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 夕食は賑やかに、なんてことになるわけもなく、ただ黙々と食べるばかりなり。

 とは言え、食材はこちらが用意したもので、ミスズの燻製肉、シチュー、リンゴ、ニンニクで炒めた豆、そして、ミサロ特製のハンバーグ。これらを平静に食べるなど不可避。黙々と言うよりガツガツと、が正しいな。

 力で治めているのを証明するかのようにどいつもこいつもよく食べる。四十になったら食が細ると聞いたが、ここのヤツらは違うようだ。

 お代わりを要求する声が上がり、用意した料理を食い尽くす勢いである。が、腹が満ちれば不満も不安も多少は落ち着くもの。オールオッケーだ。

 沈黙は続くが、さっきまでの殺伐とした気配は消え去り、食後のコーヒーを出したら寄り子たちの口も軽くなって、美味かったと隣の者と言い合っていた。

「周辺の食料事情もあまりよくなかったみたいですね」

 ゴブリンがこちらに集中してたんだから食糧難にはなってないだろうが、貴族でも冬を越すのは厳しいのだろう。肉を食えたことに満足しているよ。

「本当なら伯爵家が支援したりするのだが、今はこちらが支援される立場だ」

 さぞ辛かっただろうよ。自分の力ではどうにもならないことで落ち目になり、支える立場が支えられる立場となるんだからな。

 まあ、それを乗り越えての寄り親であるんだろうが、オレなら胃に穴を開けて、毎晩泣いていることだ。ほんと、普通の家庭に生まれてよかった。この世界に連れてこられてご破算だがな!

「帰りに甘いものでも手土産に渡しますか? 奥様やお子様の胃袋をつかむために」

 なにか、こいつらを攻めるより後ろにいる者を陥落させるほうが早いような気もするな。

「そうしてくれると助かる」

 では、チョコレートでも用意しておきますか。チョコレートなら十五日で食べ尽くしてしまうだろうからな。まあ一応、早く食べるようには伝えるけど。

「満足いただけただろうか?」

 伯爵が席を立ち、笑みを浮かべながら寄り子たちに尋ねた。

 貴族の手柄がどんなものかわからんが、これだけのものを用意した。それがオレらの力とは言え、そのオレを従えたのは伯爵の度量であり手柄でもある。もし、違うと言うならこいつらは己の度量だけで領地を富ませたのか? 部下の力は借りなかったのか? 己だけの力でなんとかできると考えているなら寄り子を辞めればいい。伯爵の下から立ち去れ、だ。

「とても満足しました。世の中にはこんな美味いものがあるのですな」

 伯爵の問いに答えたのは黒髪黒目、西洋と東洋のハーフっていった感じの男だ。真っ先に答えたところをみると、こいつがエビル男爵だな。誰よりも力で治めているっぽい感じだぜ。

「それはよかった。奥方への土産も用意してある。帰る際は忘れずにな。あとで奥方に文句を言われてもわたしは知らんぞ」

 伯爵の冗談に、寄り子たちはなんとも言い難い表情をしている。その中で一人、オレに目を向けている人物はやはりエビル男爵だ。別段、脳筋ってわけじゃなさそうだ。

 夕食は伯爵主導なのでオレは黙っているが、エビル男爵の睨みに笑みで返した。オレはいくらナメられても気にしないが、伯爵がナメられたら困る。寄り子を従えてオレの後ろ盾になってもらわなくちゃならないからな。ハッタリを噛ましておこう。

 笑みを返されたことにエビル男爵は一瞬驚いたが、すぐに表情を抑えた。

 夕食が終わり、食器などを片付けたらワインが出され、伯爵夫人とミリエルは下がらせた。女性はまだ表立って領地に口出せない時代のようだ。

 会合? も伯爵主導にさせ、これまでのことを寄り子たちに説明。ゴブリン駆除ギルドのこと、ゴブリンの片付け、エルフのこと、コラウスから豆を買いつけて春から植える計画のこと、ライダンドから山羊を買いつけて畜産にも手がけることを話した。

 これでアシッカ伯爵領が元通りになるわけではないが、ゴブリン駆除ギルドの支部が置かれることでゴブリンの心配はない。それだけでも魔物溢れる世界で生きてきた者には安心できる内容なはずだ。

「もちろん、タカト殿がいればすべて解決と言うわけではない。アシッカはそれだけの被害を受けたのだ。皆の力なくてはアシッカは成り立たぬ。どうかこの難局に皆の力を貸して欲しい。回復するまでの二年は税を免除しよう。王国への税は伯爵家が負担する」

 寄り子たちには大盤振る舞いの内容だろうが、寄り子たちが回復しなければどのみちアシッカに先はない。

 その間の税はゴブリン駆除ギルドの上納金? みかじめ料? なんか反社会的な言葉しか浮かんでこないが、アシッカ伯爵領でオレたちの行動を許可してくれ、後ろ盾になってくれるのだから金貨百枚(一年で払う額ね)くらい安いもんである。

 そんな金がどこに? と問われる方にお答えしよう。換金してない魔石を売れば金貨百枚くらいにはなると、ミサロを通じてコラウスに買ってもらいました。

 二年目は、まあ、なんとかなるだろう。どうせまた魔物と戦う羽目になるだろうし、海、アシッカ、コラウスの流通経済を構築していく。人が流れたらアシッカにも金は落ちるはずだ。

 もちろん、これが素人考えなのはわかっている。上手くいくかも謎だ。だが、指針を出さなければ寄り子たちは動かない。オレの真の目的は、トップダウン方式を取り戻すこと。それができればアシッカはいいほうに動いていく、はず。

 ま、まあ、成せば成るでやっていきまっしょい!
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