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第10話「小さき炎、玄鬼立つ」
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「弥栄ッ‼️🍶」
盃を交わす笑い声が、五島の夜を包んでいた。
羅刹の豪快な笑い声に、黒田・島津・勝司も腹を抱えて笑う。
凛華は頬を赤らめ、ニコの横で静かに盃を持ち上げていた。
その時──。
「つぎは…おれだぁ‼️🔥」
座敷の障子がガラッと開き、
ちょこちょこと小さな足音が響いた。
玄鬼、三歳。
短い羽織を着て、木刀を両手で握りしめている。
頬はまだあどけないが、眼の奥には羅刹の血が確かに宿っていた。
「げ、玄鬼!?💦」
凛華が慌てて駆け寄るが、玄鬼はキッと前を見据えたまま動かない。
「父上をたおしたのは…おまえか‼️」
小さな声だが、言葉には烈火のような気迫があった。
ニコは驚きながらも微笑んだ。
「そうだ。でも…勝負は遊びだったよ。あなたのお父上はとても強かった」
「うそだ‼️」
玄鬼はプルプル震えながら叫んだ。
「おれが…おれが、つぎは勝つんだ‼️」
羅刹は目を丸くしていたが、やがて大笑いした。
「ぬはははは‼️さすがワシの息子よ‼️根性は誰にも負けん🔥」
黒田が茶碗を置き、「よかじゃないか、羅刹。血筋というもんは見事なもんだ」と笑う。
島津も「まるで昔のおぬしを見ておるようだ」とニヤリとする。
「よし‼️」羅刹が声を上げた。
「玄鬼‼️ニコ‼️勝負じゃ‼️だが命までは取るでないぞ💪」
「えっ!? 本気で⁉️」凛華が止めようとするが、
すでに玄鬼は土間に降りていた。
ニコはしゃがみ込み、玄鬼と目線を合わせた。
「君のような強い瞳は久しぶりに見た。では、少しだけ…真剣に相手をしよう。」
「かかってこい‼️‼️」
玄鬼が木刀を振りかざし、突っ込む。
ニコはひょいとかわす。
小さな足が空を蹴り、バランスを崩して転びそうになるが──
すぐに体をひねって立ち上がる。
「うむ、ただ者ではないな…」
黒田が腕を組み、島津も「三歳にしてこの反応速度とは」と唸る。
ニコは微笑みながら、軽く木刀の柄を取った。
「玄鬼君、戦いとは“強さ”よりも“心の静けさ”が大事なんだ」
「うるさい‼️おれは…父上みたいになるんだ‼️‼️」
その言葉に羅刹の笑顔が一瞬止まった。
盃をゆっくり置き、息を吐く。
──あの頃の自分も、そうだった。
強くなければ、守れぬものがあると信じていた。
ニコは微笑みながら、玄鬼の木刀をスッと押さえた。
「ならば、まず“負け方”を覚えなさい。」
玄鬼の木刀が軽くはじかれ、ふわりと宙を舞う。
次の瞬間──玄鬼の小さな背中が土の上に倒れた。
「はぁ…はぁ…っ…!」
それでも玄鬼はすぐ起き上がろうとする。
「まだ…まだだぁ‼️」
だがその腕を、羅刹の大きな手が包んだ。
「もうよい。お主は立派に戦った。ワシの誇りじゃ。」
玄鬼は泣きそうな顔をしながら父の胸に飛び込んだ。
「……くやしいよ、父上……」
「それでよい。悔しさは魂の火種じゃ🔥」
ニコは立ち上がり、深く頭を下げた。
「あなたの息子はきっと、世界を動かす男になる。」
羅刹は静かに笑い、
「ぬぅ…おぬしの目には、先が見えておるようじゃな。」
その夜。
長崎の風が静かに吹き抜ける。
玄鬼の中に宿った“負ける悔しさ”──
それが後に「ユダ」と呼ばれる男の誕生の、最初の炎となることを
誰もまだ知らなかった──。
翌朝。
五島相撲の夜の笑い声がまだ耳に残る頃、長崎の鷹田家は異様な静けさに包まれていた。
潮風に混じって、聞き慣れぬエンジン音。
ジープのタイヤが砂利を踏む音が、門前で止まる。
「……来たか。」
羅刹は杯を置き、黙って立ち上がった。
裾を掴む玄鬼。
「父上……?」
「心配いらん。ワシが出る。」
門が開くと、GHQの将校二人が姿を現した。
一人は金髪碧眼のアレン少佐。
もう一人は通訳を兼ねた日本人将校、坂井。
背後には警察官が三名、表情を固めて立っている。
アレン少佐が書類を手に、低く告げた。
「Takat—Takada Rasetsu… You are the head of this house, yes?」
坂井が丁寧に訳す。
「鷹田羅刹殿。あなたがこの家の主で間違いありませんね。」
「そうだ。何の用だ。」
羅刹の声は静かだが、底には烈火が潜んでいた。
アレンはわずかに口角を上げ、
