女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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8. きらきら☆プリンス

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 現ラッセル国王には3人の子供がいる。王子が2人に、末に王女。
 もうすぐ19歳の誕生日を迎えるレオナルド殿下は、国の王太子、第一王子だった。私達姉妹から見たら『はとこ』に当たる。

「フェルマー公爵もお久しぶりですね。アメリアにカトレアも。元気だったかい?」

 椅子から立ち上がって臣下の礼をとる私達親子に、レオナルド殿下は気安く声をかけた。

「レオナルド殿下」

「ご機嫌麗しゅう」

「お兄様! お久しぶりです」

 思いがけない美形の登場に、カトレアの声が弾んでいる。反して私は、何とも言い知れない緊張感に包まれていた。私はこの、頭のてっぺんから足のつま先まで、どこをとっても完璧な王子様の『はとこ』が苦手なのだ。

 侍従がレオナルド殿下に椅子を運んできて、私達は改めてお茶の席を囲んだ。新たに淹れられた紅茶の芳しい香りが辺り一面に漂う。

「お祖父様、急に来てしまい申し訳ありません。フェルマー公爵家が来ているという噂を耳に入れまして、つい顔を見たくなったんですよ」

「……何か急変でも?」

 お父様はあくまで冷静だった。先触れのない訪問者は全て有事と考えている。

「いやいや。単に、はとこの顔が見たくなっただけですよ。2人に会うのは随分久しぶりですからね。それにしても、カトレアは随分大きくなったね。もうすっかりレディだ」

「うふふ。ありがとうございます、お兄様。私がデビューする時は、絶対エスコートして下さいね!」

「……ああ、喜んで」

 ……デビューの際のエスコートは、基本父親の仕事だ。これから社交界に巣立つ娘を後押しするための、肝心な初めの一歩。
 既に成人している大人4人はそう思ったが、賢明にも誰も口に出して咎めたりはしなかった。本当にその時が来たら、きっとこの子供は今日のことを忘れていると思ったから。

「アメリアもすごく綺麗になったね。先の君のデビューの時も思ったけれど、目を見張ったよ」

 レオナルド殿下の美しいコバルトブルーの瞳が、今度は私に向けられる。その麗しい微笑みから逃れるように、私はそっと目を伏せた。

「……恐れ入ります、殿下」

「……もう、お兄様とは呼んでくれないのかい?」

「……」

 どうしてこの親戚家族は、こうも自分達のことを愛称で呼ばせたがるのだろうか。引退した先代様はまだしも、レオナルド殿下はこれからも上位関係にある。今馴れ合うわけにはいかない。

「……何事も、ケジメは必要ですので。レオナルド殿下」

 私の頑なな答えに、彼は小さく「仕方がないな」と笑った。

「アメリアは本当に真面目だね」

 だからつまらないと、心の底で思ったかどうか。

「そういえばフェルマー公爵は、この前の外遊で、光る虫を見たとか」

「蛍のことですか? ええ、昼間はただの虫ですが、夜、朧げに漂う光だけを見ると確かに綺麗でした」

 レオナルド殿下の関心が自分から逸れたことにホッとする。

 彼が悪い訳ではない。見た目はもちろん、中身も正真正銘の貴公子だ。国内のみならず、他国での評判も高い。私達が幼かった頃は、それなりに一緒になって遊んだりもした。
 面倒見が良くて、優しくて。今も、いつの間にか一歩引いてしまうようになった私にさえ、レオナルド殿下は気を遣って声を掛けてくれる。

 でもどうしても、あの光景が頭から離れないのだ。

 私はどこまでも爽やかな殿下の笑顔から、そっと目を離した。
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