アルケミア・オンライン

メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第24話 ブリリアントな輝き

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『あーっと!開始後わずか1分!春風、圧巻の剣戟で敵を瞬殺!!準決勝進出です!!」

ハルの圧倒的な強さに会場が沸騰する。一方の僕はというと……結構焦っていた。

「ヤバいヤバい、思ったより早くない!?間に合うかなこれは……?」

急ピッチで作業を進める。まさか、ここまで早く決着が着くとは。いやまあ、元はといえばログアウトして昼食をとった後、そのままリアルで30分もダラダラ過ごしてしまった僕が悪いんだが。こんなことなら、ログアウトしないで居残り作業しておけばよかった。

「テストしてる暇はないな……よし、【統合強化】!」



───統合強化に成功しました。『蒼穹のタリスマン』『蒼粒石』は『ブリリアント・コア』に統合強化されました。

───職業レベルが上昇しました。(Lv.50→51)

───同時に展開可能な宝石数が51個になりました。(※この変更はイベント終了後に適用されます)



ふむ、やっぱりこういうステータス変化はイベント中には変更できないか……まあ、装備変更ができるだけ良かったとみるべきか。

レオンとの戦いの後、わずか30分で仕様変更が起こった。宝石術師が一度に展開できる宝石の数が元々無制限だったところを、職業レベルの数までしか出せなくなるという制限がかかった。といっても、恐らく宝石術師などという奇怪な職業に就いているのは現状僕だけだろう……そう、つまるところ僕個人への弱体化調整だ。しかも、かなり大幅な。

勿論、50個出せる現時点でも十分多い。イベント前に僕の防具をまとめて統合強化したお陰だ。だがそれでも、宝石を無制限に出して【連鎖爆破】でド派手にぶっ飛ばしたり【暴食グラトニー】で錬金術を実質無効化したり……そういうゴリ押しプレイスタイルはできなくなった。今後はもっと、どこにどれくらいの宝石を割くか考えなければ。

それに恐らくこの感じだと、ただ個数を50個までしか出せないのではなく、50個分のエネルギーしか一度に使えないという意味だろう。個数だけなら【宝石融合ジェム・ボンド】で合体させて個数をちょろまかすことができた。だが、そこは天下のIG社。それくらいのことに気づいていないはずがない。


『ブリリアント・コア』☆7 INT+50 HP20/秒回復 MP20/秒回復
ホムンクルス専用装備。周囲のマナからエネルギーを抽出・吸収し装備者を癒す。逆にマナを送り込むことで、攻撃や防御などのエネルギー源として活動する。装備時、スキル【暴食グラトニー】を使用可能。


「ふぅ……これでよしっと」

レオンとの戦いの中で、僕は新たなスキル【暴食グラトニー】を開花させた。しかし、あまりに多くのエネルギーを要するそのスキルは、タリスマンの輝晶石のエネルギー処理速度を上回り、破損させてしまった。今回は、その修理を兼ねた改良だ。今まで輝晶石にのみ依存していた処理行程を、蒼粒石にも負担させる構造にすることで軽減化した。【魂氣吸収マナドレイン】によってエネルギーを抜いた蒼粒石を使ったのだ。

あとは、新しい機能とスキルの仕様変更についてだけど……これをテストしてる時間はなさそうだ。たった今アナウンスが入った。バトルフィールドの袖で待機しなくてはならない。

「煌……君は一体」

もう1人の宝石使い。どこでそんな力を手に入れたのだろうか。もし僕と同じ力を早々に付けていれば、もっと早い段階で話題になって、僕の耳に入ってもおかしくはなかった。だが、そういう話は今の今まで、一度も聞いたことがない。最近体得したばかりなのか、或いは宝石の力ではないのか。それとも……運営によって与えられた力、とか。

僕は、予選で戦った謎のボロマントの男「Eavesdrop」のことを思い出していた。そのプレイヤー名の意味は……盗聴。明らかに怪しい。僕はあれは、運営がサーバー内の様子を調査するために作成しているキャラクターアカウントだと睨んでいる。そしてそれを、社員か雇われのゲーマーが動かしていた、と。

だとすると、煌もまたテストプレイヤーの1人なんだろうか。それで僕と同じ宝石の力を手にしたアカウントで僕との接触を図った?考えられなくはない。

「わわわ、来ましたね、プレアデスさん……!憧れの人と戦えるなんて……」

「煌……」

フィールドに足を踏み入れると、煌が待っていた。そうか、そういえば僕の大ファンだとか何だとか言っていたな…………まずはそれの真偽を確かめるとするか。

「いつから僕のことを知っていたの?

