最後の将軍

おくん血•タケルfrom八鶴な書店

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第22話 「異国への誘い」

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長崎・丸山町。
鷹田家の奥座敷には、かつての侍たちを思わせる重厚な静寂が流れていた。
羅刹の前に座るのは、長身で金髪、温厚な微笑をたたえるオランダ人――ルーカス・アーツ。
その隣には、父に似た瞳をもつ16歳の少年、ニコ・アーツ。

羅刹は湯呑を置き、低く呟いた。
「……リチャード・ブラックバーン。奴の狙いは、鷹田家の“側室の解体”。血のつながりを断つことだ。」

ルーカスは静かに頷く。
「彼は軍の論理で動く。だが、時代はもう変わり始めている。
 日本も、敗戦で新しい道を歩かねばならない。だが……君のような魂を失ってはいけない。」

その言葉に羅刹は眉を上げる。
「……魂?」

「そうだ。君の剣の型、立ち姿。あれはもう“戦い”ではなく、“芸術”だ。
 我々オランダ人は今、フランス、ベルギー、ドイツでも“柔道”や“合気”を求めている。
 戦のない強さを学びたいとね。」

羅刹の瞳が一瞬で光を取り戻す。
胸の奥に、久しく眠っていた鼓動が蘇る。

「ヨーロッパで……侍の心を伝える、か。」

ニコが目を輝かせて前のめりになる。
「パパも言ってた! フランスでは“ジュウドー”って人気が出てるんだよ!
 でもね、本物を見たことがある人はまだいないんだ!」

羅刹は思わず笑みを漏らした。
「ふっ……戦場で血を見てきたこの手が、今度は心を繋ぐために動くか。
 面白い……いや、久しぶりにワクワクしてきたわ。」

湯気の立つ茶の香が、いつしか異国の風に変わったような気がした。

ルーカスがそっと言葉を添える。
「ヨーロッパには、君を待つ“大男たち”がいる。
 かつては敵だった国も、今は“友”を求めている。
 彼らは君のような武士の気を、心のどこかで渇望しているのだ。」

羅刹は静かに立ち上がった。
障子を開け、秋の長崎の空を見上げる。
遠くでカモメが鳴いた。

「……行くか。」

その背には、敗戦国の男ではなく――
再び立ち上がった“侍”の風格が宿っていた。

そして、彼の胸中にはただ一つの決意が生まれていた。

「武で世界と語る」

その夜、羅刹は筆を取り、出国の計画をルーカスに託す。
だが、同じころ――長崎県警では、リチャードがほくそ笑みながら
「鷹田羅刹、国外逃亡を企てている」と報告を上げさせていた……。
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