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38. 女公爵になるはずが、なぜこうなった?
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その日、朝からラッセル王国では、近日からのお祭り騒ぎが最高潮に達していた。
特に王都では矢車菊を中心に色とりどりの花が至る所に飾られ、王太子成婚の記念品を売る露店も多く出ていた。
ラッセル王国第一王子、レオナルド・ラッセル王太子と、名家フェルマー公爵家の長女、アメリア・フェルマー令嬢のご結婚ーー
国中が祝賀ムードに包まれ、今か今かとその瞬間を待つ中、私は最後の仕上げをスタイリストとドレスメーカーの2人から受けていた。
綺麗に結い上げられたダークブロンドの髪に、煌びやかなティアラを乗せられてヴェールが掛けられる。
敢えて細身のドレスにはバックにだけ少しボリュームがあり、そこから伸びる流れるようなロングトレーンが見事だった。胸まわりから腹部にかけて金糸で美しい刺繍がなされ、所々イエローダイヤモンドが縫い付けられている。フレアの袖は総レースで、同じく金糸で刺繍が施されていた。公爵家の名に恥じない、最高の出来だった。
ほぼ支度が終わったところで、同じく準備の整ったレオナルド殿下がこっそり花嫁の支度室に忍び込んできた。
私を見るなり、ハッと息を飲むように棒立ちになる。
「凄く綺麗だ」
そっと抱きしめられて、感動したように耳元で囁かれた。
「……レオナルド殿下も、凄く素敵ですわ」
本当、目に痛いぐらい……
いつにも増して、きちんと正装したレオナルド殿下は輝いていた。自身も名を置く王室騎士団の礼服。濃紺のジャケットには幾つもの勲章が付けられ、肩からは真紅のサッシュを掛けている。左の小指には、普段はしていないが、王太子の証である王家の紋章の入った指輪が。
その姿は、この結婚が王家に認められた公式のものであると物語っていた。
思わずうっとりと、その凛々しい姿に見惚れてしまう。
殿下は私の手を掬い取って、思いを込めるようにその甲にキスをした。
「今はここで我慢するよ。折角の化粧が崩れたら、色々と怒られそうだから。本当はしっかり抱きしめて、唇にキスしたいところだけど」
「レオナルド殿下……」
ええ、絶対にやめて下さい。ほらそこの壁際で、スタイリストが目を吊り上げてこちらを睨んでいますよ。
殿下は笑って、そのまま私の手を握り締めた。
「アメリア……今日この日を迎えることができて、私は本当に幸せ者だ。……君は?」
「……殿下?」
「自分でも少し、君を追い込んだ自覚はあるんだ。色々と夢もあっただろうに、どうしても私の側にいて欲しくて」
ここにきて、不安そうに私の顔色を窺う。まさかこの期に及んで、そんなことを考えているなんて。
私は安心させるように笑って、そっと殿下の手を握り返した。
「私も、今日この日を迎えられて感無量ですわ。殿下の熱意はもちろん嬉しかったですし、何より私が、殿下のお側にお仕えしたいと願ったのです」
「じゃあなんで、嫁入り道具にベッドがあるの?」
随分不服そうに、突然レオナルド殿下が私を問い詰めてきた。
いきなりの話の飛びように、私は驚いて目を瞬かせる。どうも殿下は、先日完成した王宮の私の部屋を既にチェックしたらしい。
私は笑って、珍しく拗ねる殿下の矢車菊の目を覗き込んだ。
「念の為ですわ。あのベッドは幼少の頃から私のお気に入りですの」
そう、念の為。だってあのベッドは、私を異世界に運んでくれる魔法の乗り物だから。もしかしたら、再び異国の友達に会える日が来るかもしれない。
その為に、私は幼少の頃から使っていたベッドをどうしても手元に置いておきたかった。わざわざ王宮の、私の書斎になる予定だった部屋を小さな寝室に変えて、そこに納めたのだ。
書斎ーーいや、執務室は後で場所を見つけて、改めて作って貰おうと考えている。
「念の為?」
レオナルド殿下はどうにも不満そうだった。その綺麗なコバルブルーの目が、「これからは夫婦の寝室で一緒に寝るのに」と非難している。私は頷いて、
「安心して下さいまし。使う予定はありませんわ……今のところ。どなたかが、無体なことをしなければ」
「……なら、私の奥方は一生使うことはないね」
爽やかに言い切った殿下に、私は遂に声に出して笑った。
「ええ。期待してますわ、旦那様」
「レオナルド殿下、お時間です」
扉の向こうからノックと共に声を掛けられて、ハッと息を飲む。
いよいよだ。急に緊張してきた。
レオナルド殿下と顔を見合わせ、コツンと互いの額をくっ付ける。2人で静かに深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。そして再び目を見て頷き合い、しっかりと姿勢を伸ばした。
「では行こうか。さあ、お姫様、お手をどうぞ」
昔と変わらない優しい言葉と共に、殿下が左手を差し出してきた。エスコートの形を取ったその腕に、私はそっと手を添える。
あの異世界で見た『げーむ』の中に、このようなエンディングがあったかどうかは分からない。
でも今この瞬間は、私が考えて、悩んで、そうして選んできた結果だ。
決してエンディングでなく、新たな未来へのスタート地点。
「よろしくお願い致します、私の王子様」
私は愛しい旦那様と共に、初めの一歩を踏み出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
最後まで読んで下さって感謝しています!
