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第5章 失われたもの、大切なもの
第28話 懐刀
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「ハ……ル…………」
「ごめん…………お待たせ。もう、大丈夫だよ」
振袖でそっと包みながら、優しく僕を抱く彼女は、今まで以上にとても、とても心強く思えた。
「待っててね、すぐ終わらせるから」
そう言うと、ハルは僕を地面に座らせ、あのジルコニウスと対峙した。……よく見ると、いつのまにか僕の手に何かが握らされていた。これは、カンナさんのポーション……?
「カンナさんから貰ってきたよ、一番良いやつを。今はそれを飲んで、ゆっくり休んでて」
刀を抜きながら、彼女は続ける。
「さて、ボクの大切なものを傷つけたのは、君で間違いなさそうだね……?」
声が揺れている。抑えているんだろうが、怒っている。本来他人であったはずの僕が、彼女に酷いことをしてしまった僕が傷ついていることに、ちゃんと怒ってくれているんだ。僕は今、神に赦しを賜ったような気分になっていた。また涙が、一筋流れる。
「人聞きの悪いことを言わないで下さい。私はただ、私の領域を穢す侵入者を排除しているだけです。そこに悪意も何も、ありはしません」
「嘘だね。プレア殿を何やら実験に使うつもりだったんでしょう……?隠しても無駄だよ。ボクは、全部知っているんだから」
「……やれやれ、今日は全く次から次へと、しつこいのがやってくる……。良いでしょう、貴女もまとめて、排除して差し上げましょう」
仮面の男の声に凄みが増す。と同時に、ジルコニウスのアームの先端が変形していく。これは……。
「気をつけて、ハル!ドリルだ!!」
「大丈夫。ボクは負けないから」
僕は思わず叫んでしまったが、彼女は僕に目を配ることもなく、一蹴した。その言葉には、不思議と彼女に全幅の信頼を置いてしまうような、自信に満ちたオーラが混じっていた。
ジルコニウスの攻撃が来る。ドリルを高速回転させながら、ハルめがけてアームを振り下ろす。だが、それが地面にめり込み嫌な音を掻き鳴らした時、ハルは既にその上空まで移動していた。
「遅い」
僕の耳にその呟きが届く頃には、彼女は次の動作に移っていた。空中で小春を抜き、溶けて脆弱になった外装目がけて突進した。……速すぎて目で追えなかった。ハルの持ち味だった高速の刀剣術は、既に瞬間移動の領域まで達しつつあったのだ。
「……【閃刀:朧車】」
しかし、彼女の攻撃はまだ終わらない。突進の勢いをそのまま利用して、猛烈な回転斬がジルコニウスを襲う。今までハルがこの組み合わせで攻撃しているのは見たことあったが、こんなに激しいものではなかった。それに、そのスキル名も初耳。となれば、考えられるのは一つ。
(新しい、チェインスキル……)
僕はその事実を嬉しく思いつつも、どこか寂しさを感じずにはいられなかった。
僕達は元々、2人揃って成り立つようなチームだった。勿論、今でもそのコンビネーションは健在だ……と、自負している。だが、時が経ち、経験を積めば、当然2人とも成長する。今まで力を借りないと出来なかったことが、1人でもできるようになっていく。当たり前のことだ。
でも、僕は不安になってしまった。ハルが成長することで、僕はお荷物になってしまうんじゃないか、と。彼女が戦って僕を守ってくれていたように、僕も僕にしかできないことをして、彼女をサポートしていた。
なら、装備を一通り作り終えてしまった今、僕は彼女に何ができるだろうか。こと戦闘においては、リアルで剣道を続けていたハルを超えることは難しい。それにチェインスキルだって、彼女ならいつか、僕の力を借りずとも、1人で考えられるようになるんじゃないか、と思っていた。それが今、とうとう目の前で実現したのだ。
「ハル……僕は君に、何をしてあげられるっていうんだ……」
目の前で奮戦する彼女を眺めつつ、僕は誰にも聞こえない声をあげる。いつからだろう。僕はこの世界で、彼女の役に立ちたいと思っていた。それがハルにとって恐らく、大して重要じゃないことにも気づいた上で、だ。それは、ハルへの恩返しというのもあるけれど、それ以上に単に僕がもっと彼女のことを知りたい、仲良くなりたいという願望からだった。
「【真空波斬】」
だから僕は、単独行動をするようになったんだ。ハルにはできない、僕なりの行動によって、貢献しようとしていた。勿論、ハルを巻き込みたくないという思いもあったのだが、結局のところは良いところを見せたいだけだったのだ。けど、それで助けてもらってるんじゃ意味ないよなあ、と肩を落とす。
