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好きとか嫌いとか3

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シャッ
「アリス!起きなさいっ!」

母さんに部屋のカーテンをあけられた。

「もうちょっと寝る~…」
「ハァ、あんた城でちゃんと働けてたのかい?生きて帰ってこれたからいいものの。」
「ちゃんとしてたよ。」

生きて帰ってきた…って、王様の印象は城下では変わらないなぁ。

「とりあえず髪がボサボサだから、切ってあげる。」
「いいよ、そんなん時間のムダだから。」

布団でゴロゴロしてたい。

「…どうしたの、城から帰って来てからおかしいよ。前は起きたらすぐに出かけてたのに。」
「うるさいなぁ。」

なんだか、何もやる気にならない。外に出たらケンカ売られるかもしれないし。
誘拐されるかもしれないし…。王様はもう助けてくれないんだから、自分の身は自分で護らないと!

…何で王様が出てくるんだろう。安心するって、一緒にいなきゃ安心出来ない。

お姉様も嫌だし、結婚なんてもっと嫌だし、お世継ぎ問題なんてありえないけど、一緒にいるのが楽しくなかった訳じゃないと思う。

次会う…見るのは来年のお祭りだよ。

見ても気がついてくれないかもしれない。距離が近かったのは、お兄様だったからだし。

「宿題ってなんだったんだろ」

答えは一生わからない。


「……うだうだ考えたって仕方ないっ!!母さんっ!遊びにいってくるっ!!帰りに買ってきてほしい物あるー?」
「じゃあ、塩を頼むよ。」
「はぁーい、行ってきます。」

お金もあるし、いつもは買えない高いお菓子を買おう!豪華な買い食いの始まり!
お城で働いてたら、3ヶ月であんなに貰えるとは…。『王様のお仕事を手伝ってくれてありがとう代』も入ってるのかな。特に難しい仕事をさせられなかったけど。

「おっちゃん、このチョコクッキー3つちょうだい!」
「おお、アリス!城へ連行されてやっと帰って来たのか。」
「連行って…」
「女だってバレなかったんだな。」

若い女を嫌う……。王様の男色の噂もまだまだ出回ってる。

次なに買お…
「アリス、おかえりなさい!!」
「…?ただいま?」

なんか突然話しかけられたけど、この子誰だろ?知り合いじゃないと思うんだけど。

「アリスってむかつく人を殴ってくれるんでしょ?」
「……は?何の話?」
「男の子とケンカしても勝つし、嫌な事があったらアリスに言えって友達が言ってたの。」
「ごめん。意味がわからないから。私がその人とケンカする理由もないし、もうケンカするなって言われたし。」

…いつか敵わなくなる。
自分でももうそろそろだと思ってた。王様が心配してくれたし。


「…私だから嫌だって言うのっ?他の子だったら断らないのに。」

凄く不機嫌になったよ…何でなの…

「そうじゃなくて、ケンカをしてるとしても殴らなくてもいいじゃない。それに、私はあなたの事を知らないし、助ける義理もないのに。」
「いいから、戦いなさいよ!男みたいなのに!!」

「………」

助けて貰えないってわかったら、すぐこうして文句を言う。


マアサ様は『男の子みたいだけど女の子だから』って城に連れていってたし。王様はアリスには護衛をつけてくれた。
男の子みたいだ…って言っても心配はしてくれた。


城下ここで私の事を女だって思って扱ってる友達って何人いるんだろ…。


私はいつまで男の子を演じていればいいんだろう。
どうやっても男の子に見えて、スカートなんてはいて笑い者になっても、女なんだよ。殴られたら痛いし、怖くないわけないのに…。カッコいいって、それ何?

『ケンカしても勝ちます』

勝てたよ。今までなら。拳でなら。
でもこれからは、1発でもよけられなかったら終わる。
それに、王様の言うような事が本当にあった。全然敵わなかった。

王様みたいに私を助けてくれる人はいるのかな。
ヒーロー。
そんな事言わなければよかった。
だって、ずっと一緒になんていられないし、助けてなんてもらえない。

王様は護られないといけない人なんだから。

結局私は『アリス』なんだ。

本当にアランだったらよかった。
本当にアリアだったらよかった。

アリスは中途半端。
護れ、戦え、何だそれ。

「……殴りたければ自分で行きなよ。人に頼るな。誰かに護ってもらおうとするなっ!」

もう嫌だ、もうムリ、耐えられない

「…なんで私がケンカしなきゃいけないのよ!!1度でいいから殴られてみればいい!上手くかわせてるから大ケガにならないけど、普通鼻の骨が折れるくらいの一撃よ!」

安請け合いしてた自分も悪い…。

「もう2度とケンカなんてしないから…。」

自分の身は自分でまもる。
そう思って生きてきたのに。
ダメだなぁ…。
いつからこんなヘナチョコになったんだろ。

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