女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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7. プチフルールは口に甘し

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「カトレア!」

 お父様より先に挨拶をするという無作法に、私は慌てて妹を引き戻した。まだ子供といっても、もう13歳だ。淑女教育は始まっているし、何より親戚の大叔父とはいえ、先代の国王に気安く抱きついていいものではない。

「やあ、皆よく来てくれたね」

「ご無沙汰しております、先代様」

 お父様が何事もなかったように頭を下げた。私も続いて、最上級のカーテシーで挨拶する。

「お久しぶりでございます。ご機嫌如何でしょうか?」

「お久しぶりです。おじい様」

 カトレアも今度は私に倣って、きちんと淑女の礼をとった。だがすぐに姿勢を戻して、先代様の腕にしがみつく。マナーも何もあったものではない。
 だがそんな子犬のように懐いてくるカトレアが、先代様には可愛くて仕方ないのだろう。目を細めて鷹揚に抱きとめた。

「はは、カトレアは相変わらずだね。皆、見たところ変わりもなく、安心した。タチアナも元気にしているか? さあさあ、今日は天気もいい。庭でお茶でもしよう」

 家で留守番のお母様も気にかけてくれながら、先代様は私達を歓迎してくれた。腕にぶら下がったカトレアをそのままに、部屋のフレンチドアを抜けて外に出る。
 庭の一画には既にテーブルの準備がされていた。皆が席に着くとすかさず、メイド達が紅茶を注いでくれる。

「さあ、今日はカトレアの好きな苺のケーキと、アメリアの好きな洋梨のタルトを用意したよ」

「ありがとう、おじい様! おじい様のところのシェフが作るケーキ、私大好き」

 ……ああ、カトレアの言葉遣いがすごく気になる。
 カトレアは基本無邪気だが、その実、人となりをよく見ていてその場の空気をちゃんと読む。控える時にはちゃんと控えるが、反面、私を含め自分に甘いと分かっている人にはとことん遠慮がなかった。いわゆる天性の甘え上手なのだ。
 早々に公爵家の後継として厳しい道を選んだ私には、到底真似できない芸当だった。

「……お気遣い、ありがとうございます、先代様」

「おじい様、だよ。アメリア」

 優しく先代様が私に言った。親戚としてより家臣として分を弁えようとするのに、その寂しそうな顔に抗えない。

「……ありがとうございます、おじい様」

 私は苦笑して先代様の希望通り言い直した。自身に女の子が産まれなかった所為か、彼は実の孫娘含め、私達姉妹にもとても甘い。数年前に長男に国王の位を譲り、王宮の片隅の離宮に隠居してからはその傾向が顕著になった。今やすっかり好好爺の体である。

「それでハワード、万事変わりはないか?」

「そうですね、あまりこれといった問題はありませんが、マクローリン国への食支援のために、今年は少し予算が嵩みそうです。あとは……」

 政情のことで話し始めた先代様とお父様に、私とカトレアは邪魔することなく午後の紅茶を楽しんだ。先代様が用意してくれた色とりどりの一口ケーキは、私の好きなタルトを含めどれも美味しい。
 大好きな苺のケーキを口に運んで、カトレアも幸せそうだ。

「ねえお姉様、このフレジェ本当に美味しいわよね」

「ええ、そうね。ーーあら、だれかこっちに向かって来るわ」

 ふと見上げた視界の隅に、庭の芝生を横切ってこちらに歩いて来る人影が見えた。
 ここは本邸から随分離れているといえど王宮の一画だ。しかも先国王の離宮に入り込める人物など限られている。

 相変わらず、無駄に美形ね……

 太陽の光に反射して、豪奢な金髪がきらきらと光っていた。遠目に見ると、その均等の取れたスタイルの良さがよく分かる。今も剣を振るっているのか、上背もガッチリとしていた。

 颯爽と現れた美丈夫は、にこやかに先代様に向かって頭を下げた。

「やあ、お祖父様。ご機嫌如何ですか?」

 レオナルド殿下の登場に、私の顔が引き攣った。
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