でも同時に、安心している自分もいる。ハルが出て行ったあの日、僕は酷い後悔と不安に駆られていた。スロウの件でも、今回の研究所調査の件でも、僕はハルを頼らず1人で片付けようとした。その結果、彼女に見限られてしまったのではないか、と。だから、こうして来てくれたことが何よりも嬉しい。色々な感情はあるけれど、今この瞬間において、これに勝るものは何もない。
「貴女……なかなかお強いですね。このジルコニウスにここまでの損傷を与えるとは」
「プレア殿が勝ち筋をこじ開けてくれたおかげだよ。そういう君は、あまり戦いを望んでいないように見えるけど……?」
「ほう……そこまで見通していましたか。確かに、私は彼を排除したい……ですが、今のまま戦いを続ければ、いずれ私が敗北することが目に見えていますからね。私は、勝てぬ戦いはしたくないのですよ」
そう言うと、仮面の男はハルから距離をとり、機体を空中に浮かせた。そして、自らコックピットの窓を開けて言葉を続ける。
「良いでしょう、今回は見逃してあげます」
視線が僕に向けられる。仮面の奥で光る眼が、鋭く僕を貫く。
「貴方、名前は?」
「……プレアデス」
「その名前、覚えましたよ、プレアデス。貴方が持っているものは確かに、この世界の歴史に関わる重要な情報だ……歴史を紐解いて何をしようとしているのかは存じ上げませんが、私の管理するものを踏みにじるのであれば……」
その瞬間、ジルコニウスから閃光が放たれる。あまりの眩しさに、思わず僕達は目を瞑った。
「その時は、今度こそ排除するので……お覚悟を」
光の中からその声が消えると、すぐにその光も消えたようだ。目を開けると、もうあの男の姿はなかった。周りには瓦礫になった機動兵だったものが、そこかしこに散乱しているだけだった。
「逃げたのか……ッ!?」
僕が呟いたその時、ハルが音もなく僕に抱きつく。えっ?ちょっと……えっ!?突然の事態に少しパニックになりかける。
「……バカ。余計な心配、させないでよ」
「…………ごめん」
たったその一言で、全てが吹き飛んだ。最初から、何も心配する必要はなかったんだ。胸にじんわりとこもる湿り気が、何よりの証拠だ。なのに、勝手に不安になって、勝手に1人で行動して、勝手に追い詰められていた自分が……何だか凄く、バカらしく思えて仕方なかった。
───『仮面の研究所長』マスクドAが戦闘区域から撤退しました。あなたの勝利です。
───プレイヤーレベルがアップしました。(Lv.45→47)
───称号《不屈の生存者》を獲得しました。
プレアデス Lv.47
種族:ホムンクルス/職業:宝石技師Lv.36
HP:700→750(+250)
MP:200(+360)
STR:100(+50)
VIT:80→90(+50)
AGI:0(+30)
INT:60(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:30
SP:10→0
頭…なし
胸…バトラースーツ
右手…噴炎する竜骨牙の戦槌
左手…-
脚…バトラートラウザーズ
足…執事の革靴
特殊…蒼穹のタリスマン
特殊…聖炎筒イフリート
特殊…空間機動ベルト
所持金:226700G
満腹度:30%
装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加(火炎) 《火傷》付与(高) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒) 対魔特効 《火傷》無効
称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》《禁忌の扉》《炎纏いし者》《運命の赤い糸》《昨日の敵は今日の友》《精霊を宿す者》《神域に至る者》《不屈の生存者》
生産スキルセット(12/12)
【統合強化】【金属探知】【分解】【精錬】【拡大鏡】【簡易調整】【宝石融合】【宝石分解】【宝石変換】【交渉術】【覚醒強化】【宝石加工】
戦闘スキルセット(14/14)(装備中)
【硬化】【宝石片弾】【ジェットファングⅡ】【付加:陽炎柱】【脆弱化】【ジェノサイド】【精霊喚起】【付加:炎獄】【ドラゴンフレイム】【宝石爆烈弾】【退魔の神炎】【幻影化】【ナパームボム】【焔体錬成】
チェインスキル:【連鎖爆破】【バーストスマッシュ】【桜花壊塵撃】【ヴォルカニック・ゲイザー】【レヴァテイン】
進行中のクエスト:『王都に眠る蒼い石』『錬金術と歴史の裏側』
「ごめん…………お待たせ。もう、大丈夫だよ」
振袖でそっと包みながら、優しく僕を抱く彼女は、今まで以上にとても、とても心強く思えた。
「待っててね、すぐ終わらせるから」
そう言うと、ハルは僕を地面に座らせ、あのジルコニウスと対峙した。……よく見ると、いつのまにか僕の手に何かが握らされていた。これは、カンナさんのポーション……?
