速いなんて聞いてない……」

『今のが大体全力の7割くらいだから、把握よろ』

「これで7割……これで……うん、頑張るよ」

既にかなりGがかかってキツかったんだけど。多分、プレアデスの空中移動と同じくらいには速かったよ?その上がまだあるとなると……ははっ、ウチはとんでもない助っ人を味方につけてしまったのかもしれない。

『次、同じくらいの速さでスキル使うから、準備お願い』

「了解!」

そうこうしてる場合じゃない。今は戦闘中なんだ。もっと気を引き締めなくちゃ!ウチの身体がしっかり踏み込む。そして、地面を蹴る!凄い、どんなスキルを使おうとしてるのかが、ちゃんと頭に浮かんでくる。初見のスキルだ。つまり、これは影ちゃんのスキルか。えっと、使うスキルは突進系。となると移動距離や初速を考えて逆算すれば……。

「ここかな!」

『よし!【ブラックチャージ】!』

両手に持った短剣を前面に突き出す。黒いオーラのようなものを纏った短剣は、瞬く間にグレンを通過する勢いに乗って、ヤツの鳩尾を捉えた。ゴーレムにとって鳩尾が急所になるとは限らないだろうが、十分な一撃だったと思う。

『ま、初めてにしては上出来よ……それより、来るわ』

「うん」

体勢を整える暇もなく、今度はグレンが迫る。ウチが避けようとする頃には、影ちゃんによって既に回避できている。自動操作って便利だなぁ。でも、ウチの意識コントロールがなってないと、重要なアクションで失敗するらしい。なので、常にウチも緊張感を持って臨まなくてはならない。そう、あくまでこの身体を真に制御しているのはウチなんだ。

そこから、一進一退の攻防が続いた。途中で再び2体に分裂されたけど、さすがにこっちも合体しているだけのことはあるみたいで、さっきのような防戦一方とはならなかった。良いぞ、グレンに抗えている。でも、それだけじゃダメだ。勝たなきゃ。フーちゃんの仇をとるためにも。

すんでのところで攻撃を回避。もう一方を牽制しつつ、攻撃してきた方にスキルで攻撃する。身体の制御の大部分を影ちゃんが担っているお陰で、2体のグレンに対しても問題なく思考する余裕が出来ている。スキルの数もほぼ2倍になったことで、ジリ貧になる心配も少ない。だが、しかし。

「火力足りなくない!?」

『うっ……短剣系スキルの小回りの良さが裏目に出てるわね』

マズいな。いくらステータスに補正がかかっているとはいえ、相手は元より耐久力の高いゴーレムだ。それも、恐らくボス個体の。レイドボスではないにしろ、これでは倒し切れない。いずれウチらが疲労した時、連携が崩れた時に負けが濃厚になる。相手が回復手段を持っていれば尚更だ。

何か……ウチにできることは。身体の制御を影ちゃんが行なっている以上、どうしても相性のいい短剣系スキルが中心の戦い方になる。かといって、2体のグレンとの高速戦闘の中に、高威力の錬金術を準備するだけの余地はない。せめて、こっちも分裂とかできればいいのに。

「ん?分裂……てことは、分業。待って、分業ならできるかも!」

『何か思いついたの?』

「うん!とりあえず、ここからはウチの指示通りに身体を動かしてほしい。それと、なるべくスキルは使わないで」

『無茶言うわね……まあいいわ。やってやろうじゃない』

ウチが考えついた作戦。それは、逃げ回りながら地面に大規模な錬金術を仕込むというもの。元々、今のウチは身体を影ちゃんが、内面をウチが担当している。そして、何かしらスキルを使う度に、ウチの制御が必要になる。要は、発射ボタンだけを握っているような状態だ。

しかし、それは裏を返せば、スキルさえ使わなければウチは事実上ということ。つまり、大規模なスキルの詠唱やら準備やらを、身体を動かすのを任せて行うことができる。なるほど、やや面倒な操作システムだと思ったら、この体制の強みはここにあったか。早めに気がついてよかった。

「フン、逃ゲ腰ナ!正々堂々ト戦ッタラドウダ!?」

「『2体に分裂してるあんたに言われたくはないね!悪いけど、ウチにもウチのやり方があるのよ!』」

あ、因みに今ウチは喋ろうと思って喋ったわけではない。影ちゃんが代弁してくれているのだが、どうも外向けに声を発声する時は必ずこの二重ボイスになるみたいで、ウチも一緒に喋ってるみたいになるらしい。ややこしいね。ウチはというと、錬金術の概略のイメージに勤しんでいる。そう、この場でチェインスキルを作るのだ。

雪ダルマは、スキルのイメージを漠然と浮かべ、何回も試行を繰り返すことでチェインスキルを作る。プレアデスの場合は、時間をかけてイメージを磨き上げることで、1発で成功させるやり方だ。このように、普通チェインスキルを作るのには少なからず時間がかかる。今からイメージを始めるのでは勿論間に合わない。

だから、考え方を変える。彼らの作ってきたものの素材はどれも、一つのスキルとして完成されたものばかりだ。だけど、勿論構成要素が未完成なものでも、チェインスキル自体は成立する。そこで、詠唱の中にいくつもの錬金術を挟み、それらを複合して使うことで無理やりチェインスキルとしてこぎつける。

「【種子生成シード・ジェネレーション】」

錬金術の素材には、錬金術の媒体として「種」を使う。これは任意の数MPを消費し、その量に見合った分だけ『錬金術の種』を生成するスキル。ここにMPや使用する錬金術のイメージを吸わせて保存すれば、あとは好きなタイミングで「発芽」させることができる。コスパはかなり悪いけど、それ以上に魅力のあるスキルだ。

「よし、大体こんなものかな!」

『ユノン、キリが良ければ一旦奴らを牽制するのにスキル使いたいんだけど良い?』

「今なら大丈夫!良いタイミングで合図出して」

使うスキルは……ふむふむ、拘束系か。これなら動きを止められる分、こっちもやりやすくなる。流石影ちゃんだな。普通こういうのって最初はよく状況の判断を誤ったりするのが当たり前なんだけど、彼女の場合なんだろ、すでにあらゆるものを見透してる感じがする。実はかなり凄い存在なのかもしれない。

『今!』

「【グラビトン・ジェイル】!」

使用した敵の足元の重力を上げて動きを止める、影ちゃんのスキルの一つらしい。これで、2体いるグレンの片方を止めた。どうやら闇属性、特に重力系が得意みたいだ。この手の身体の重い敵には効果的面だろう。ちょうどこれから作るスキルのコンセプトにも合っているし、折角だから付け加えておこう。

「よし。じゃあ詠唱始めるから、上手く逃げ回ってね!」

『分かったわ。あんたを信じる』

そうして、意識の少し外でウチの身体が動く。分裂状態のグレンは速いとはいえ、流石に元の機動力はこっちに分がある。やられる心配はしなくて大丈夫だろう。さっき生成した種子を手に握る。さて、ここから集中しなくちゃ。何しろ、1発で成功させないといけないんだから。
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