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25. 悪役令嬢 vs 悪役令嬢
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「レオナルド殿下!」
青い塊が、猛然とこちらに近付いてくる。
マリア嬢はエスコート役も連れず、一人で会場を横切って来た。
「今夜はこのような素敵なパーティーに参加できて、本当に光栄ですわ」
ちょこんと膝を折るだけの浅いカーテシーをして、レオナルド殿下に思わせぶりな視線を送る。
コバルトブルーの光沢のあるドレスに、見事なサファイアのアクセサリーを身につけ、ここまで殿下の瞳の色を前面に出されると、彼女が張り切って今夜の夜会に挑んできたのが露骨に分かった。
「今晩は、アメリア様」
「マリア様。良い夜ですわね」
レオナルド殿下がお目当てでもそこは貴族の端くれ、私への挨拶も忘れない。私も和かに微笑み返したが、彼女の目的はあくまで殿下なので、その後はひたすら無視だ。
マリア嬢はどことなく憂いを帯びた表情を浮かべ、心配そうにレオナルド殿下にすり寄った。
「ところでレオナルド殿下、先程少し耳に挟んだのですが、足をお捻りになったとか。大丈夫ですか?」
「はは、そうなんだよ。恥ずかしい話、最近随分と鍛錬をサボっていたからね。久々にやったら捻挫してしまって。やはり日頃の積み重ねが大事だね」
「まあ、そんなこと……でも大事になさって下さいね。ああ、出来ることならーー」
突然、マリア嬢がまるで祈るように胸元で両手を組んだ。伏し目がちな目が、どこか芝居がかっているように見えるけれど。
「殿下のお痛みになる足を、私が治るまでずうっと、優しく摩って差し上げたいくらいですわ……」
言葉だけなら……辛うじて、献身的に受け取れなくもないが。「是非そう言いつけて下さいな」と言わんばかりのその表情は、まるで獲物を狙うしなやかな猫科の獣のようだった。艶やかに塗られた、真っ赤な厚めの唇がとても蠱惑的だ。
「でも残念ですわ。折角、ダンスの名手と名高いレオナルド殿下に、お相手をして頂きたかったのに……」
いきなり、マリア嬢が意味ありげに私の方に顔を向けた。
「でも、アメリア様まで踊らないのは勿体無いですわ。ほら、そこにジョセフ様もいらっしゃいますし、ぜひお美しいアメリア様のダンスを拝見させて下さい」
「……」
そう来たか……!
まさか私を追い払おうと考えているとは思わず、無意識に表情が固まった。すぐ近くで違う方と会話していたジョセフ様も、いきなり自分の名前を出されて驚いている。
さて、この場をどう切り抜けるかーー
もし私が踊りに行った場合、殿下はこの『伯爵令嬢』とのルートに突入するかもしれない。殿下とマリア嬢のイベントを全く知らないが、その可能性は常にあるだろう。
確かに彼女はとても魅力的な容姿をしている。一言で表すなら、妖艶。口元にあるホクロも色っぽいし、殿方の劣情を刺激するだろうその仕草も随分と様になっている。彼女がその気になれば、大抵の男性は彼女の虜になるのではなかろうか。
思わず、マリア嬢が未来の王妃になったところを想像してみた。がーー「ないな」と即座に打ち消した。
彼女は自己顕示欲が強すぎるし、今までの言動を見ている限り典型的な貴族主義者だ。決して私の目指す、未来のラッセル王国にふさわしいタイプの王妃ではない。それどころか自分の私欲のために、その権力を手にした途端、国を私物化しそうだ。
そうまるで、以前、国を混乱に陥れた私のお祖父様のように……
「ふふ。そうですわね。折角の舞踏会ですもの、踊らないと勿体無いですわね」
きちんとマリア嬢の言葉を肯定しつつ、「でも」と続ける。
「この素敵な雰囲気に当てられて、浮かれて少し飲み過ぎてしまいましたの。今は足元がおぼつきませんから、また後で楽しませていただきますわ」
少しだけ殿下に身を寄せて、酔っ払っているように見せかける。恐らく、彼女は私の挑発的な目に気付いていることだろう。淑女が酔っ払うなどお母様が知ったら雷ものだが、今は非常事態だ。
打って変わってしおらしく、上目遣いで殿下を見上げると、彼は困ったように眉尻を下げた。
「ああ、すまない。踊らない私に付き合わせて、アメリアにグラスを渡し過ぎたね」
ナイスフォローですわ、殿下!
私はさらにレオナルド殿下に寄りかかって、甘えるように言った。
「いいえ、私が調子に乗り過ぎたのです。でも少し、酔いを覚ましたいですわ」
「じゃあ、ちょっと夜風にでも当りに行こうか?」
「はい……」
完全に2人の世界を見せつけてやった!
