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大好きな兄がいた。
でも、兄とは母親が違って、父親の本当の妻は兄の母親だった。
だから、俺と俺の母親は幼少期を過ごした父親の家を離れるしかなくて、それ以来兄とは会ってない。
兄はきっと俺を恨んでると思う。俺は、父親の不倫相手の子どもだから。
「どうした倉光、箸が止まっているぞ。嫌いなものでもあったか?」
だからまさか、兄ともう一度会うことになるなんて思ってなかった。
「ありませんよ。何ですか、原賀先輩。天下の生徒会長様が俺みたいな一般生徒に絡まないでください」
むっとした表情で返すと、少しばかり残っていたおかずを口に運ぶ。
目の前にいる原賀先輩──フルネームは原賀優哉という──は、俺の通う学園の高等部の生徒会長だ。
この学園は山の上に建っているため、周りには何もない上に全寮制の男子校だ。生徒は持て余す思春期の熱を同性に向けるしかなく、学園の生徒のほとんどは同性愛者だ。
そんな生徒たちにとって、優秀かつ美形揃いの生徒会はアイドルのような存在であり、近づくのも恐れ多いらしい。
俺はそんな学園に、入学式を終えた一ヶ月後という中途半端な時期に編入してきたことで、悪目立ちした挙句、こうして食堂という全校生徒が集まる場で生徒会長に絡まれる羽目になってしまった。
「お前、甘いものが好きだろ。これやるから食え」
そう言って、原賀先輩は自分自身で注文したデザートのケーキを俺の目の前に置いた。
「甘いもの好きとか言ったことないんですけど」
「そうだったか? いらないなら食べなくていいぞ」
「もらいます。好きなので」
遠慮なくケーキを食べ始めると、原賀先輩は笑った。
綺麗な顔だと思う。学園のアイドル的存在は伊達じゃない。
昔から綺麗な顔だった。記憶の中の顔から幼さが消え、少し大人びた笑顔は、知ってるようで知らない顔だ。
原賀先輩は、俺の大好きな兄だった人だ。俺を恨んでるであろう兄。
兄弟という関係であることを知られなければ、この人はこんなに綺麗に笑いかけてくれる。
それでも、時々不安になる。
俺の母親はアメリカ人で、俺も編入直前までアメリカにいた。母親の結婚相手である義父が現地で働く日本人で、帰国すると言うから母親と一緒に日本について来た。
義父の伝手でこの学園に編入するにあたって、兄が生徒会長を務めていることは事前に聞いた。母親譲りの金髪を黒く染めて前髪を伸ばし、青い目にカラコンを入れて眼鏡をかけて、俺が弟だと分からないように容姿を変えた。義父の養子になったことで、名前も兄の知る「修・ルカ・ハワード」から「倉光修」と変わった。ファーストネームは変わらないけど、修なんて珍しくもない名前だから、それだけで弟とは分からない。それに、兄はずっと俺をルカと呼んでた。
兄には、俺が弟だと分かるはずはない。
なのにこうして、時々言ってもない俺のことを言い当ててくるから、もしかしたら知られてるんじゃないかと不安になる。
「ごちそうさま。授業はサボるなよ」
そう言い残して食堂を出る原賀先輩の背を見送って、俺も次の授業へ向かうために席を立つ。
授業をサボったことはないんだけど、俺を何だと思ってるんだろう。
教室に帰ると遠巻きに見られる。
中途半端な時期に編入してきた、髪が長くて顔もろくに見えない変な奴。しかも、理事長の知り合いの息子。俺のことは腫れ物みたいな認識らしい。間違ってないけど。
生徒会を始めとする美形が正義なこの学園では、俺みたいに容姿が良くない人間はヒエラルキー最下層だ。おかげで、編入してきて数週間経つのにほとんど友達もいない。
正直、今後の学園生活には不安しかない。かといって、根暗と思われようと顔をさらけ出すわけにもいかない。
