未必の恋

ほそあき

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「またですか、原賀先輩」
「俺が昼食を食べようと食堂に来たらお前がいるんだ、倉光」
「そりゃ昼休みに昼飯食べるんだから、同じ時間なのは当たり前なんですよ」

 同じ時間のは当たり前だけど、原賀先輩が俺の前の席に座るのはわざとだ。いくら編入生が少なくて珍しいからって、わざわざ出会うたびに俺の前を選ぶから、俺は日に日に悪目立ちする。

「あれ、お前、ピーマン食べられるようになったんだな」
「いつの話をして……っ!」

 今日はハンバーグを選んで、付け合わせにピーマンがあった。
 そういや昔はピーマン嫌いだったな、と思い出すのと同時に、目の前の人物から同じ内容の声がかけられた。

 この学園で初めて会った原賀先輩の、知らないはずの事実を。

 血の気が引く。
 やっぱり知られてる──俺が、弟だと。

「いや、悪い。俺にはお前と同い年の弟がいてな。お前といると弟のことを思い出すんだ。弟はピーマンが嫌いだった。……お前も苦手なのか」

 苦笑しながら言い訳を口にする原賀先輩だけど、俺にとってはそれが嘘なのか本当なのかわからない。
 
 今までも何度かあった。原賀先輩が知らないはずの、兄であれば知ってることを言い当てられるのは。
 それでも今までは、俺のことを見てれば分かったのかなとギリギリ思える範囲だった。
 今回は違う。まるで昔のことを知ってるかのような口ぶりだった。知っていて、知っていることを誤魔化したような。

「……苦手でした。今は平気です。原賀先輩の弟さんと同じなんですね」
「そうだな。事情があってもう弟とは会うこともないだろうが。元気ならそれでいい。……いや、お前に言う話ではないな」

 素直に弟が元気であればいいと受け取っていいのか。それとも、俺がその弟であると知って、素性を隠してても元気であればいいと思ってるのか。
 母親の違う弟に対して、元気であればいい、なんて言うだろうか。俺のせいで兄は、自分自身の母親に暴力を振るわれてたのに。
 それなら、兄が俺のことを知ってて、嫌味で言ってると解釈するのが妥当な気がする。

「弟さん、元気だといいですね」
「ああ。元気だといいな」

 その後は特に会話することもなく、なんとなく気まずい雰囲気のまま食事を終えた。

 俺は自分が弟だとは言わない。そうすれば、原賀先輩とは一緒にいられるから。もし兄が気付いていても、直接言われない限りしらを切り通せばいい。

 いつも通り教室に帰って、誰にも話かけられることなく午後の授業を終えた。普段なら一人ぼっちで寮の自室に戻って、だらだら過ごすだけだ。
 でも、違った。教室まで俺を呼びに来た人がいた。

「倉光修くん、ちょっと来てくれる?」

 成瀬弥鶴なるせみつる先輩──原賀先輩の親衛隊の隊長だ。

「わかりました」

 用件は分かる。
 この学園では、生徒会のようなアイドル的存在には親衛隊と呼ばれるファンクラブのようなものが作成される。親衛隊のメンバーであってもアイドル的存在には軽々しく近づくことはできず、親衛隊でなければなおさらだ。でも、俺は原賀先輩と頻繁に昼飯を一緒に食べる。俺が自ら近づいてるわけじゃないとは言っても、通用しないだろう。
 おとなしく後ろをついて行く。放課後になると人がいなくなる、授業でしか使わない特別教室の集められた区画へ向かってるみたいだ。

「用件は分かると思うけど」

 どこかの教室に入るわけではなく、廊下で立ち止まって成瀬先輩が振り返った。

「はい」
「あんまり原賀会長に近づかないほうがいい」

 やっぱり。
 親衛隊は、自らが所属する親衛隊の対象に近づく者には制裁を加えることもあると聞く。今回は成瀬先輩が一人だけだから、そんなことにはならないと思う。ただ、今後その可能性もあるので、下手に反抗しないほうがいいだろう。

「はい」
「……とはいえ、君の行動を見ていても、どちらかというと原賀会長のほうから近づいているのはわかる。でも、親衛隊の中にはそんなこと関係なしに、原賀会長と親しい人間に制裁を加えようと行動する人物もいるかもしれない。僕も自分の親衛隊員たちに不用意なことはさせたくないから、そうならないように尽力はするけど、君自身も気をつけてほしい。僕の力不足で申し訳ない」

 驚いた。成瀬先輩が頭を下げた。
 制裁されるのかもしれない、と思ってしまって申し訳ない気持ちだ。

「ありがとうございます。気をつけます」

 俺も頭を下げる。
 親衛隊への偏見があったな。盲目的な人ばっかりではないみたいだ。

「放課後にこんなところまで連れてきてすまない。僕の連絡先を教えておくから、もし原賀会長の親衛隊員を名乗る人に何かされたら連絡がほしい。ないことを願うけどね」

 成瀬先輩と連絡先を交換して別れる。
 原賀先輩と会えなくなるのは寂しいな、と思う心に蓋をした。
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