最後の将軍

おくん血•タケルfrom八鶴な書店

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第21話「髷より誇りを──羅刹、笑う」

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夜の長崎・出島を見下ろす高台。
重々しい足音を響かせて、米軍将校 リチャード・X・ブラックバーン が姿を現す。
その頭は完全なスキンヘッド。
月光を浴びて光り輝き、まるで戦場の剣のように鋭く反射していた。

周囲にいた日本人通訳や県警幹部は、その変貌ぶりに目を丸くする。
まるで──「もう髷では笑えまい」と言わんばかりの、完璧な防御。



リチャード「フフ……どうだ、これで文句はあるまい。
もはや髷は結えるし、笑われる筋合いもない。
我々アメリカは常に“進化”する。見習うことだ、サムライ。」

鷹田家の庭で構える 鷹田羅刹 は、ゆっくりと煙草に火をつけた。
その炎が、彼の横顔を照らし出す。

羅刹「……見事だな、ザビエル将軍。いや、ザビハゲ改め“リチャード・スリー・シャイン”か。」

一瞬、空気が張りつめた。
通訳の肩がピクリと動く。
だが、羅刹の笑みは止まらない。



羅刹「だがな、坊主頭にしただけで“魂”まで磨かれたと思うな。
髪は落としても、誇りは落としちゃいねぇ。
その差が、貴様と俺の違いだ。」

リチャードの口元がわずかに引きつる。
だが、彼はすぐにニヤリと笑い返した。

リチャード「なるほど。誇り、ね。
だがそれで飯が食えるのか? それで国を守れるのか?
お前たちは“心”に縋るしかない“浪人国家”だ。」

羅刹「……だからこそ、強ぇんだよ。」

羅刹が一歩前へ出る。
その一歩に、空気が鳴った。



羅刹「俺たちはな、命令じゃ動かねぇ。
愛する者、守る場所のために動く。
お前らの“マニュアル”にゃ書いてねぇ生き方だ。」

リチャードは沈黙した。
葉巻を噛み、煙を吐き出しながら静かに言う。

リチャード「……所詮はサムライの幻想だ。
この世界を動かしているのは力と金。
理想に生きた者は、いつも敗者だ。」

羅刹はふっと笑い、夜空を見上げた。

羅刹「理想を笑う奴は、夢を語れなかった奴さ。
お前も結局はサラリーマンだな。
帽子の代わりにヘルメットかぶって上に媚びる──そのツルツル頭が似合いすぎてやがる。」

リチャードの葉巻がポトリと落ちた。
地面で火がパチパチと弾ける音が響く。
だが羅刹は一歩も退かず、背中を向けて歩き出した。



羅刹(背を向けながら)
「磨くべきは頭じゃねぇ。魂だ。
坊主になっても、心が濁ってちゃ光らねぇよ。」

その言葉に、県警幹部の 内田聡 が思わず息を呑んだ。
北条部長は小さくうなずき、胸の内で呟く。

北条部長(心の声)
──これが“戦わずして勝つ”ってやつか。
まるで坂本龍馬だな、羅刹……。



その夜、リチャードは鏡の前に立ち、己のツルツル頭を撫でながら呟いた。

リチャード「……なぜだ。
完璧なはずのこの俺が、なぜあの男の笑みを忘れられん……。」

鏡の奥では、羅刹の笑顔が静かに浮かび上がっていた。




翌朝。
長崎・県庁の一室。
リチャード・X・ブラックバーンは椅子に深く腰かけ、葉巻をくわえながら書類を山と積み上げていた。
彼の瞳は、冷たく光っていた。

リチャード
「……やはり、武力ではなく“法”で潰すのが一番スマートだな。」

彼の前には、通訳官と数名の日本人官僚が立っている。
机の上には「家庭制度改革」「一夫多妻違反」「女性の権利保護」と書かれた分厚い英語の文書。

リチャード
「鷹田羅刹──奴の屋敷には妻が一人、そして側室が複数。
現行の日本国憲法下では、それは“違法”だ。
我々の任務は、民主主義をこの国に根づかせること。
よって、彼の“家”そのものを解体する。」

通訳が震え声で訳す。
その場の空気が一瞬凍った。



一方その頃、鷹田家。

昼下がりの縁側で、羅刹は勝司、黒田、島津ら三羽烏と茶をすすっていた。
庭では凛華と側室たちが洗濯を干し、玄鬼は竹とんぼを飛ばして遊んでいる。
穏やかな時間──だった。

しかし、そこに軍靴の音が響いた。

門の外から、通訳を伴った米兵と県庁職員が十数名。
先頭に立つのは北条部長、そして背後には渋い顔の内田聡。

北条部長
「鷹田羅刹殿……政府の命令だ。
あなたのご家庭は“旧制度”として無効とされる。
すべての側室は正式に解放され、あなたの家族関係は再構築されることに──」

羅刹は立ち上がる。
ゆっくりと一歩、また一歩。
北条の前まで歩み寄り、静かに言った。

羅刹
「……解体、だと?」

通訳(英語でリチャードの言葉を伝える)
「Yes. It’s the new law.
Your system of concubines is no longer acceptable in the modern Japan.」

羅刹は一瞬、空を見上げた。
その顔に浮かんだのは怒りではなく、深い悲しみだった。



羅刹
「……なるほど。
これが“自由”か。
家族の形まで他国に決められるとはな。」

勝司が立ち上がり、拳を握る。

勝司
「羅刹さん! こいつら、やりすぎだ!!」

黒田も続いた。

黒田
「側室をどう呼ぼうが、あの人らは立派に一家を支えてきた。
戦中、誰が食い扶持を稼いだと思ってやがる!」

北条部長は目を伏せ、何も言えない。
内田聡だけが唇を噛み、思い切って声を出した。

内田聡
「リチャード殿の命令だ……! だが、私は納得していない。
鷹田殿──どうか、怒りを抑えてくれ。」

羅刹は静かに頷く。
だがその声には、底知れぬ鋼の響きがあった。

羅刹
「怒りは抑える。
だが、誇りは抑えん。
“女を守れぬ国”に、未来はねぇ。」



その夜。
リチャードは出島の高台で報告を受け、冷たく笑っていた。

リチャード
「フフ……感情で動く男だ。
次は“財”を奪う。
土地を、家を、誇りごと──解体してやる。」

葉巻の火が闇に消える。
だがそのとき、長崎の町の灯が一斉に瞬いた。

風が吹き、誰かの声が聞こえた。

──「侍の誇りは、消えんぞ」

その声は確かに、夜空に響いていた。
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