「カンナさんから貰ってきたよ、一番良いやつを。今はそれを飲んで、ゆっくり休んでて」
刀を抜きながら、彼女は続ける。
「さて、ボクの大切なものを傷つけたのは、君で間違いなさそうだね……?」
声が揺れている。抑えているんだろうが、怒っている。本来他人であったはずの僕が、彼女に酷いことをしてしまった僕が傷ついていることに、ちゃんと怒ってくれているんだ。僕は今、神に赦しを賜ったような気分になっていた。また涙が、一筋流れる。
「人聞きの悪いことを言わないで下さい。私はただ、私の領域を穢す侵入者を排除しているだけです。そこに悪意も何も、ありはしません」
「嘘だね。プレア殿を何やら実験に使うつもりだったんでしょう……?隠しても無駄だよ。ボクは、全部知っているんだから」
「……やれやれ、今日は全く次から次へと、しつこいのがやってくる……。良いでしょう、貴女もまとめて、排除して差し上げましょう」
仮面の男の声に凄みが増す。と同時に、ジルコニウスのアームの先端が変形していく。これは……。
「気をつけて、ハル!ドリルだ!!」
「大丈夫。ボクは負けないから」
僕は思わず叫んでしまったが、彼女は僕に目を配ることもなく、一蹴した。その言葉には、不思議と彼女に全幅の信頼を置いてしまうような、自信に満ちたオーラが混じっていた。
ジルコニウスの攻撃が来る。ドリルを高速回転させながら、ハルめがけてアームを振り下ろす。だが、それが地面にめり込み嫌な音を掻き鳴らした時、ハルは既にその上空まで移動していた。
「遅い」
僕の耳にその呟きが届く頃には、彼女は次の動作に移っていた。空中で小春を抜き、溶けて脆弱になった外装目がけて突進した。……速すぎて目で追えなかった。ハルの持ち味だった高速の刀剣術は、既に瞬間移動の領域まで達しつつあったのだ。
「……【閃刀:朧車】」
しかし、彼女の攻撃はまだ終わらない。突進の勢いをそのまま利用して、猛烈な回転斬がジルコニウスを襲う。今までハルがこの組み合わせで攻撃しているのは見たことあったが、こんなに激しいものではなかった。それに、そのスキル名も初耳。となれば、考えられるのは一つ。
(新しい、チェインスキル……)
僕はその事実を嬉しく思いつつも、どこか寂しさを感じずにはいられなかった。
僕達は元々、2人揃って成り立つようなチームだった。勿論、今でもそのコンビネーションは健在だ……と、自負している。だが、時が経ち、経験を積めば、当然2人とも成長する。今まで力を借りないと出来なかったことが、1人でもできるようになっていく。当たり前のことだ。
でも、僕は不安になってしまった。ハルが成長することで、僕はお荷物になってしまうんじゃないか、と。彼女が戦って僕を守ってくれていたように、僕も僕にしかできないことをして、彼女をサポートしていた。
なら、装備を一通り作り終えてしまった今、僕は彼女に何ができるだろうか。こと戦闘においては、リアルで剣道を続けていたハルを超えることは難しい。それにチェインスキルだって、彼女ならいつか、僕の力を借りずとも、1人で考えられるようになるんじゃないか、と思っていた。それが今、とうとう目の前で実現したのだ。
「ハル……僕は君に、何をしてあげられるっていうんだ……」
目の前で奮戦する彼女を眺めつつ、僕は誰にも聞こえない声をあげる。いつからだろう。僕はこの世界で、彼女の役に立ちたいと思っていた。それがハルにとって恐らく、大して重要じゃないことにも気づいた上で、だ。それは、ハルへの恩返しというのもあるけれど、それ以上に単に僕がもっと彼女のことを知りたい、仲良くなりたいという願望からだった。
「【真空波斬】」
だから僕は、単独行動をするようになったんだ。ハルにはできない、僕なりの行動によって、貢献しようとしていた。勿論、ハルを巻き込みたくないという思いもあったのだが、結局のところは良いところを見せたいだけだったのだ。けど、それで助けてもらってるんじゃ意味ないよなあ、と肩を落とす。
