最後の将軍

おくん血•タケルfrom八鶴な書店

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第11話「誇りと旗」

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羅刹組本部。
薄暗い木造の座敷に、煙草の煙がたちこめていた。
勝司、黒田、島津、ニコ、凛華、そして長崎を束ねる侠たちが顔をそろえる。
中央に立つのは羅刹。
いつになく険しい表情を浮かべ、酒ではなく湯呑を手にしていた。



「……GHQが長崎に駐屯してから、うちらの町は変わっちまった。」
羅刹の声は低く、しかし一言一言が重く響いた。

「商店は外人が占拠し、女を買い漁り、港の仕事まで奪う。
 ヤクザは反社と呼ばれたが……反社ってのは、つまり“国に従わん者”のことだろう?」

勝司が煙を吐きながら笑う。
「兄貴、それを言っちまったら……俺ら、昔から反社っスよ。」

黒田が腕を組む。
「だが兄貴の言う通りだ。
 俺たちは国を壊すために動いとるわけじゃねぇ。
 守るために動いとる。
 ……それが、昔からの任侠の筋ってもんやろ。」

羅刹は静かにうなずき、膝の上に置かれた古びた旗を取り出した。
それは焦げ跡のついた日章旗。
戦火をくぐった証として、今も紅が滲む。

「戦で死んだ仲間の旗だ。
 この旗を掲げて立ち上がった男たちは皆、“国のため”に散っていった。
 ……だが今の国はどうだ?
 アメリカの犬になり、金と権力に溺れとる。
 国が魂を失ったなら、誰がそれを取り戻す?」

沈黙。
やがて、凛華が口を開く。

「……羅刹組が立つしかない。
 ヤクザが“誇り”を取り戻させる。
 それが……令和に生きる侍の道じゃないの?」

羅刹は娘の言葉に目を細めた。
「凛華、お前……血が騒いどるな。」

「親父譲りですから。」
凛華は微笑みながらも、拳を強く握る。



そのとき、奥の座敷から声があがった。
「右翼って言葉がある。あれは“国を想う者たち”って意味だ。
 俺らが動けば、反社じゃなく“誇社(ほこりしゃ)”だ。」

黒田が笑いながら杯を掲げた。
「誇社(ほこりしゃ)! ええ響きや!」

勝司も続く。
「だったらまずは街からだ。
 港を守り、民を守る。
 それが“俺らの正義”や!」

羅刹はゆっくりと立ち上がり、柱に掛けられた日章旗を手に取った。
その紅白は、長崎の夕日に照らされて燃えるように輝いた。

「よかか、お前たち。
 ヤクザは金で動くんじゃねぇ。
 誇りで動くんだ。
 ――これより、“羅刹組”は魂の右翼と化す!」

全員が立ち上がり、拳を突き上げた。

「応ッ!!!」

座敷が震える。
その瞬間、外では海鳴りが響き、波が岩を打ちつけた。
まるで天が、彼らの決意を聞いているかのように。



その夜、羅刹は一人で港を歩いていた。
ポケットから一枚の古びた写真を取り出す。
それは戦地で撮った仲間との写真。
彼らが笑って掲げた旗の影に、確かに“誇り”があった。

「……国を裏切ることは、魂を裏切ることじゃねぇ。
 魂を守るために立ち上がることが――真の愛国や。」

羅刹の目が、燃えるように光った。





羅刹組本部──。
重たい議題のあと、静まり返った座敷に羅刹の低い笑い声が響いた。

「右翼、ヤクザ……。なんか違ぇんだよな。」

勝司が首をかしげる。
「違う、ですか?」

羅刹は煙草をくゆらせ、天井の梁を見上げた。
「どっちも“型”にハマってる。
 旗とか看板とか、誰かの下につくって時点で、
 もう魂が縛られちまってるんだ。」

静寂の中、羅刹の瞳がギラリと光る。
「……だがな、ワシらは元々そうじゃなかったろ。
 山を駆け、海を渡り、法に縛られずに“己の道”を行く奴ら。
 そうだ……ワシらは――**族(ゾク)**だ!!!」

ドンッ‼️と卓を叩く音が響く。
黒田が目を丸くする。
「族……? まさか、山賊とか海賊の“族”っスか!」

羅刹は立ち上がり、まるで少年のように笑った。
「そうだ! 山を制する者、海を制する者、そして道を制する者。
 時代が変わっても、魂の族は滅びねぇ!」

勝司が思わず笑い出す。
「兄貴、族って……」

「バイクだ。
 車じゃねぇ。
 鉄の馬にまたがり、風を切る感覚――
 あれはな、ワシらが戦で乗ったZERO戦✈️の感覚に一番近ぇ!!!」

羅刹の言葉に、場の空気が一気に熱を帯びる。

「空を飛ぶ代わりに、地を走る。
 法も国家も関係ねぇ。
 命を賭ける瞬間、魂が燃えるあの感じ……
 あれが“生きてる”ってことじゃろが!!!」

凛華がニヤリと笑い、腕を組む。
「親父……それ、めちゃくちゃアリだね。
 羅刹組はもう、“組”じゃなくて“族”にしようよ。」

「“羅刹族(ラセツゾク)”……か。」
羅刹はその響きを確かめるように呟いた。

「悪くねぇ……いや、最高だ!!」



夜の港。
エンジン音が次々と轟く。
黒田が改造した旧式の陸軍バイクを蹴り上げると、爆音が夜空を裂いた。

ニコが笑いながらヘルメットをかぶる。
「なぁ羅刹さん……俺たち、どこへ走るんです?」

羅刹は煙草をくわえ、風に背を向ける。
「決まってんだろ……この腐った世を、ぶっ壊しに行くんだよ!!!」

凛華が拳を突き上げる。
「羅刹族、発進‼️‼️」

バイクのヘッドライトが一斉に灯り、
その光が長崎の夜道を照らす。
海風が頬を打ち、波音がエンジンのリズムと重なる。

羅刹は叫んだ。
「お前ら、覚えとけ!!
 法でも金でもねぇ!!
 自由こそ、魂の旗だ!!」

轟音とともに、
“羅刹族”は長崎の街を駆け抜けた。

その姿はまるで、戦空を舞うZERO戦の群れのように。
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