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141 戦闘開始

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 体が揺らされて目が覚めた。

「──す、すみません! 寝すぎました!」

 一瞬に覚醒してパイオニアから転がり降りた。

「慌てるな。そんなに眠ってもいないから」

 ギルドマスターに立たせてもらい、土や葉を叩き落としてもらった。

「仮眠するのもいいが、眠りすぎるのもよくないぞ。体が温まるまで時間がかかるし、体力も消費する。辛かろうが体だけは起こしておけ」

 そう言うものなのか。なら、熟練者の言葉に従っておこう。素人に毛が生えたようなオレには熟練者の忠告は金にも勝る価値あるものなんだからな。

 缶コーヒーとミルクティーを出し、気持ちを落ち着かせた。

「ゴルグは?」

「起きとるよ」

 すぐ横から声がして、視線を向ければ木に寄りかかってワインを飲んでいた。

「戦いの前に酒なんて飲んで大丈夫なのか?」

「おれは職人なんだぞ。素面でやってられるか」

「ふふ。そうだな。よくわかるよ。オレも初めの頃は酒を飲まなくちゃやってられなかったからな」

 酒は元の世界にいた頃から好きだったが、この世界にきてから酒の量が増えた。まさに素面でやってられるか、だ。

「おれも菓子がないとやってられんな」

 うん。それは違うと思う。けどまあ、最大主力なお方。シュークリームを献上してやる気を爆上げしてもらおう。

「美味い。これのためならゴブリン狩りに残りの人生を費やしてもいいかもな」

 方々から恨まれそうなので止めてください。あと、糖尿になるからほどほどにしてくださいね。

「それで、ゴブリンの動きはどうなのだ?」

 チラッと腕時計を見れば二時半だった。

「まだ動きはありませんが、第三陣が纏まりないですね。なにか飢えているような感じがします」

「おそらく使い捨てか特攻させるのだろう。以前、書物で読んだ」

「確かに最初は狂ったように襲ってきましたね」

 よくあの狂気から生き残れたと思うよ。一生の運をあのときで使い果たしてないことを切に願うぜ。

「今度、その話を聞かせてくれ。ゴブリンの被害は大きいが、それを記録に残したものは少ないのだ」

「構いませんが、群れる前に予算を組んで駆除したほうがいいと思いますよ」

「わかってはいるが、予算も人も有限だ。どうしても優先順位が下がってしまうんだよ」

 去年からゴブリンが増えたことはわかっていたらしいが、いきなり予算を組むことができずに後手に回っていたようだ。

「タカトがきてくれて本当に助かった。もし、きてくれなかったと考えると胃が痛くなるよ」

 わかっているのに手立てがない。さぞやストレスが溜まっていたことだろうよ。解決していたオレもストレス溜まってたけど!

「ん? 第一陣も動き出しましたね」

「二方向からの攻撃か。王はそれなりに経験を積んでいるかもしれないな。こちらはどう出る?」

「動き出してしばらくしたら第二陣に襲いかかります。初撃はオレとゴルグで蹴散らします。崩れたところをギルドマスターに突っ込んでもらいます。王の隊が第一陣が反転してくるまで暴れ回って、大きく迂回して王の隊の背後に移動します。あとは状況次第です」

「わかった。後退時はタカトが判断してくれ」

 と言うことで、ギルドマスターに腕時計とガスマスク、方位磁石、水と食料を詰めたディーバッグを渡した。

「悪いが、ゴルグは自分で買ってくれな」

 ラダリオンがいれば巨人サイズにできるが、今はどうしようもない。負担はいずれ返させてもらうからよ。

「ああ。自分のものは自分で買うよ。お前にばかり借りを作ってられないからな」

 借り? なんか貸したっけ? まあ、なんでもいい。第一陣と第三陣が動き出した。気づかれないよう第二陣に近づくとしよう。

 最終ミーティングを行ってから第二陣の背後へ移動した。

 小さな光で足下を照らしながらゴルグの進みは静かだ。いったいどうすればできるんだか? オレのほうが音を出してるぞ。

「ゴルグ、止まれ!」

 大声を出したくはないが、七メートル上空にある耳に届くには叫ばなくちゃならないのだから仕方がない。次回のためにゴルグ用の無線機も用意しておかないとな。

「どうした?」

 ゴルグがしゃがんで尋ねてきた。

「第一陣と第三陣が動いた」

「カインゼル様たちは?」

「問題なく排除してる」

 四人いるから陣地には近づけていないでいる。あっと言う間に五十万円の報酬が入ってきた。

「第二陣は三百から四百。ゴルグは右。オレは左から減らしていく。ギルドマスターは中央から攻めてくるゴブリンをお願いします。抑え切れない場合は声を出して知らせること。その場合、ゴルグが先頭。中央がギルドマスター。殿はオレです」

 二人が了解と頷く。

 まったく。戦闘の素人のオレが指揮とか胃が痛くなって仕方がない。だが、ゴブリンの気配を察知できるのはオレだけ。重戦車たるゴルグが道を開き、ギルドマスターが印となって前を走ってくれないと迷子になる。自然と殿はオレとなるのだ。

「オレが撃ったら戦闘開始です。各自、配置に」

 そこで分散し、MINIMIの射程にはいる距離まで近づいた。

 第二陣の気配は興奮してて背後から近づくオレたちには気づいていない。

 オレたちの位置は山の中腹。第二陣は約百メートル下。木々の間に身を潜めている状態だ。

「オレ、この戦いが終わればサーマルビジョン買うんだ」

 なんの死亡フラグかわからんが、MINIMIを抱え、弾薬背負って暗闇を進む困難さよ。もう泣きそうである。

 だが、泣くのはあと。さらに五十メートル進み、息を整えてからMINIMIを構えた。

「さあ、戦闘開始だ」

 MINIMIの引き金を引いた。
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