でも同時に、安心している自分もいる。ハルが出て行ったあの日、僕は酷い後悔と不安に駆られていた。スロウの件でも、今回の研究所調査の件でも、僕はハルを頼らず1人で片付けようとした。その結果、彼女に見限られてしまったのではないか、と。だから、こうして来てくれたことが何よりも嬉しい。色々な感情はあるけれど、今この瞬間において、これに勝るものは何もない。
「貴女……なかなかお強いですね。このジルコニウスにここまでの損傷を与えるとは」
「プレア殿が勝ち筋をこじ開けてくれたおかげだよ。そういう君は、あまり戦いを望んでいないように見えるけど……?」
「ほう……そこまで見通していましたか。確かに、私は彼を排除したい……ですが、今のまま戦いを続ければ、いずれ私が敗北することが目に見えていますからね。私は、勝てぬ戦いはしたくないのですよ」
そう言うと、仮面の男はハルから距離をとり、機体を空中に浮かせた。そして、自らコックピットの窓を開けて言葉を続ける。
「良いでしょう、今回は見逃してあげます」
視線が僕に向けられる。仮面の奥で光る眼が、鋭く僕を貫く。
「貴方、名前は?」
「……プレアデス」
「その名前、覚えましたよ、プレアデス。貴方が持っているものは確かに、この世界の歴史に関わる重要な情報だ……歴史を紐解いて何をしようとしているのかは存じ上げませんが、私の管理するものを踏みにじるのであれば……」
その瞬間、ジルコニウスから閃光が放たれる。あまりの眩しさに、思わず僕達は目を瞑った。
「その時は、今度こそ排除するので……お覚悟を」
光の中からその声が消えると、すぐにその光も消えたようだ。目を開けると、もうあの男の姿はなかった。周りには瓦礫になった機動兵だったものが、そこかしこに散乱しているだけだった。
「逃げたのか……ッ!?」
僕が呟いたその時、ハルが音もなく僕に抱きつく。えっ?ちょっと……えっ!?突然の事態に少しパニックになりかける。
「……バカ。余計な心配、させないでよ」
「…………ごめん」
たったその一言で、全てが吹き飛んだ。最初から、何も心配する必要はなかったんだ。胸にじんわりとこもる湿り気が、何よりの証拠だ。なのに、勝手に不安になって、勝手に1人で行動して、勝手に追い詰められていた自分が……何だか凄く、バカらしく思えて仕方なかった。
───『仮面の研究所長』マスクドAが戦闘区域から撤退しました。あなたの勝利です。
───プレイヤーレベルがアップしました。(Lv.45→47)
───称号《不屈の生存者》を獲得しました。
プレアデス Lv.47
種族:ホムンクルス/職業:宝石技師Lv.36
HP:700→750(+250)
MP:200(+360)
STR:100(+50)
VIT:80→90(+50)
AGI:0(+30)
INT:60(+120)
RES:0
DEX:30
LUK:30
SP:10→0
頭…なし
胸…バトラースーツ
右手…噴炎する竜骨牙の戦槌
左手…-
脚…バトラートラウザーズ
足…執事の革靴
特殊…蒼穹のタリスマン
特殊…聖炎筒イフリート
特殊…空間機動ベルト
所持金:226700G
満腹度:30%
装備効果:物質特効(200%) 《出血》付与(高) 【吸血】攻撃(低) 付加(火炎) 《火傷》付与(高) HP回復(5/秒) MP回復(1/秒) 対魔特効 《火傷》無効
称号:《試行錯誤》《伝説を導く者》《読書好き》《宝石採集者》《伝説を錬成する者》《岩砕き》《破壊者》《無慈悲なる一撃》《石工職人見習い》《木工職人の一番弟子》《宝石技師》《禁忌の扉》《炎纏いし者》《運命の赤い糸》《昨日の敵は今日の友》《精霊を宿す者》《神域に至る者》《不屈の生存者》
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チェインスキル:【連鎖爆破】【バーストスマッシュ】【桜花壊塵撃】【ヴォルカニック・ゲイザー】【レヴァテイン】
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