上 下
407 / 459

407 スタンド

しおりを挟む
 四匹、五匹と順調に倒すことができた。

 とは言え、この広いマイセンズを駆け回るのは辛すぎる。軽く二十キロ以上は走ったぞ。

「カインゼルさん。今どの辺にいますか?」

 タワマンの三十階くらいまで昇り、窓を破ってカインゼルさんに通信する。

「まだ建物の上にいる。おそらくロスキートだと思う。四、五十匹入ってきた。飛ぶのは危険なので大人しくしとるよ」

 三次元マップにして動体反応を探ると、小さい反応がたくさんあった。

 クソ。ロスキートまで現れるのは反則だろう。二メートルサイズのなら建物の中まで入ってくんだろうがよ!

「では、そちらに向かいます」

「いや、くるな。逆に目立つ。いざとなればマンダリンで逃げるから安心しろ。イメージトレーニングはしとるんでな」

 年齢も年齢なのに、カインゼルさんの成長が止まることを知らんな。イメージトレーニングとかいつ覚えたんだろう。カインゼルさんには使ってないはずなんだがな?

「無茶しないでくださいね」

「無茶をしているのはお前だろう。長年兵士をやってきたわしを心配するなど五十年早いわ。武器も食料もあり、空を飛べるマンダリンまであるのだ、ロスキートの群れごときでやられたりはせん」

 ほんと頼もしい人だ。あのとき仲間にしたオレ、グッジョブだ。

「わかりました。オレらは休憩に入ります。そちらも適度なところで休んでくださいね」

「了解だ」

 通信を切り、サイルスさんたちの信号を探した。

 あちらはタワマンからランダーズに向けて移動中のようで、ローダーに追われいる感じではない。

 ローダーの反応が減っているところからして倒したようだ。やはり英雄クラスがいて、EARを持つ者や接近戦が得意なヤツが揃っていると強いもんだ。

「マイズ。タカトだ。こちらは休憩に入る。そちらも適度なところで建物に入って休憩しろ」

「了解です。サイルス様に伝えます」

 声の調子からもひっ迫している様子もない。順調に後退しているようだ。

「イチノセ。ロスキートの群れが接近してきます。数は八」

 オレも三次元マップで確認したらこちらに真っ直ぐ向かってきている。気づかれている?

「倒すぞ」

 ローダーだけなら建物の中に入ればなんとかなるが、ロスキートまでいたんでは逃げるのも大変だ。殺れるときに少しでも殺っておくべきだろうよ。八匹なら余裕だ。イチゴならな!

 建物と建物の間に入り、一方通行作戦を決行する。

 路地に入ってきたロスキートに発射。イチゴの攻撃から逃れた二匹が空に飛んだ。

 イチゴがマガジンを交換する時間はオレが稼ぐと、前に出て7.62㎜弾を撃ち出した。

 ロスキート相手なら7.62㎜弾で充分。マガジン一本分で二匹を撃ち殺せた。

「イチゴは警戒しろ。魔石を取り出す」

 茶色の魔石がなんの属性かはわからんが、ロスキートの魔石なら持ち運びに便利なサイズだ。それに、マルスの町でロスキートの報酬はよかった。ってことは需要がある属性なんだろう。捨てていくことはできんぜ。

 マチェットを取り寄せてロスキートを切り刻むと、ビー玉くらいの灰色の魔石が出てきた。

 ローダーは茶色なのにロスキートは灰色かい。種が違うのか? それとも育つと変わっていくのか?

 まあ、灰色の魔石は土属性だったはず。それならミシニーが使える。ゴーレムをたくさん創ってもらおう。

 作業鞄に入れ、少し離れてからホームに入った。

「タカトさん!」

 玄関には三人が揃っており、オレらが現れると駆け寄ってきた。

「オレは大丈夫だよ。装備の手入れを頼む」

 装備を外したらウエスとお湯を持ってきて汚れたイチゴを拭いてやった。

 イチゴの装甲はいろんなメッキ処理されて汚れがつき難くなっているが、粘液系をまともに被ったら拭いてやらないとさすがに落ちない。特に隙間に入ったものはイチゴ自身で取るのは不可能だ。

「ありがとな。お前が現れてくれなかったら死んでたよ」

「権力者上位者を守るのが優先されます」

 AI的なものが搭載されてはいるが、まだ人との付き合い方や受け答えが育ってない。気の利いた受け答えができるのはもっと先だろうな。

「それでも感謝はさせてくれ」

「ラー」

 イチゴは道具だ。銃やパイオニアとなんら変わらない。だが、命を救われると不思議と情が湧いてくるもの。大事にしたいと思うのは人の性ってもんだろうよ。

 体液系を落としてやったら乾いたウエスで拭いてやり、マナックを補給してやる。

「イチゴ。休んでいろ」

 休む必要がない体ではあるが、させることもないのでウィルに座らせて休ませた。

「随分と気に入ったみたいね」

「まーな。オレを守る大切な力だからな」

 ジョ◯ョ風に言えばイチゴはオレのスタンド。イチゴを大切にするということはオレ自身を大切にするのと同義。命大事に、だ。

 装備のほうも綺麗になったので三人に外の様子を語り、今後の予定を話し合った。

 終われば中央ルームに移って夕食にする。

 外で戦っている皆には申し訳ないが、明日のためにも鋭気を養わなければ足手まといとなる。皆を生かすためにもゆっくり休ませていただきます。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

顔の良い灰勿くんに着てほしい服があるの

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:92pt お気に入り:0

待ち遠しかった卒業パーティー

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,879pt お気に入り:1,291

仮面肉便姫

BL / 完結 24h.ポイント:49pt お気に入り:241

イアン・ラッセルは婚約破棄したい

BL / 完結 24h.ポイント:35,013pt お気に入り:1,560

華園高校女子硬式野球部

青春 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

処理中です...