特に王都では矢車菊を中心に色とりどりの花が至る所に飾られ、王太子成婚の記念品を売る露店も多く出ていた。
ラッセル王国第一王子、レオナルド・ラッセル王太子と、名家フェルマー公爵家の長女、アメリア・フェルマー令嬢のご結婚ーー
国中が祝賀ムードに包まれ、今か今かとその瞬間を待つ中、私は最後の仕上げをスタイリストとドレスメーカーの2人から受けていた。
綺麗に結い上げられたダークブロンドの髪に、煌びやかなティアラを乗せられてヴェールが掛けられる。
敢えて細身のドレスにはバックにだけ少しボリュームがあり、そこから伸びる流れるようなロングトレーンが見事だった。胸まわりから腹部にかけて金糸で美しい刺繍がなされ、所々イエローダイヤモンドが縫い付けられている。フレアの袖は総レースで、同じく金糸で刺繍が施されていた。公爵家の名に恥じない、最高の出来だった。
ほぼ支度が終わったところで、同じく準備の整ったレオナルド殿下がこっそり花嫁の支度室に忍び込んできた。
私を見るなり、ハッと息を飲むように棒立ちになる。
「凄く綺麗だ」
そっと抱きしめられて、感動したように耳元で囁かれた。
「……レオナルド殿下も、凄く素敵ですわ」
本当、目に痛いぐらい……
いつにも増して、きちんと正装したレオナルド殿下は輝いていた。自身も名を置く王室騎士団の礼服。濃紺のジャケットには幾つもの勲章が付けられ、肩からは真紅のサッシュを掛けている。左の小指には、普段はしていないが、王太子の証である王家の紋章の入った指輪が。
その姿は、この結婚が王家に認められた公式のものであると物語っていた。
思わずうっとりと、その凛々しい姿に見惚れてしまう。
殿下は私の手を掬い取って、思いを込めるようにその甲にキスをした。
「今はここで我慢するよ。折角の化粧が崩れたら、色々と怒られそうだから。本当はしっかり抱きしめて、唇にキスしたいところだけど」
「レオナルド殿下……」
ええ、絶対にやめて下さい。ほらそこの壁際で、スタイリストが目を吊り上げてこちらを睨んでいますよ。
殿下は笑って、そのまま私の手を握り締めた。
「アメリア……今日この日を迎えることができて、私は本当に幸せ者だ。……君は?」
「……殿下?」
「自分でも少し、君を追い込んだ自覚はあるんだ。色々と夢もあっただろうに、どうしても私の側にいて欲しくて」
ここにきて、不安そうに私の顔色を窺う。まさかこの期に及んで、そんなことを考えているなんて。
私は安心させるように笑って、そっと殿下の手を握り返した。
「私も、今日この日を迎えられて感無量ですわ。殿下の熱意はもちろん嬉しかったですし、何より私が、殿下のお側にお仕えしたいと願ったのです」
「じゃあなんで、嫁入り道具にベッドがあるの?」
随分不服そうに、突然レオナルド殿下が私を問い詰めてきた。
いきなりの話の飛びように、私は驚いて目を瞬かせる。どうも殿下は、先日完成した王宮の私の部屋を既にチェックしたらしい。
私は笑って、珍しく拗ねる殿下の矢車菊の目を覗き込んだ。
「念の為ですわ。あのベッドは幼少の頃から私のお気に入りですの」
そう、念の為。だってあのベッドは、私を異世界に運んでくれる魔法の乗り物だから。もしかしたら、再び異国の友達に会える日が来るかもしれない。
その為に、私は幼少の頃から使っていたベッドをどうしても手元に置いておきたかった。わざわざ王宮の、私の書斎になる予定だった部屋を小さな寝室に変えて、そこに納めたのだ。
書斎ーーいや、執務室は後で場所を見つけて、改めて作って貰おうと考えている。
「念の為?」
レオナルド殿下はどうにも不満そうだった。その綺麗なコバルブルーの目が、「これからは夫婦の寝室で一緒に寝るのに」と非難している。私は頷いて、
「安心して下さいまし。使う予定はありませんわ……今のところ。どなたかが、無体なことをしなければ」
「……なら、私の奥方は一生使うことはないね」
爽やかに言い切った殿下に、私は遂に声に出して笑った。
「ええ。期待してますわ、旦那様」
「レオナルド殿下、お時間です」
扉の向こうからノックと共に声を掛けられて、ハッと息を飲む。
いよいよだ。急に緊張してきた。
レオナルド殿下と顔を見合わせ、コツンと互いの額をくっ付ける。2人で静かに深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。そして再び目を見て頷き合い、しっかりと姿勢を伸ばした。
「では行こうか。さあ、お姫様、お手をどうぞ」
昔と変わらない優しい言葉と共に、殿下が左手を差し出してきた。エスコートの形を取ったその腕に、私はそっと手を添える。
あの異世界で見た『げーむ』の中に、このようなエンディングがあったかどうかは分からない。
でも今この瞬間は、私が考えて、悩んで、そうして選んできた結果だ。
決してエンディングでなく、新たな未来へのスタート地点。
「よろしくお願い致します、私の王子様」
私は愛しい旦那様と共に、初めの一歩を踏み出した。
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ここまでお付き合い下さり、本当にありがとうございました。
最後まで読んで下さって感謝しています!
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