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モテるって大変そう
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春休みが終わり、僕たちは三年生になった。
愛菜は少し離れた場所からこの地域に引っ越してきたため、僕と同じ高校に転校することになった。ただし登校は別々である。
新しい学年、新しいクラス。僕は自分の名前を確認しながら、教室の前で足を止めた。
そのとき、後ろから元気な声が飛んできた。
「みなとぉぉぉ!」
振り向くと、笑顔で走って近づいてくる少女がいた。柊紗奈――幼馴染の女の子だ。
茶色の髪を背中まで伸ばし、底抜けに明るい性格。顔も整っていて、誰が見ても好印象だろう。
「おはよう、紗奈」
僕は笑顔で挨拶を返す。
「湊はもうクラスの確認した?」
「ちょうど今来たばかりだから、これからだよ」
「そうなんだ、じゃあ一緒に探そうよ!」
僕たちは名簿を確認しながら自分の名前を探した。
「あ、僕は3のBだ」
「おぉ!えーっと私は……」
「あっ!私も3のBだ!今年も湊と同じだね!」
紗奈は飛び跳ねて喜んでいる。
2年連続で同じクラスになるのは珍しい。僕も、唯一気軽に会話できる女子が同じクラスで嬉しかった。
そのとき、紗奈が不思議そうに顔をしかめた。
「ねぇ湊、あの名取愛菜って名前、初めて見たよね?」
3-Bクラスの名簿に、確かに「名取愛菜」と書かれていた。
名字は千歳に変わったが、旧姓のままで登録されている。僕と同じ苗字だと周りが混乱する可能性もあるから、それを避けるためかもしれない。
クラスが同じなのはおそらく、僕がいる方が少しは安心できるだろう――学校側の配慮だと思う。
周りの生徒もザワザワし始めた。
「名取愛菜って誰?」
「もしかして転校生?」
僕は愛菜のことを知っていたが、知らないフリをして答えた。
「あぁ、そうだね。聞いたことないな」
その時、視界の端を黒髪の少女が通り過ぎた。愛菜だった――
⸻
朝のホームルーム。
「気づいてるやつもいるかもしれないが、うちのクラスに転校生が来るので紹介する。名取さん、入ってどうぞ」
担任の佐藤先生が言うと、教室内は少しざわめいた。
ガラガラとドアが開き、綺麗な黒髪の少女が教壇の近くまで歩いてきた。
「では名取さん、挨拶をお願いします」
愛菜はにっこりと笑顔をこぼす。
「みなさんこんにちは。名取愛菜と申します。皆さんと仲良くできると嬉しいです。よろしくお願いします」
丁寧で真面目な口調に、完璧な笑顔。教室内の男子たちがヒソヒソと囁く。
「なあ、めっちゃ可愛くね?」
「それな、めっちゃタイプ」
確かに、外見もスタイルも抜群だ。愛嬌もある――だからこそ、なので愛菜はとてもモテるだろう。
それで変な事件に巻き込まれければいいのだが…
それはもう祈るしかない。
⸻
休み時間、案の定愛菜は男女に囲まれていた。
笑顔で一人ひとりに応対している。
(ほんとに、何で僕にだけ冷たいんだろ……)
僕にだけ冷たい理由を考えたが、やはり分からない。
そして放課後、紗奈と途中まで一緒に帰ることになった。
「転校生の愛菜ちゃん、とっても可愛い子だったね!」
「うん、確かにそうだな」
「湊は話しかけなくてよかったの?全然興味なさそうだったけど?」
その言葉に、胸がドキッとした。
幼馴染とはいえ、親の再婚のことはまだ話していない。
「いやぁ…みんなに囲まれてて大変そうだったからな。まあ、また今度でいいかなって」
そう誤魔化す僕の心の中には、
(紗奈には今度説明した方がいいのかな…)
という考えがよぎる。
解散地点に着き、紗奈を見送った。
「じゃあ私こっちだから、また明日ね!」
「おう、じゃあな」
小さくなる背中を見送り、僕は反対方向へ歩き出す。
人気のない道をぼーっと歩いていると、前方で女子高生らしき人が男二人に絡まれているのが見えた。