「We have reports… about your wives.」
坂井が続ける。
「この家には“複数の妻”がいるとの報告がありました。
現在の法律では重婚にあたります。許されません。」
羅刹の眉がぴくりと動く。
「側室たちは正式な妻ではない。戦地に出たこの身を、家と民を守ってくれた恩人たちだ。」
だがアレンは冷たく笑う。
「Law is law.」
坂井が苦しげに訳す。
「法は法です。日本はもう、昔の“家制度”の国ではありません。」
障子の奥で、沙代と凛華、楓が不安そうに顔を出す。
玄鬼は母の袖を握りしめた。
アレンはさらに言葉を重ねる。
「そしてもう一つ。
先日、あなたの家の者が米兵および中国人労働者に暴力を振るったとの報告がある。」
勝司が一歩前へ。
「暴力だと? あれは女を守っただけだ!」
黒田も声を荒げる。
「お前らの兵が娘を襲ったんだぞ!」
アレンは肩をすくめ、鼻で笑った。
「Barbaric…」
坂井の声が震える。
「“野蛮な行為だ”と申しております。」
羅刹の瞳が燃えるように光を帯びた。
「……野蛮、だと?」
一歩前へ。
「原爆で街を焼き、民の命と魂を奪った者たちが、どの口で言う。」
その声は低く、鋼のように響いた。
坂井でさえ息を飲み、翻訳の手を止めた。
羅刹は深く息を吸い込み、拳をゆっくりと開いた。
「……だが戦は終わった。
この家に争う意思はない。ただ、守る覚悟があるのみだ。」
アレンは一瞬だけ目を細めたが、再び冷たい笑みを浮かべて紙を差し出した。
「Then prove it. Dissolve this ‘family.’」
「“この家族を解体しろ”と。」
坂井の声が震えていた。
羅刹はその紙を一瞥し、
「……考えよう。」
と短く告げた。
アレンはその言葉を聞くと、踵を返した。
そしてジープへ向かう途中で立ち止まり、懐から小さな袋を取り出す。
「For the boy.」
そう言って――玄鬼の足元に、チョコレートの入った菓子袋を投げた。
袋が地面に落ち、甘い香りが風に乗って広がる。
玄鬼はただ、父を見上げた。
羅刹は拳を握ったまま、菓子袋を拾い上げ、静かに息を吐く。
「……玄鬼、これはお前にやる。」
「父上……」
「忘れるな。甘さの裏にも、毒はある。」
玄鬼は頷き、小さく袋を抱きしめた。
その瞳の奥で――新たな時代への怒りと火が、静かに灯り始めていた。
盃を交わす笑い声が、五島の夜を包んでいた。
羅刹の豪快な笑い声に、黒田・島津・勝司も腹を抱えて笑う。
凛華は頬を赤らめ、ニコの横で静かに盃を持ち上げていた。
その時──。
「つぎは…おれだぁ‼️🔥」
座敷の障子がガラッと開き、
ちょこちょこと小さな足音が響いた。
玄鬼、三歳。
短い羽織を着て、木刀を両手で握りしめている。
頬はまだあどけないが、眼の奥には羅刹の血が確かに宿っていた。
「げ、玄鬼!?💦」
凛華が慌てて駆け寄るが、玄鬼はキッと前を見据えたまま動かない。
「父上をたおしたのは…おまえか‼️」
小さな声だが、言葉には烈火のような気迫があった。
ニコは驚きながらも微笑んだ。
「そうだ。でも…勝負は遊びだったよ。あなたのお父上はとても強かった」
「うそだ‼️」
玄鬼はプルプル震えながら叫んだ。
「おれが…おれが、つぎは勝つんだ‼️」
羅刹は目を丸くしていたが、やがて大笑いした。
「ぬはははは‼️さすがワシの息子よ‼️根性は誰にも負けん🔥」
黒田が茶碗を置き、「よかじゃないか、羅刹。血筋というもんは見事なもんだ」と笑う。
島津も「まるで昔のおぬしを見ておるようだ」とニヤリとする。
「よし‼️」羅刹が声を上げた。
「玄鬼‼️ニコ‼️勝負じゃ‼️だが命までは取るでないぞ💪」
「えっ!? 本気で⁉️」凛華が止めようとするが、
すでに玄鬼は土間に降りていた。
ニコはしゃがみ込み、玄鬼と目線を合わせた。
「君のような強い瞳は久しぶりに見た。では、少しだけ…真剣に相手をしよう。」
「かかってこい‼️‼️」
玄鬼が木刀を振りかざし、突っ込む。
ニコはひょいとかわす。
小さな足が空を蹴り、バランスを崩して転びそうになるが──
すぐに体をひねって立ち上がる。
「うむ、ただ者ではないな…」
黒田が腕を組み、島津も「三歳にしてこの反応速度とは」と唸る。
ニコは微笑みながら、軽く木刀の柄を取った。
「玄鬼君、戦いとは“強さ”よりも“心の静けさ”が大事なんだ」
「うるさい‼️おれは…父上みたいになるんだ‼️‼️」