「そうですね……ここに来る前から、ですかね」

いや、何だその答えは。アルケミア・オンラインより前から僕のことを知っている人なのか?或いはまさか、リアルバレ……!?もしそっちならまあまあ面倒なことになるが。

「とりあえず、タメ口でいいよ。堅苦しいのは、あんまり得意じゃないし」

「そうですか?では……お言葉に甘えて」

「煌のスターフィールド、だっけ?凄い技術だよね。それに、とても綺麗だ」

「ありがと。昔から、星を見るのが好きだったからね……」

ふむ、言葉遣いを楽にさせることで本性を出してくれるかと思ったけど……そう易々と探らせてはくれないか。なら仕方ない、とりあえず本題に入ろう。

「その技術、見覚えがあるんだけど……もしかして、宝石?」

「…………さあ、どうでしょう?」

「…………」

煌の目をじっと見る。その目は、揺らぐことなく真っ直ぐこちらを見つめ返している。隠すのが上手いことで……言葉の駆け引きはあまりする意味が無さそうだな、これは。

「あなたに有利になるもの、教えるわけないでしょ?」

「ははっ、そりゃそうだ……生憎僕も、敵に塩を送る余裕はない」

『2回戦第2試合、プレアデスvs煌!レディ……!』

くそっ、駆け引きはここまでか。何の情報も掴めなかったな。まあ、ダメ元だったし期待はしていなかったから良い。大事なのはとにかく、この戦いに勝つことだ。

『バトル、スタートォ!!』

「展開せよ、スターフィールド!!」

開始と同時に、煌の武器が展開する。左手の手首を廻っていた8つの星を模したオブジェクトが巨大化し、それぞれが独立したような動きでバトルフィールドの外周を駆け巡る。……やるだけやってみるか。

「【宝石爆烈弾ジェム・バースト】!!」

展開された星に向けて放つ。これで星を壊せれば、彼女の攻撃を弱体化させられるはず……!

「あら、いきなり私の星を壊そうだなんて、悪い子ね」

「…………まあ、そんなことだろうと思ったよ」

やっぱり、流石にそう上手くはいかないか。展開しきる前に叩けばいけるかと思ってたけど……ご丁寧に、星1つ1つにバリアが施されていた。まあ、それくらいは予想の範疇だ。僕でもそうする。

「展開系武器の弱点は2つ……オブジェクト破壊の方が簡単で有効なんだけど、流石に対策済みか」

「ふふ……じゃあ、もう1つは?」

「決まってるさ…………武器を扱う、本体だ!!!」

起爆。

さっきのスキルと同時に【爆弾創生ボム・ジェネレート】で作り上げた新たな爆弾……レオパルドから吸収した陽力の残滓を基に、レオンのスキル【プリズムオーラ】をオマージュした不可視の爆弾。その名も『幻影弾ミラージュボム』。オブジェクトの方に視線を誘導している間に、【宝石制御ジェム・コントロール】でそいつを煌の背後に仕込んでおいたのだ。勿論、その分威力は控えめに設定されているが……。

「バリアを壊すには、これで十分だ!!」

爆風の中から人影が飛び出す。上だ!

「ふふっ、やってくれるわねぇ……まさか一歩も動かないで、私に【アトモスフィア】を使わせるなんて!!」

「ある意味、1番厄介なスキルだったからね……先に潰させてもらったよ!」

頭上からのかかと落としを、武器でガードしながら問答を続ける。

『開始早々、絶対回避の煌に、いきなり攻撃が命中!!どうやら、背後に不可視の爆弾が仕掛けられていたようです!』

「君の回避能力に自動防御スキル……確かにこの組み合わせは突破が困難だ。でもその類のスキルは、どんな弱い囮の攻撃にも反応する。それを利用させてもらった、よ!!!」

体重を前にかけ、煌を押し出す。彼女は空中をひらりと宙返りし、軽い身のこなしで着地してみせた。

なるほど、あの回避能力は何かのスキルだと思っていたけど……さっきの蹴りからも察する通り、どうやら純粋な彼女の格闘センスらしい。初期の職業は戦士だったんだろうか?

「参考程度に聞かせてもらうわ。どうやってあのスキルが自動的に発動するものだと見破ったのかしら?」

「君が1回戦に戦ったハニハニの槍、あれを作ったのは僕なんだよ。だから、使用者のATKを加味すれば、その攻撃が大体どれくらいの威力なのか計算できる。あの子は手数と状態異常で敵を追い詰めるスピード型だからな、仮に攻撃が当たっても1発で君のHPが溶けるとは思えなかった」

「それで、自動防御なのではないか、と……?」

「あくまで憶測に過ぎなかったから、賭けだったんだけどね」

「全く、邪推も良い所だわ…………でも、正解よ」

そう言って、再び戦闘態勢をとる。さて、バリアを剥がしたここから第二ラウンド。何とかして彼女の攻撃を掻い潜り、こちらの攻撃を当てるのだ。

煌は懐から何かを取り出している。あれは……指輪?装備交換でもするのだろうか?何にせよ、早く決着をつけるに越したことはないが。

「1発攻撃当てて、僕は次のステージに行く!」

「あら、その程度で勝ったつもりかしら?覚悟しなさい……貴方には最初から本気でいかせてもらうわ!」

僕に見せつけるように、指輪をはめる。……ん?あの指輪、どこかで見た覚えが。記憶を辿る。辿って、辿って…………そして、1つの映像が浮かぶ。いや待て、そんなことがあり得るはずがない!

「何で、その、指輪は……!!?」

「あら、何かに気づいたのね」

「だって、それは…………!!!」
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