口惜しそうにギリリと手にしたハンカチを握りしめるマリア嬢を横目に、私は「ふふん」と笑って、胸のすく思いで殿下にエスコートされながら庭に続くドアへと向かった。
青い塊が、猛然とこちらに近付いてくる。
マリア嬢はエスコート役も連れず、一人で会場を横切って来た。
「今夜はこのような素敵なパーティーに参加できて、本当に光栄ですわ」
ちょこんと膝を折るだけの浅いカーテシーをして、レオナルド殿下に思わせぶりな視線を送る。
コバルトブルーの光沢のあるドレスに、見事なサファイアのアクセサリーを身につけ、ここまで殿下の瞳の色を前面に出されると、彼女が張り切って今夜の夜会に挑んできたのが露骨に分かった。
「今晩は、アメリア様」
「マリア様。良い夜ですわね」
レオナルド殿下がお目当てでもそこは貴族の端くれ、私への挨拶も忘れない。私も和かに微笑み返したが、彼女の目的はあくまで殿下なので、その後はひたすら無視だ。
マリア嬢はどことなく憂いを帯びた表情を浮かべ、心配そうにレオナルド殿下にすり寄った。
「ところでレオナルド殿下、先程少し耳に挟んだのですが、足をお捻りになったとか。大丈夫ですか?」
「はは、そうなんだよ。恥ずかしい話、最近随分と鍛錬をサボっていたからね。久々にやったら捻挫してしまって。やはり日頃の積み重ねが大事だね」
「まあ、そんなこと……でも大事になさって下さいね。ああ、出来ることならーー」
突然、マリア嬢がまるで祈るように胸元で両手を組んだ。伏し目がちな目が、どこか芝居がかっているように見えるけれど。
「殿下のお痛みになる足を、私が治るまでずうっと、優しく摩って差し上げたいくらいですわ……」
言葉だけなら……辛うじて、献身的に受け取れなくもないが。「是非そう言いつけて下さいな」と言わんばかりのその表情は、まるで獲物を狙うしなやかな猫科の獣のようだった。艶やかに塗られた、真っ赤な厚めの唇がとても蠱惑的だ。
「でも残念ですわ。折角、ダンスの名手と名高いレオナルド殿下に、お相手をして頂きたかったのに……」
いきなり、マリア嬢が意味ありげに私の方に顔を向けた。
「でも、アメリア様まで踊らないのは勿体無いですわ。ほら、そこにジョセフ様もいらっしゃいますし、ぜひお美しいアメリア様のダンスを拝見させて下さい」
「……」
そう来たか……!
まさか私を追い払おうと考えているとは思わず、無意識に表情が固まった。すぐ近くで違う方と会話していたジョセフ様も、いきなり自分の名前を出されて驚いている。
さて、この場をどう切り抜けるかーー
もし私が踊りに行った場合、殿下はこの『伯爵令嬢』とのルートに突入するかもしれない。殿下とマリア嬢のイベントを全く知らないが、その可能性は常にあるだろう。
確かに彼女はとても魅力的な容姿をしている。一言で表すなら、妖艶。口元にあるホクロも色っぽいし、殿方の劣情を刺激するだろうその仕草も随分と様になっている。彼女がその気になれば、大抵の男性は彼女の虜になるのではなかろうか。
思わず、マリア嬢が未来の王妃になったところを想像してみた。がーー「ないな」と即座に打ち消した。
彼女は自己顕示欲が強すぎるし、今までの言動を見ている限り典型的な貴族主義者だ。決して私の目指す、未来のラッセル王国にふさわしいタイプの王妃ではない。それどころか自分の私欲のために、その権力を手にした途端、国を私物化しそうだ。
そうまるで、以前、国を混乱に陥れた私のお祖父様のように……
「ふふ。そうですわね。折角の舞踏会ですもの、踊らないと勿体無いですわね」
きちんとマリア嬢の言葉を肯定しつつ、「でも」と続ける。
「この素敵な雰囲気に当てられて、浮かれて少し飲み過ぎてしまいましたの。今は足元がおぼつきませんから、また後で楽しませていただきますわ」
少しだけ殿下に身を寄せて、酔っ払っているように見せかける。恐らく、彼女は私の挑発的な目に気付いていることだろう。淑女が酔っ払うなどお母様が知ったら雷ものだが、今は非常事態だ。
打って変わってしおらしく、上目遣いで殿下を見上げると、彼は困ったように眉尻を下げた。
「ああ、すまない。踊らない私に付き合わせて、アメリアにグラスを渡し過ぎたね」
ナイスフォローですわ、殿下!
私はさらにレオナルド殿下に寄りかかって、甘えるように言った。
「いいえ、私が調子に乗り過ぎたのです。でも少し、酔いを覚ましたいですわ」
「じゃあ、ちょっと夜風にでも当りに行こうか?」
「はい……」
完全に2人の世界を見せつけてやった!
口惜しそうにギリリと手にしたハンカチを握りしめるマリア嬢を横目に、私は「ふふん」と笑って、胸のすく思いで殿下にエスコートされながら庭に続くドアへと向かった。
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