最後の将軍

おくん血•タケルfrom八鶴な書店

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第17話 「髷と帽子」

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県警本部・応接室。
白壁に掲げられた星条旗の下、リチャード・X・ブラックバーン将校は足を組み、
葉巻をくゆらせながら待っていた。

扉が開く。
入ってきたのは、黒い羽織に身を包んだ男――鷹田羅刹。
背筋を伸ばし、ひとつも怯まぬその姿に、県警幹部たちの視線がざわめいた。

「ようやく来たか、“サムライ”」
リチャードが不遜に言い放つ。
「君たちのやり方は野蛮だ。もはや時代錯誤。
 この国の秩序は我々が正す。」

羅刹は無言のまま、ゆっくりと歩み寄り、
円卓の向こうに立つ。

「ほぅ……貴方が、人気者のリチャード殿であらせられるか。」
「……人気者?」
「ええ、巷では有名ですぞ。
 “帽子を脱がぬ将校”として。
 まるで、戦場で兜を脱げぬ武士のようだと――。」

リチャードの眉がわずかに動く。

「……皮肉か?」
羅刹は穏やかに微笑んだ。
「失敬♬ 決して悪意ではござらぬ。
 ただ……噂ではこうも聞きましてな。」
彼はゆっくりと自らの髪をかき上げ、
肩口まで伸びた黒髪をなびかせながら言った。

「“リチャード殿、髷を結ったほうがよい”と。」

――その瞬間、部屋の空気が凍りついた。

県警の通訳が慌てて訳すと、リチャードの顔が真っ赤になった。
「貴様……私を侮辱しているのか⁉️」
「まさか。ただ、侍は“髷に誇りを結う”と申します。
 貴殿の帽子にも……誇りが詰まっているのだろうと、そう感じただけです。」

羅刹は軽く頭を下げ、
そのままリチャードの隣に立つ内田警部の目を真っ直ぐに見た。

「……内田殿。日本人として、どちらの誇りに従われますかな?」

内田は汗を流しながら、唇を噛みしめた。
その瞬間、父・巌(元警察官で、現在は隠居中)の怒声が脳裏によぎる。

「外国の靴を舐めてまで、生き恥をさらすかッ‼️
 お前は警察官である前に、日本男児だろうが‼️」

リチャードの拳が机を叩き、葉巻が折れた。
「Enough!!(もうたくさんだ)!!
 この国の猿どもが調子に乗るな‼️」

羅刹は静かに目を細め、
「……猿も龍も、この地では共に神の使い。
 それを知らぬ者こそ、野蛮と言うのではないか?」

言い終えると、踵を返して去っていった。

残されたのは、
葉巻の灰と、
リチャードの震える手と、
県警幹部たちの張りつめた沈黙だけだった。



その夜――。

長崎・思案橋。
瓦屋根の上に提灯の明かりが揺れ、街中がざわめいていた。
遊郭の女たちが紅を引きながら、
「今日の羅刹様、最高やったねぇ!」
と、まるで芝居を観たあとのように語り合っている。

「見たかい?あの堂々たる態度!」
「アメ公の将校に、あんな物言いできる人が今どこにおるね!」
「まっこと、あれぞ“昭和のサムライ”ばい‼️」

男たちも酒場で熱くなっていた。
「羅刹様はわしらの誇りたい!」
「髷を結った方がよいっちゅうあの台詞、あれは一生もんやで!」
「長崎の空気が変わった。まるで風が吹いたようばい!」

そして――その中心で一番騒いでいたのが、
元・警察官にして今は隠居の身、**内田巌(うちだ・いわお)**であった。

「見たかお前ら‼️」
巌は、徳利を振り上げて叫んだ。
「わしが若ぇ頃はよ、ああいう男がおったんだ!
 命懸けで“誇り”を通す奴がなぁ!」

彼の隣では、若い連中がうなずいている。
「内田さん、あんた泣いとるやん!」
「バカ言え、酒が目にしみただけじゃ‼️」
と豪快に笑い、巌は盃を干した。

彼の視線の先、遠くに見える稲佐山の夜景が光る。
「羅刹……あの男、ただの侍やなか。
 あいつは、この国の“心”をまだ守っとる。」

その言葉に、場が静まり返る。
女たちも、若者も、誰もが胸を打たれた。

やがて巌は小さく呟く。
「……巌の倅(せがれ)も、ああであってほしかった。」

その倅こそ、
県警幹部・内田である。

彼はその夜、上司リチャードの部屋で、
冷たい視線を浴びながら報告書を書いていた。

だが――窓の外から聞こえる。
街の人々の笑い声、
そして子どもたちが口ずさむ歌声。

「ハゲ侍の帽子の下で~♬
 髷が恋しいアメさんよ~♬」

――長崎が、笑っていた。

リチャードはその笑い声を聞き、
グラスを割りながら立ち上がる。
「Enough‼️ あの“サムライ”を、必ず潰せ……!」

その命令を聞き、
内田の拳が静かに震えた
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