上 下
169 / 459

169 ズル賢い大人

しおりを挟む
「北西にゴブリンが固まってる場所がある。そこにいってみよう」

 気になっていたのだ。そこだけ五十匹くらい固まっているのだ。巣でもあるんだろうか?

 二分ほどで到着。以前、大木が立ってたのだろう。朽ちた幹だけが残っていた。

「ここ、ゴブリンをよく見るところです」

「いるとわかっていて狩らないのか?」

「どうも地下に巣を作っているようで、人がくると隠れてしまうんです」

 なるほど。掘り起こしてまでやる価値なし、ってことか。

「ライダンドではゴブリン一匹狩るといくらになるんだ?」

「銅貨二枚です」

 ってこと二百円くらいか。そりゃ誰もやりたがらないわな。オレもそれでやれと言われたら即行転職させてもらうわ。

 丘の周りを探ってみると、それっぽい穴がいくつかある。

「よし。炙り出す。それぞれ狙いやすい位置に立て。ビシャもやっていいぞ」

 パイオニアからスモーク発煙筒と折り畳みのスコップ、ビニールシートを出した。

 スモーク発煙筒を発火させたら穴に放り込み、ビニールシートで穴を塞いだら土をかけてスモークが漏れないようにした。

 オレもVHS-2をつかんで丘に上がった。

「煙が出た!」

 結構スモークが出ること。ゴブリンはいつまで堪えられるかな?

 煙がいくつかの穴から出て二分。下で固まっていたゴブリンが動き出した。

「出てくるぞ。しっかり狙えよ」

 パニックに陥っているようで、がむしゃらに穴を進んで外を目指しているようだ。

「射ち漏らしは気にするな。逃げたら馬で追えばいいんだからな」

 一人五匹も狩れたら充分だ。それ以上は追って殺せばいいだけだ。

「出るぞ!」

 オレは撃たず、三人の弓の腕を見た。

 それぞれ一射目は当て、二射目も当てた。が、三射目からは外し始めたが、手持ちの矢を三本残して三十数匹を射殺してしまった。ちなみにビシャも六匹くらいは撃ち殺してました。

「何匹か逃げたか。まあ、これだけ倒せば追う──ん?」

 真下にゴブリンの気配を感じた。

「まだ残ってたのか」

 逃げ出したゴブリンに気を取られてて見落としていたよ。

「また出てくる。オレが殺るから手を出すな。おそらくマーヌだ」

 犬と猿くらいの違いがあるのに仲良く巣にいるとか謎だが、そういう謎は後回し。今はマーヌを仕留めることに集中しろ、だ。

 マーヌは三匹。その三匹が一列に並んで出てきている。

 連射にしてタイミングを合わせて引き金を引いた。

 タイミングよく出てきてくれたお陰で三匹を撃ち殺せ──はしないか。まだ息があるよ。

「上位種は生命力が高くて嫌になる。ビシャ。止めを刺していいぞ」

 今日のガソリン代と酒代は稼いだ。いや、四人が稼いでくれた。ビシャに稼がせてやろう。

「わかった!」

 Dスナイパーからククリナイフに持ち換えて虫の息のマーヌの首をチョンパッパ。十二歳なのに腕力がオレ以上。頼もしいことだ……。

「ビシャ! 魔石を取ってくれ!」

 ムバンド村で見たマーヌより小さい感じがするが、ハスキー犬くらいはある。それなりの魔石が取れるはずだ。

「タカト! あったよ! アーモンドチョコくらい!」

 サイズの比較がアーモンドチョコとか、ビシャたちも元の世界の品から逃れられなくなってるな。

 三つの魔石を水で洗い流し、プレートキャリアにつけたポーチに入れた。

「バイス、サイルス、ライマー。ゴブリンの耳を切れ。銅貨二枚でも四、五十もあればいい食事ができるだろうからな」

 まずはゴブリンの耳を切り落とさせ、ホームから持ってきた段ボールに入れさせた。直でパイオニアに積むことは許しません。

「よし。充分倒せたし、昼でもしながら請負員カードの使い方を教えよう。とりあえず、ラズ川に戻るか。ここじゃ血生臭いしな」

 ゴブリンの臭さにも慣れたとは言え、飯を食いながら嗅ぎたい臭いではない。食べるなら空気の清んだところで食いたいよ。

 ラズ川に戻り、ビジネスホテルの朝食ビュッフェを買い、人数分の料理を運んだ。

「スゲー! どこのお貴族様の料理だよ!」

「いい匂いすぎる!」

「美味そう!」

「遠慮なく食っていいぞ。足りなければもっとあるからな」

 言葉遣いはマシになったが、食い方は野生児。フォークも一緒に持ってきたんだから使えよな。ビシャがお嬢様に見えるぞ。

「お前ら、ワインは飲める歳か?」

 てか、ここでは何歳から飲めるんだ? 決まりなしか?

「はい! 飲めます!」

「高いからあまり飲めませんけど!」

 濃縮還元ぶどう果汁のワイン? って呼んでいいのかわからないワインを出してやる。アルコール度数も低いし、飲んだことあるなら耐性もあるだろう。

「うめー!」

「こんな濃いの初めてだ!」

「ゴブリンを狩ったらこんなのが食えて飲めるんですか!?」

「ああ。ゴブリン一匹狩ればこれが七本は買える。これよりもっと美味いものだって食えるぞ」

 これからがんばって駆除してもらえるように煽ってやる。

「これがゴブリン請負員だ。がんばればかんばるほど美味いものが食えて美味い酒が飲める。ただ、美味すぎてこれまで食ってたものが食えなくなるがな」

「……これ以上のものが……」

 散々食ったのに生唾を飲む三人。異世界人は本当に食うか飲むかで火がつくよな~。まあ、焚きつける立場としては楽だけど。

「ロダンさんはお前たちに稼がせて酒を買わせるのが目的だろう。お前たちの苦労が親に搾取されるんだ。だが、請負員カードはオレや請負員にしか見ることはできない。搾取されたくなければ少な目に報告しておけよ。ズル賢い大人からのちょっとした助言だ」

 三人にニヤリと笑ってみせた。

「はい! 助言、ありがとうございます!」

 うんうん。素直でいい少年たちでなによりだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

顔の良い灰勿くんに着てほしい服があるの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:0

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,907pt お気に入り:1,293

仮面肉便姫

BL / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:241

イアン・ラッセルは婚約破棄したい

BL / 完結 24h.ポイント:32,681pt お気に入り:1,576

華園高校女子硬式野球部

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...