(んー、あんまり巻き込まれたくないけど、無視もできない……でも声かけたら逆に危ないかもしれないし……)
そんなことを考えているうちに、僕は彼女たちの近くまで来てしまった。
「だからさぁ、俺たちと遊ぼうよ!少しだけでいいからさ」
「いやです、もう諦めてください」
ナンパされている女子高生――見覚えがある。
「あ、愛菜?」
僕は思わず声をかけた。
「あの、困っているのでやめてあげたらどうです?」
「あ?誰だお前」
「お前には関係ねぇだろ、邪魔すんなよ」
喧嘩腰の男たち、このままだと事態は悪化しそうだった。
でも僕は格闘経験や喧嘩経験は無い。
僕は最後の手段を使った。
「ここに!ナンパしてる人がいますー!!!」
大きな声を出すと、男たちは顔をしかめながら立ち去った。
僕の男としてのプライドはどこかへ消え去ったが、愛菜を守れたことに少しだけ安心した。
「愛菜、大丈夫か?じ、じゃあ僕は先に行くから!」
恥ずかしさのあまり、愛菜の顔を見ることもできず、走り去った。
後ろから「ちょっと待って!」という声が聞こえた気もしたが、無視して逃げるように家へ向かった。
⸻
家に着き、手を洗い、制服を脱いで部屋着に着替える。
ベッドに横になりながら、頭の中で繰り返し言葉を呟く。
「絶対嫌われた」
顔は見れなかったが、ゴミを見るような目でこちらを見ていた愛菜の姿が頭に浮かぶ。(妄想)
次に会うとき、どんな顔をすればいいのか――考えるだけで緊張した。
しばらくしてドアがノックされ、足音が近づいてくるのに気づいた。
(なんか嫌味でも言われるのだろうか……)
僕は覚悟を決めて返事をした。
「はい」
ドアが開くと、愛菜が少し恥ずかしそうに立っていた。
「さっきは、ありがとう……」
最後の言葉は聞き取れなかったけれど、冷たかった愛菜が初めて優しい言葉をかけてくれた――その事実だけで、僕の胸は熱くなった。
「お、おう、無事で何よりだよ」
そう答える前に、愛菜はそそくさと部屋を出て行った。
状況を整理しつつ、僕は思った。
これからは、――『普通の兄弟』として仲良くやっていければいいな、と。
愛菜は少し離れた場所からこの地域に引っ越してきたため、僕と同じ高校に転校することになった。ただし登校は別々である。
新しい学年、新しいクラス。僕は自分の名前を確認しながら、教室の前で足を止めた。
そのとき、後ろから元気な声が飛んできた。
「みなとぉぉぉ!」
振り向くと、笑顔で走って近づいてくる少女がいた。柊紗奈――幼馴染の女の子だ。
茶色の髪を背中まで伸ばし、底抜けに明るい性格。顔も整っていて、誰が見ても好印象だろう。
「おはよう、紗奈」
僕は笑顔で挨拶を返す。
「湊はもうクラスの確認した?」
「ちょうど今来たばかりだから、これからだよ」
「そうなんだ、じゃあ一緒に探そうよ!」
僕たちは名簿を確認しながら自分の名前を探した。
「あ、僕は3のBだ」
「おぉ!えーっと私は……」
「あっ!私も3のBだ!今年も湊と同じだね!」
紗奈は飛び跳ねて喜んでいる。
2年連続で同じクラスになるのは珍しい。僕も、唯一気軽に会話できる女子が同じクラスで嬉しかった。
そのとき、紗奈が不思議そうに顔をしかめた。
「ねぇ湊、あの名取愛菜って名前、初めて見たよね?」
3-Bクラスの名簿に、確かに「名取愛菜」と書かれていた。
名字は千歳に変わったが、旧姓のままで登録されている。僕と同じ苗字だと周りが混乱する可能性もあるから、それを避けるためかもしれない。
クラスが同じなのはおそらく、僕がいる方が少しは安心できるだろう――学校側の配慮だと思う。
周りの生徒もザワザワし始めた。
「名取愛菜って誰?」
「もしかして転校生?」
僕は愛菜のことを知っていたが、知らないフリをして答えた。
「あぁ、そうだね。聞いたことないな」
その時、視界の端を黒髪の少女が通り過ぎた。愛菜だった――
⸻
朝のホームルーム。
「気づいてるやつもいるかもしれないが、うちのクラスに転校生が来るので紹介する。名取さん、入ってどうぞ」