その言葉に羅刹の笑顔が一瞬止まった。
盃をゆっくり置き、息を吐く。
──あの頃の自分も、そうだった。
強くなければ、守れぬものがあると信じていた。
ニコは微笑みながら、玄鬼の木刀をスッと押さえた。
「ならば、まず“負け方”を覚えなさい。」
玄鬼の木刀が軽くはじかれ、ふわりと宙を舞う。
次の瞬間──玄鬼の小さな背中が土の上に倒れた。
「はぁ…はぁ…っ…!」
それでも玄鬼はすぐ起き上がろうとする。
「まだ…まだだぁ‼️」
だがその腕を、羅刹の大きな手が包んだ。
「もうよい。お主は立派に戦った。ワシの誇りじゃ。」
玄鬼は泣きそうな顔をしながら父の胸に飛び込んだ。
「……くやしいよ、父上……」
「それでよい。悔しさは魂の火種じゃ🔥」
ニコは立ち上がり、深く頭を下げた。
「あなたの息子はきっと、世界を動かす男になる。」
羅刹は静かに笑い、
「ぬぅ…おぬしの目には、先が見えておるようじゃな。」
その夜。
長崎の風が静かに吹き抜ける。
玄鬼の中に宿った“負ける悔しさ”──
それが後に「ユダ」と呼ばれる男の誕生の、最初の炎となることを
誰もまだ知らなかった──。
翌朝。
五島相撲の夜の笑い声がまだ耳に残る頃、長崎の鷹田家は異様な静けさに包まれていた。
潮風に混じって、聞き慣れぬエンジン音。
ジープのタイヤが砂利を踏む音が、門前で止まる。
「……来たか。」
羅刹は杯を置き、黙って立ち上がった。
裾を掴む玄鬼。
「父上……?」
「心配いらん。ワシが出る。」
門が開くと、GHQの将校二人が姿を現した。
一人は金髪碧眼のアレン少佐。
もう一人は通訳を兼ねた日本人将校、坂井。
背後には警察官が三名、表情を固めて立っている。
アレン少佐が書類を手に、低く告げた。
「Takat—Takada Rasetsu… You are the head of this house, yes?」
坂井が丁寧に訳す。
「鷹田羅刹殿。あなたがこの家の主で間違いありませんね。」
「そうだ。何の用だ。」
羅刹の声は静かだが、底には烈火が潜んでいた。
アレンはわずかに口角を上げ、
「We have reports… about your wives.」
坂井が続ける。
「この家には“複数の妻”がいるとの報告がありました。
現在の法律では重婚にあたります。許されません。」
羅刹の眉がぴくりと動く。
「側室たちは正式な妻ではない。戦地に出たこの身を、家と民を守ってくれた恩人たちだ。」
だがアレンは冷たく笑う。
「Law is law.」
坂井が苦しげに訳す。
「法は法です。日本はもう、昔の“家制度”の国ではありません。」
障子の奥で、沙代と凛華、楓が不安そうに顔を出す。
玄鬼は母の袖を握りしめた。
アレンはさらに言葉を重ねる。
「そしてもう一つ。
先日、あなたの家の者が米兵および中国人労働者に暴力を振るったとの報告がある。」
勝司が一歩前へ。
「暴力だと? あれは女を守っただけだ!」
黒田も声を荒げる。
「お前らの兵が娘を襲ったんだぞ!」
アレンは肩をすくめ、鼻で笑った。
「Barbaric…」
坂井の声が震える。
「“野蛮な行為だ”と申しております。」
羅刹の瞳が燃えるように光を帯びた。
「……野蛮、だと?」
一歩前へ。
「原爆で街を焼き、民の命と魂を奪った者たちが、どの口で言う。」
その声は低く、鋼のように響いた。
坂井でさえ息を飲み、翻訳の手を止めた。
羅刹は深く息を吸い込み、拳をゆっくりと開いた。
「……だが戦は終わった。
この家に争う意思はない。ただ、守る覚悟があるのみだ。」
アレンは一瞬だけ目を細めたが、再び冷たい笑みを浮かべて紙を差し出した。
「Then prove it. Dissolve this ‘family.’」
「“この家族を解体しろ”と。」
坂井の声が震えていた。
羅刹はその紙を一瞥し、
「……考えよう。」
と短く告げた。
アレンはその言葉を聞くと、踵を返した。
そしてジープへ向かう途中で立ち止まり、懐から小さな袋を取り出す。
「For the boy.」
そう言って――玄鬼の足元に、チョコレートの入った菓子袋を投げた。
袋が地面に落ち、甘い香りが風に乗って広がる。
玄鬼はただ、父を見上げた。
羅刹は拳を握ったまま、菓子袋を拾い上げ、静かに息を吐く。
「……玄鬼、これはお前にやる。」
「父上……」
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