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メビウス

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第6章 夢と混沌の祭典

第42話 秘めたる力の解放

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~~side 春風~~

「スキルキャンセラー…………僕の切り札さ」

『な、何が起こったというんだぁぁぁ!?プレアデスがフェイント攻撃で隙を作り春風に触れたと思ったら、次の瞬間、春風のスキルがシャットアウトされたぁ!!』

「スキルの……強制中断!?」

厄介な。ボクの使おうとするスキルを先に潰されるのか?しかも、ログを見る限りでもプレ君は特に何かスキルを使ったようには見えなかった。コマンドと同様、何らかの操作だけで中断させているのか?しかし、どうやって…………。

《エマージェンシー!!》

《どうしたの、小春!?》

小春からのアラート。何かあったのか!?

《先ほどノ【凪の鏡域】ガ使用不能状態に陥ッテいマス!》

《えっ、どういうこと!?ただスキルを中断されただけじゃなかったの?》

《恐ラク、お父様ノ能力はマナへの干渉……その影響ガ残ってイルのでハないカト》

小春が言うには、スキルの発動でMPを消費するという過程では、身体に蓄積されているマナが特定の場所に、特有の構造で凝集し、それが体外へ発散することで作用を及ぼしスキルの効果が得られるらしい。その場所や構造は、スキルの種類や効果の内容に依存する。

そして、プレ君のマナに対する干渉は恐らく、そのマナの凝集を強制的に破壊するもの。ただ、普通に破壊するだけならすぐに再凝集してしまうため、その場しのぎにしかならない。

でも、どうやらスキルの効果が発動するほんの直前……つまり、マナの構造が完成し体外に発散する瞬間を狙って破壊すれば、MPの消費こそ起こらないものの、スキルがらしい。そうなると暫く同じ構造を作ることはできない。因みにこの「暫く同じ構造を作れない」という制約が、クールタイムを生み出しているようだ。

つまりボクは今再び【凪の鏡域】を発動しなおすことはできず、クールタイム明けを待たなくてはならない。そしてこのスキルのクールタイムは30分。もうこの試合中に発動はできないだろう。

「クールタイムの短い小技ならともかく、大技に当てられたら致命的だなぁ」

しかも彼の場合、ここにスキルオーバーライドがプラスされる。となると、彼とのチェインスキルの素材になっている【桜花爛漫】も使えない。【変則螺旋斬】の方は隙が少ない分まだ使えるけど……発動モーションの大きい前者は、そうはいかない。オーバーライドでスキルの操作権限がプレ君に渡ることを考えると、あのスキルを使うのは自殺行為だろう。

《どうしよう?今のプレ君に何のスキルを使っても、多分また同じように……》

《イエ…………恐ラク、アレはマスターの身体二直接触れルことデ使える力のハズ。距離ヲ取って戦えバ、まだ勝機ハ残ってイルハズです!》

《ッ、そうか!!ありがとう、小春!!》

活路は見えた。【桜花爛漫】は使えないが、それでも遠距離攻撃の手段は残されている。十分に距離をとったうえで、彼を仕留める!

《小春、後退!!》

《ハイッ!!》

『おっと!ここで春風、大きく後退です!先ほどのプレアデスの行動を恐れての遠距離戦闘か!』

プレ君の身体が小さくなっていく。すぐに追いかけてきたが、十分距離は離せた!

「【真空波斬】!」

縦に大きく斬る。地面に刀が当たる心配がないから、より大きな真空波を飛ばせるのは、空中戦のメリットだな。

「うおッ!!」

プレ君はローリング飛行で横に回避。まあそうだよね、この向きならそこに避けるしかない!もちろん、二の矢は既に放ってる!

「【蜘蛛之糸】!」

右手で操るガイアを、大きく横に振る。その刀身は、回避したばかりの彼の身体を横から打つ!!

「グッ…………!!?何だぁそれ!?」

『おぉっとこれは!!糸で刀を操り、遠くのプレアデスに攻撃を命中させたぁ!まるで忍者の鉤縄のような使い方だ!!』

プレ君も実況さんも良い反応をしてくれてる。そう、ボクは今まで遠距離攻撃の手段が限られていた。その結果、近接戦闘で力負けするミハイル相手に苦戦を強いられたのだ。でも、生成した粘糸を刀の持ち手に括りつけて振り回せば、小春に頼らずとも遠距離から攻撃ができる!

シュルルッ……と糸を巻き取り、木刀を手に回収する。クールタイムもまさかの0秒だし、このスキル、思ったより強いかも。糸の強度も十分高いし、《蜘蛛之王》の恩恵か手足のように扱えて取り回しも抜群。大会が終わったら、もっと色々試してみよう。

とまあそれはともかく、今は今できることをする!

「【宝石片弾ジェム・ブラスト】!!」

プレ君も攻撃してきた。ここは落ち着いて回避して…………って。

《小春!!》

《ハイッ!!》

さっきまでとは攻撃の密度が違いすぎる。こんなの避けられるわけがない!それなら…………ここで迎え撃つ!!そして、プレ君ごと吹き飛ばす!!

