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メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

閑話 緊急バランス調整会議

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~~side 第1サーバー代表・早瀬~~

「…………どうして、こうなった」

ここは第1サーバー管理課、バランス調整部門。会議室の中、項垂れた私はそうポツリと力無く呟く。本当なら膝から崩れ落ちたい気分だ。だが、そうするわけにもいかない。仮にも私は管理課の代表。こんなことで一喜一憂していては、サーバー運営などまともに務まらない。

「今回の彼の新しいスキル、どう思う?」

「いやぁ、別にバグ技ってわけでもないから否定はできないけど……流石に、どうなんだい?仮にも錬金術をテーマにしたゲームで、理論上錬金術だったら何でも防げる無敵の盾、なんてのはねぇ」

とはいえ、X01……プレアデスの存在が、このサーバーのパワーバランスを良くも悪くも崩しているのは事実。その都度調整に見舞われるのは、現場で働くこちらとしては御免蒙りたいが、一方で優秀なデバッガーであることも事実。もしこのサーバーにいるのが彼だけなら、まだそこまで気に病むことでもなかっただろう。だが……。

「問題なのは……そのスキルが装備スキルだってことじゃないですか?」

「それなんだよなぁ……。チェインスキルなら基本的に本人しか使えないから、よっぽどのことがない限りナーフはしなくていいんだけど。装備スキルの場合、使い方が周知されて量産されたら、下手したら全プレイヤーが使えることになる」

「これまでのは単純な攻撃スキルだったり、装備が特殊すぎて量産が難しそうだから許されてたけど、その点タリスマンはどうだい?彼の手にかかれば、素材があればいくらでも作れそうだ」

「しかも、フレンドに春風とか雪ダルマとかの強豪がいるんだろ?そいつらが使えるようになったら、いよいよ手が付けられないでしょ」

「いえいえ、それを言ったら一番大変なのはテラナイトでしょう!ただでさえ、物理攻撃は殆ど通らないのに、錬金術まで無効化されたら……もう、無敵じゃないですか」

そう、どういう運命の悪戯か、第1サーバーにはプレアデスの他にも、多くの有名プレイヤーが揃っている。前作のベルセリア・ナイツで圧倒的な結果を残し、電子世界の英雄と称されたプロゲーマーの雪ダルマ、そして彼の相棒であるテラナイトやユノン。この3人が揃っただけでも大変なことなのだ。だが、この3人は他ゲームでもよく3人でプレイしているため、まだ想定の範囲内だ。

最大の想定外は、そこにプレアデスと春風という2人のスーパールーキーが入っていたこと。そしてそのプレイヤー達が、早々に出会って意気投合したことだ。いや、プレイヤー達の動向について私達が言及するのはマナー違反だ。だが、バランス調整という観点のみに絞るとするならば、この出会いは私達にとっては致命的な出来事なのだ。

「皆落ち着け……私達の基本姿勢はプレイヤーの自由を最大限に尊重することだ。それに変わりはない」

「ええ、よく分かっていますよ、早瀬課長……しかし、だからといってこのまま何もせずにゲームバランスが崩壊していくのを、黙って見過ごすことはできません」

「いくら運営がプレイヤーに優しくても、たった1つのスキル、たった1つの装備を持っているかどうかで環境に渡り合えるかどうかが決まるのでは、それはれっきとしたクソゲーです」

仮にも運営側が自分達のゲームをクソゲー呼ばわりか……。

「……分かった。では、スキルの使用条件に『使用者が宝石術師またはその派生職業である』という一文を追加しておけ。そうすれば、少なくともプレイヤー全員が使えるという自体は防げるだろう。あの技術は、そう簡単に扱えるものではないからな」

「了解しました。しかし、それを加味しても強すぎるような……」

「うーん、やっぱり錬金術がメインのゲームだからねぇ。あんまり簡単に完封できると面白くないよなぁ」

「……ですが、あまり特定のスキルだけをナーフしてしまうのは、それこそ私達が彼のプレイを意図的に妨害することになりませんか?」

まあ、今回の場合はその特定のプレイヤーの問題だから、仕方がないといえば仕方がないのだが。それでも、あまり1つのスキルだけを、それもこんなに早く修正するのは、運営の姿勢としてはあまり好ましくない。

「あーそれじゃ、いっそのこと一度に出せる宝石の量自体を制限すればいいんじゃないっすかね?それなら、スキルの修正ってよりは仕様変更に落ち着くし、ついでに他のスキルもある程度制限できますよ」

「なるほどな……でも、宝石を使える人が少ない以上、結局個人へのナーフにならないか?」

「んじゃ、職業レベルに応じて出力を上げられるようにするのはどうっすか?それなら、やり込めばかなり多くの宝石を出せるようになるし」

「確かに、無限に出せる今の現状を野放しにするよりは、今のうちにその手を打っておいた方が良いだろうな」



かくして、大会中の突然の仕様変更が行われることになったのだ。実際にその作業が行われた後も、プレアデスがどのような反応を示すか、という心配から胃薬を飲む早瀬だったが、当の本人はというと……?


~~side プレアデス~~

「…………でしょうね。流石に無限防御はやりすぎだったか」



早瀬の思惑とは裏腹に、大して何とも思っていないのであった。
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