アルケミア・オンライン

メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第18話 最強の盾

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それから何分もの間、スタジアムには衝突音と歓声が響き続けた。レオンが光で牽制し手数で追い込めば、僕が必殺級の一撃で待ったをかける。そんなやり取りが続いた。互いの武器をぶつけ合う度に、ボルテージは上がっていく。戦っている僕達も、それに呼応するように夢中でのめり込んでいった。

だが、そんなやり取りの中で、僕は確かに気づいていた。間違いなく、今劣勢に置かれているのは僕であると。時間は間もなく正午になる。それは即ち、レオンが最も戦闘力を高められる瞬間。そこまで戦いが延びてしまえば、今までの蓄積ダメージでやられるのは僕の方だ。現に、段々と僕が攻撃できる回数が減ってきている。このまま防戦を続けていても、勝機はない。

今重要なのは、この自己分析ができていること。大丈夫、まだ冷静さは欠いていない。それなら、ここから勝てる策を導くまでだ。

「【ブレイズナックル】!!」

「【バーストスマッシュ】!!」

スキルを発動し、攻撃を受ける。やはり、一撃が重くなってきている。このままでは押し切られるのも時間の問題だろう。そうなる前に決着をつけなくては。考えろ、レオンの攻撃を封じ込める方法を。

「グッ……!」

「そこです!!」

僕のガードが崩れたところに、すかさず拳を合わせられる。何とか身体を捩らせ、カス当たりで済ませる。まともに食らったらヤバいということは、何より僕のHPが示していた。

落ち着け、こういう時はメタ的な方向で考えろ……!今戦況はレオンの方に傾いている。だがその中でも、僕が今持っている数少ない有利な点。それは、彼の武器に対する理解度という、情報アドバンテージだ。

あの武器に使った素材は、バーニングレオの素材……そしてそのモンスターは、常に攻撃に炎属性が付与される特性があって、その特性は、爪などの素材にもしっかりと引き継がれている。つまり、レオンの通常攻撃はデフォルトで炎属性。属性攻撃ということは、 付加エンチャントと同じように錬金術が絡んでいる。だとすれば……1つ、実験段階だが対抗策がある。ユノンのような優秀な錬金術師への切り札として、ギリギリで用意していたものだ。最も、まだ理論上可能じゃないか、という仮説の下、何回か実験しただけに過ぎない、ただの博打戦術だが。

「……やるしかないか」

それでも、勝機を生み出す可能性がある時点で、十分試してみる価値はある。一発勝負だ。ぶっつけ本番で成功し、レオンの必殺の一撃に合わせて発動できたら僕の勝ち。失敗して、机上の空論だったと確定したら彼の勝ち……これ以上ない、シンプルな条件だ。

「お互い息も、上がってきた……そろそろ、終わりにしようか」

「…………そうですね。次の一撃で、決着をつけましょう」

どこまでも真っ直ぐな君なら、きっとそう答えてくれると思っていたよ、レオン。その性格のお陰で僕が勝てるかもしれないのだから、感謝すべきだ。最も、君はもう少し人を疑うことを知るべきだろうが。

「全力の一撃を見せてくれ。そうでなければ意味がない」

「もちろん、言われずとも……ッ!!!」

その瞬間、辺りの空気が一変し、神々しいオーラが場内を支配した。濃密なマナが動いているこの感じ、精霊か?

《気をつけろ、ヤツが来るぞ……!》

《イフリート!?ヤツってまさか?》

《ああ。我が力を与え、この世界に顕現した大魔獣……金獅子の到来だ!!》

レオンに後光が差す。金色のアーマーに反射して、より一層輝きを増す。それと同時に、大きなマナの塊が、徐々に形を成し、はっきりと視認できるようになるのを感じた。これは、ユノンさんの従魔に起きた、あの時の現象……!?使用者の強いイメージが現実となって、本来見えないはずのマナを可視化するという。

「はぁ、はぁ…………っ!!どう、ですか!?これが俺の、正真正銘本気100%……【エンゲージ:金獅子レオパルド】!!」

まさか、スキル化していたとは。それにしても、どうしてそんなスキルをレオンが?金獅子に関するシークレットクエストの達成報酬だろうか?

「【エンゲージ】……!まだ、そんな奥の手を残していたなんてね!!」

「へへっ、本当は2回戦以降のためにとっておきたかったんですが……プレアデスさんが相手なら、仕方ないですね!!?」

彼が語気を強めると、それに共鳴するように金獅子は咆哮を轟かせた。これは……思ったよりマズいかもしれないな。今になって出てきたということは、正午近くのフルパワー状態じゃないと出せない可能性もあるが、どのみちこの状態の彼の攻撃を何分も耐え続けるのは至難の業だ。となればやはり、ここで倒すしかない。