「ッ、何を…………」

向きを変え、限界高度ギリギリまで一気に飛び上がる。高さを稼ぐのだ。

ボクを追って高度を上げてきたプレ君を尻目に、小春を手元に戻す。このスキルには2本の刀が必要なのだ。

「【レイジ】、【血の代償】…………」

ミハイルの【サウザンドブレード】とセイスさんの【バレットサイクロン】をヒントに、こっそり会得した新たなスキル!!【回転斬】の遠心力に乗せて、無数の真空波を放つ、超広範囲無差別攻撃!!

「チェインスキル……【飛刃・阿修羅】!!」


【飛刃・阿修羅】消費MP:310 クールタイム:4時間
二刀流専用スキル。回転しながら二刀を縦横無尽に振り回し、その軌跡が生み出す無数の真空波で全てを切り刻み灰塵に帰す。


縦、横、斜め。空中であらゆる方向に身を回し、その回転力で両手に持った刀を振るう。攻撃が、始まる。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!」

『春風、怒涛の攻撃!!ここにきて勝負を一気に決めにきたぁ!!』

二重のバフスキルで火力を上げた斬撃が、このフィールド全体に降り注ぐ。彼の攻撃は余裕で相殺できるだろう。問題は、彼に命中するかどうか、そして倒せるかどうかだ。

「…………ッ!!」

やっぱり当たらないか!!でも、プレ君ももう攻撃の手は止めて回避に専念してる!それなら…………。

《小春ッ!アシスト!!》

《ハイッ……!攻撃方向補正……目標、プレアデスお父様!!》

その瞬間、四方八方へ飛んでいた斬撃の大部分が、眼下の彼を目掛けて飛んでいく。意志の力による攻撃性能の強化、といったところだ。これでもう、彼のプレイスキルでも避けきれまい!

「【硬化】!コマンド入力、防御一極集中オール・フォー・ガード!!」

流石だ、即座に避けられないと判断して、防御に全てを賭けてきたか。でも……!

「何ッ…………!?」

やっぱり!彼がどれだけ防御を高めても、この攻撃は防ぎきれない!!物質系の固い敵相手に試した時、無強化でも普通に攻撃が通ったから、このスキルには防御貫通効果があると思ってたんだ!!

そしてさっきの【結晶化クリスタライズ】はクールダウン中のはず!【暴食グラトニー】も、物理スキルの前には無力!!彼に打てる手は、もう残っていないッ!!

「墜ちろぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」

そのまま一気に叩き込んだ。あれだけの攻撃を避けもせず…………ここまで受け切れたのも凄すぎるくらいだ。でも、これで……。

『何という凄まじい攻撃だ!!春風、長い戦いに終止符を打ち…………』

ボクの、勝ちだ…………。








「おおおぉぉぉぉぉぉぉぉッッッ!!!」

《ッ、マスター!!!》

小春の声がする。でもそれは、祝福の声色ではなかった。むしろ、警戒…………そのことに気づいた時にはもう遅く、ボクの身体は咄嗟の反応ができずに固まってしまっていた。

『…………何と、これはッ!!?』

懐に潜り込まれたッ!!防御が…………間に合わないッ!!

攻撃一極集中オール・フォー・アタック………………【レヴァテイン】ッッッ!!!」

胸部を殴られるような鈍い痛み。炎筒が服と肌にめり込み、抉られるような感覚。直後に、燃えるような鋭い痛み。炎の刃が、ボクの身体を貫いている。息ができない……肺が焼ききれそうだ!

直後、プレ君が急速に遠のいていく。いや、ボクが落下しているんだ。意識の奥で、小春がボクを呼んでいる。それと、誰か、もう1人…………。ボクはその声に耳を傾けながら、重力に身を任せてその力を抜いた。









「………………グゥァァッッッ!!!」

背中から強制的に肺の中の空気を吐出させられる感覚。思わず呻き声があがる。あれ…………まだ、生きて……る?

視界の隅。短いながらも、でも確かにミリで残り赤く点滅しているHPバー。その横の数字は……1。

《そうか、小春…………》

《ハ、ハイ…………何と、カ、助かり、マシタ、ネ………………マス……ッ》

そこで繋がっていた糸がプツリと切れた。小春が活動限界を迎えてしまったのだ。最後の力を振り絞って、またボクを助けてくれたんだね。

「あり、がとう…………小春…………」

そう呟くボクの目の前に、ゆっくりと彼は着地した。

「ッ……!?」

その姿に絶句する。右手と左脚が、なかった。ボクのスキルを受けて、こうなったのか。

「その状態で、どうやって…………?」

「《不屈の生存者》の効果…………1日に1度だけ、HPを1残して耐え、3秒間の無敵時間を獲得する」

「…………まさか、その3秒間でボクに近づくために、わざと……?」

「肉を切らせて骨を断つ……ってやつ、かな…………」

そう言って膝をついて倒れかかるプレ君。言うまでもなく彼の身体もボロボロ、限界だった。でも、それでも彼は諦めずに、最後まで勝機を信じてボクに攻撃を仕掛けた。その時点で、心で、ボクは彼に負けていた…………。

「…………ボクの負けかな、これは……」

そう小声で呟いたその時。

《何負けた気になってんだよ》

《ッ!!?》
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