担任の佐藤先生が言うと、教室内は少しざわめいた。
ガラガラとドアが開き、綺麗な黒髪の少女が教壇の近くまで歩いてきた。
「では名取さん、挨拶をお願いします」
愛菜はにっこりと笑顔をこぼす。
「みなさんこんにちは。名取愛菜と申します。皆さんと仲良くできると嬉しいです。よろしくお願いします」
丁寧で真面目な口調に、完璧な笑顔。教室内の男子たちがヒソヒソと囁く。
「なあ、めっちゃ可愛くね?」
「それな、めっちゃタイプ」
確かに、外見もスタイルも抜群だ。愛嬌もある――だからこそ、なので愛菜はとてもモテるだろう。
それで変な事件に巻き込まれければいいのだが…
それはもう祈るしかない。
⸻
休み時間、案の定愛菜は男女に囲まれていた。
笑顔で一人ひとりに応対している。
(ほんとに、何で僕にだけ冷たいんだろ……)
僕にだけ冷たい理由を考えたが、やはり分からない。
そして放課後、紗奈と途中まで一緒に帰ることになった。
「転校生の愛菜ちゃん、とっても可愛い子だったね!」
「うん、確かにそうだな」
「湊は話しかけなくてよかったの?全然興味なさそうだったけど?」
その言葉に、胸がドキッとした。
幼馴染とはいえ、親の再婚のことはまだ話していない。
「いやぁ…みんなに囲まれてて大変そうだったからな。まあ、また今度でいいかなって」
そう誤魔化す僕の心の中には、
(紗奈には今度説明した方がいいのかな…)
という考えがよぎる。
解散地点に着き、紗奈を見送った。
「じゃあ私こっちだから、また明日ね!」
「おう、じゃあな」
小さくなる背中を見送り、僕は反対方向へ歩き出す。
人気のない道をぼーっと歩いていると、前方で女子高生らしき人が男二人に絡まれているのが見えた。
(んー、あんまり巻き込まれたくないけど、無視もできない……でも声かけたら逆に危ないかもしれないし……)
そんなことを考えているうちに、僕は彼女たちの近くまで来てしまった。
「だからさぁ、俺たちと遊ぼうよ!少しだけでいいからさ」
「いやです、もう諦めてください」
ナンパされている女子高生――見覚えがある。
「あ、愛菜?」
僕は思わず声をかけた。
「あの、困っているのでやめてあげたらどうです?」
「あ?誰だお前」
「お前には関係ねぇだろ、邪魔すんなよ」
喧嘩腰の男たち、このままだと事態は悪化しそうだった。
でも僕は格闘経験や喧嘩経験は無い。
僕は最後の手段を使った。
「ここに!ナンパしてる人がいますー!!!」
大きな声を出すと、男たちは顔をしかめながら立ち去った。
僕の男としてのプライドはどこかへ消え去ったが、愛菜を守れたことに少しだけ安心した。
「愛菜、大丈夫か?じ、じゃあ僕は先に行くから!」
恥ずかしさのあまり、愛菜の顔を見ることもできず、走り去った。
後ろから「ちょっと待って!」という声が聞こえた気もしたが、無視して逃げるように家へ向かった。
⸻
家に着き、手を洗い、制服を脱いで部屋着に着替える。
ベッドに横になりながら、頭の中で繰り返し言葉を呟く。
「絶対嫌われた」
顔は見れなかったが、ゴミを見るような目でこちらを見ていた愛菜の姿が頭に浮かぶ。(妄想)
次に会うとき、どんな顔をすればいいのか――考えるだけで緊張した。
しばらくしてドアがノックされ、足音が近づいてくるのに気づいた。
(なんか嫌味でも言われるのだろうか……)
僕は覚悟を決めて返事をした。
「はい」
ドアが開くと、愛菜が少し恥ずかしそうに立っていた。
「さっきは、ありがとう……」
最後の言葉は聞き取れなかったけれど、冷たかった愛菜が初めて優しい言葉をかけてくれた――その事実だけで、僕の胸は熱くなった。
「お、おう、無事で何よりだよ」
そう答える前に、愛菜はそそくさと部屋を出て行った。
状況を整理しつつ、僕は思った。
これからは、――『普通の兄弟』として仲良くやっていければいいな、と。
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