「天すら焼き焦がす神の焔よ!この身に宿りし力と共に、万物を平伏させる覇者の咆哮となれ!!」

スキルの詠唱が始まった!さらに出力を上げるつもりだ。僕も、攻撃を受け止める準備をする。

「【魂氣吸収マナドレイン】」


魂氣吸収マナドレイン】消費MP:0 クールタイム:60秒
自身の周囲からマナを吸収しMPを回復する。マナを豊富に含む物質が近くにあるとその吸収量も多くなるが、一度に吸収できるマナの量には限りがある。


必要なのは、内部エネルギーを空っぽにした宝石。それと、膨大なエネルギーを処理できるもの。今回は、タリスマンの輝晶石を使う。こいつは内部エネルギーを一切持たないという性質をもつ物質で、外から受けたエネルギーをそのまま通す……というのが、これまでの僕の知見だった。

「【金獅子の嚇咆ドレッドノート・サンドライブ】!!!」

金獅子の咆哮と共に、太陽のように輝かしい灼熱の火球が放たれる。まともにくらえば、HP満タンでも耐えられるか怪しい。ウルヴァンの攻撃よりよっぽど強く感じる。それほどの迫力があった。だが、僕もあの時みたいに無防備ではない。いかなる錬金術をも鎮める最強の盾を……今呼び起こすからだ。

「蒼穹のタリスマンよ、新たなる姿へ変化しろ!!」

宝石制御ジェム・コントロール】でタリスマンから蒼粒石を分離し、周囲に展開する。これらは、さっきのスキルでエネルギーを抜いた蒼粒石達だ。こうすることで、宝石が持つエネルギーをより薄い方へと輸送する作用を能動的に起こす。

それと同時に、大量の蒼粒石を生成し前方に浮遊させる。こっちはいわば攻撃を受けて緩和するクッションだ。蒼粒石は自身の作用で周囲のマナに干渉できるため、高密度で配置することで攻撃に含まれるマナを吸収する壁を作ることができるらしい。

火球が衝突する。最前線で僕を守る蒼粒石達が次々と爆発していく。一見無意味な抵抗に見えるが、実は理論上は防御になっている。流れとしては、まずクッションにマナを吸収させ、蒼粒石の誘爆によってエネルギーを放散させる。これを何回も繰り返すことにより攻撃の威力を減衰させつつ、残ったマナをタリスマンのパーツに吸収させる。こっちでは内部エネルギーを抜いているため、誘爆せずにマナの吸収・輸送が行われる。

「相殺されてる……!?押し切れ、レオパルド!!」

さらに火炎放射で追撃してきた。だが、相手がいくら攻撃を上乗せしようとも。

「無駄だッ!!【宝石片弾ジェム・ブラスト】!!」

こちらも緩衝材の蒼粒石を作り続けるだけだ。クッションが増えれば増えるほど、残存するマナも少なくなり、盾はより強固になる。そしてMPは、輝晶石を通して回復し続けているため、尽きることはない。

輝晶石の作用は、今まで外から受けたエネルギーを、そのままの形で急速に透過させるものだと思っていた。しかし、それではタリスマンがHPをも回復できる理由が説明できなかったのだ。僕は長い間、この理由を探し続けてきた。それがつい数日前、突然新たな仮説が自分の中で浮上した。

簡単なことだった。高校化学でも習うことだ。こいつは、何でもかんでも透過するのではなく、透過させるものを選ぶことができる……フィルターを内蔵しているのではないか、と。マナという物質は、例えば現実でいう酸素のように色々な物質とくっ付いている。錬金術攻撃の中にもマナが含まれているのなら、それらに付随するあらゆる成分の中には、当然有害なものも含まれるわけで。だが、もしこの輝晶石がフィルター機能を有していて、マナの純度を高めることができるのだとしたら……僕の身体に吸収されるマナは、ダメージを与えるどころか僕の糧となる、なんてことも想像がつく。

そこから着想を得て、よくゲームで聖なる魔力や純度の高い魔力が傷を癒すことができるのと同じように、この世界でも同じシステムが構築されていても不思議ではない、と判断したのだ。何故ならこの世界は、非科学的な魔法を否定しているように見えて、実際にはマナという魔法じみた物質によってむしろ錬金術もある種非科学的な概念である、という二重否定が施されているから。だから、こういう魔術的な回復手段があってもおかしくはない、と。

「…………」

「そんな、あり得ない…………俺の攻撃が、全部、吸収されるなんて!?」

「ごめんね、昔からこういう勘は……よく当たる方なんだ」

言いながら、輝晶石に溜まったダメージ源を、僕の中に溢れるマナと共に放つ。それは、オリジナルの攻撃よりはいくらも威力が劣るとはいえ、限界まで力を出し切った彼を葬るには、あまりにも理不尽な一撃だった。


───試合終了。あなたの勝ちです。

───『蒼穹のタリスマン』に装備スキル【暴食グラトニー】が追加されました。


暴食グラトニー】消費MP:300 クールタイム:3時間
マナを含むあらゆる攻撃を吸収し、吸収したマナの量に応じてHP&MPを回復する。その後、吸収した攻撃の威力に依存するカウンター攻撃を行う。
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