兄がいる限り。
でも、兄とは母親が違って、父親の本当の妻は兄の母親だった。
だから、俺と俺の母親は幼少期を過ごした父親の家を離れるしかなくて、それ以来兄とは会ってない。
兄はきっと俺を恨んでると思う。俺は、父親の不倫相手の子どもだから。
「どうした倉光、箸が止まっているぞ。嫌いなものでもあったか?」
だからまさか、兄ともう一度会うことになるなんて思ってなかった。
「ありませんよ。何ですか、原賀先輩。天下の生徒会長様が俺みたいな一般生徒に絡まないでください」
むっとした表情で返すと、少しばかり残っていたおかずを口に運ぶ。
目の前にいる原賀先輩──フルネームは原賀優哉という──は、俺の通う学園の高等部の生徒会長だ。
この学園は山の上に建っているため、周りには何もない上に全寮制の男子校だ。生徒は持て余す思春期の熱を同性に向けるしかなく、学園の生徒のほとんどは同性愛者だ。
そんな生徒たちにとって、優秀かつ美形揃いの生徒会はアイドルのような存在であり、近づくのも恐れ多いらしい。
俺はそんな学園に、入学式を終えた一ヶ月後という中途半端な時期に編入してきたことで、悪目立ちした挙句、こうして食堂という全校生徒が集まる場で生徒会長に絡まれる羽目になってしまった。
「お前、甘いものが好きだろ。これやるから食え」
そう言って、原賀先輩は自分自身で注文したデザートのケーキを俺の目の前に置いた。
「甘いもの好きとか言ったことないんですけど」
「そうだったか? いらないなら食べなくていいぞ」
「もらいます。好きなので」
遠慮なくケーキを食べ始めると、原賀先輩は笑った。
綺麗な顔だと思う。学園のアイドル的存在は伊達じゃない。
昔から綺麗な顔だった。記憶の中の顔から幼さが消え、少し大人びた笑顔は、知ってるようで知らない顔だ。
原賀先輩は、俺の大好きな兄だった人だ。俺を恨んでるであろう兄。
兄弟という関係であることを知られなければ、この人はこんなに綺麗に笑いかけてくれる。
それでも、時々不安になる。
俺の母親はアメリカ人で、俺も編入直前までアメリカにいた。母親の結婚相手である義父が現地で働く日本人で、帰国すると言うから母親と一緒に日本について来た。
義父の伝手でこの学園に編入するにあたって、兄が生徒会長を務めていることは事前に聞いた。母親譲りの金髪を黒く染めて前髪を伸ばし、青い目にカラコンを入れて眼鏡をかけて、俺が弟だと分からないように容姿を変えた。義父の養子になったことで、名前も兄の知る「修・ルカ・ハワード」から「倉光修」と変わった。ファーストネームは変わらないけど、修なんて珍しくもない名前だから、それだけで弟とは分からない。それに、兄はずっと俺をルカと呼んでた。
兄には、俺が弟だと分かるはずはない。
なのにこうして、時々言ってもない俺のことを言い当ててくるから、もしかしたら知られてるんじゃないかと不安になる。
「ごちそうさま。授業はサボるなよ」
そう言い残して食堂を出る原賀先輩の背を見送って、俺も次の授業へ向かうために席を立つ。
授業をサボったことはないんだけど、俺を何だと思ってるんだろう。
教室に帰ると遠巻きに見られる。
中途半端な時期に編入してきた、髪が長くて顔もろくに見えない変な奴。しかも、理事長の知り合いの息子。俺のことは腫れ物みたいな認識らしい。間違ってないけど。
生徒会を始めとする美形が正義なこの学園では、俺みたいに容姿が良くない人間はヒエラルキー最下層だ。おかげで、編入してきて数週間経つのにほとんど友達もいない。
正直、今後の学園生活には不安しかない。かといって、根暗と思われようと顔をさらけ出すわけにもいかない。
兄がいる限り。
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