女公爵になるはずが、なぜこうなった?

薄荷ニキ

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35. ドキドキ☆羞恥プレイ

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「むぅ……」

 暖炉が消えているのかとても寒い。

 私は手近にあった温もりにすり寄ると、頬を擦り付けて至福のため息を吐いた。更にその温もりに抱え込まれて、にへらと笑う。もし私が猫ならば、ゴロゴロと喉を鳴らしている気持ちよさだ。
 そうして暫く心地いい微睡を楽しんでいたが、

 ……ん? この毛布、動く?

 一気に頭が覚醒した。ぱちっと目を開けると、目の前にレオナルド殿下の顔があった。

「きぃ、う……」

 咄嗟に悲鳴を上げなかった私を、誰か褒めて欲しい。

 私が動いたことで彼も目を覚したのか、長い睫毛が揺れて、ゆっくりと綺麗な矢車菊の双眸が現れた。

「……おはよう、アメリア」

 言うなり私にキスして、ふにゃりと笑う。こんな寝起きでも生まれながらの気品は損われないらしい。全ての仕草がスマートで、私は思わず見惚れてしまった。

 ふぁと小さく欠伸をして、レオナルド殿下が半身を起こす。神々しい裸身が現れて、私は咄嗟に毛布を引っ張り上げた。思えば毛布の下に隠れているが、私も全裸だ。

「もう起きる?」

 殿下に聞かれて、頭まで隠したままコクコクと頷く。最後にギュッと毛布ごと抱きしめられて、彼がベッドを離れて行くのが分かった。
 そっと隙間から部屋の様子を窺っていると、ガウンを羽織った殿下が隣の私室に向かうのが分かった。しばらくして殿下に命じられたのだろうメイドが2人、昨夜とは違う青いドレスを手に寝室に入ってくる。

「アメリア様、お着替えをお手伝い致します」

「……ありがとう」

 私は恥を忍んでベッドから這い出し、メイドにそのドレスを着せてもらった。王太子の寝台に全裸の女ーーどうにも気まずい。メイドに裸を見られることに慣れている私でさえ、今日は恥ずかしさのあまり針のむしろだった。

 レオナルド殿下も寝室横の小さな衣装室で着替え中だ。
 
「レオナルド殿下、差し出がましいことは承知で申し上げますが、この度のこと、私は感心いたしませんわ。エレンディーヌ王妃に、朝からドレスを借りにいった私の気持ちが分かりますか? 婚約中とはいえ、婚前にこのようなこと、紳士の恥ですわ」

 殿下の乳母でもあった侍女頭のアニーが、まるで自分の息子を嗜めるようにレオナルド殿下に詰め寄る。

 ……そうか、このドレスは王妃様のか。道理で質がいいと思ったわ……ということは、彼女も既に私が一晩ここにいたことは知っているのね……

 気が遠くなりながら、それでも耳をそばだてていると、殿下が小さく笑ったのが分かった。

「はは、そう目くじらを立ててくれるな、アニー。ずっと好きだった女性が側にいるんだ、ちょっと触り合うぐらい、自然の成り行きだろう。それに、これでも必死で我慢したんだ。本当の契りは、初夜までお預けだよ」

「そんなの当たり前です!」

「……」

 穴があったら入りたい。いや、自分で掘ってでも入りたい。私に聞こえているということは、私の着替えを手伝ってくれている背後の2人にも聞こえているということだ。
 婚姻前に男性と閨を共にするなど、それが婚約者であってもはしたないことだった。なのにあんなに声高に、「最後までしなかったのだからいいだろう」とばかりに弁解して……

 朝からすっかり疲労困憊で、殿下の私室のテーブルに紅茶がセットされた頃には、私は声も出ない程ぐったりしていた。

「あの、アメリア様……」

 レオナルド殿下と軽い朝食を食べていると、先ほど着替えを手伝ってくれていたメイドの一人が遠慮がちに傍らに寄って来た。そっとハンカチを目の前に差し出され、訳が分からないながらも受け取る。

「?」

 持ってみると中に何かが包まれているのが分かった。そっと広げてみると、青い煌めきが顔を覗かす。昨夜着けていた私のサファイアのイヤリングだった。思わず耳たぶを触ってみたら、確かに右耳のそこには何もない。
 いつの間にーー? と不思議に思ったが、恐らく着替えていた時に、彼女達は既に私がイヤリングを片方無くしていることに気付いていたのだろう。そして今まで、探していてくれていたとーー

「無くされていたそちらですが、寝台に……」

「……」

 メイドも気まずいだろうが、私はもっと気まずい。なぜこれがそこに置き去りにされたのか、昨夜の出来事が思い出されるからだ。恐らく彼女もだろう。若い2人が同衾していたベッドを整え直してくれたのだ。殿下の言葉に承知はしていただろうが、実際に目にすると殊更生々しいに違いない。処女の証が無かっただけで、シーツの乱れ具合から簡単に想像がつく。

「……ありがとう」

 ワナワナと震えながら、辛うじてお礼を口にする。
 軽くお辞儀をして去っていくメイドもプロ、何事もなかったように努めてくれるが、私は「ぎゃーー」と頭を抱えて床をのたうち回りたい気分だった。

 どうして私が……

 目の前で、上機嫌でバゲットにバターを塗っているレオナルド殿下が憎らしい。その視線に気づいたのか、殿下がおもむろに顔を上げた。
 私の手の中にあるイヤリングをちらりと見て、意味ありげに笑う。

「知っているかい。昨夜、私が贈ったサファイアだけを身につけて、髪を乱してベッドに横たわる君は最高に綺麗だったーー」

「!?!?」

 ななななな何を、そんな爽やかな顔で言っているの!?

 ……知っていますか、殿下。貴方のすぐ背後に、侍女頭のアニーがずっと控えている事を。

 朝の清々しい場に不似合いな破廉恥な言葉に、母親同然の彼女も驚きで目を剥いている。

 どうして私が、こんな『しゅーちプレイ』をーー

 私の『HPゲージ』がゼロになった瞬間だった。

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