未必の恋

ほそあき

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 成瀬先輩と話した次の日、食堂に原賀先輩は来なかった。
 もともと毎日会うわけじゃないから、偶然来なかっただけなのか。成瀬先輩が苦言を呈したのか。
 それとも、昨日気まずくなったのが原因か。兄は俺のことを恨んでいるから、弟だと分かってもう顔も見たくなくなったのかもしれない。

 しかし、それから一週間経っても一度も会うことはなく、原賀先輩が意図的に俺に会わないようにしてることが明確になった。
 一週間ずっと一人で昼ご飯を食べる俺に、周囲が奇妙な目を向けてくるのを感じる。ここまで連続して原賀先輩がいないのは初めてだから、何があったのかと思われてるんだろうな。

「ここ座っていい?」

 いつも原賀先輩が座ってた位置に、知らない人が俺に声をかけて座った。その両隣にも人が座ったところを見ると、友達と一緒に来たってところか。学年で色が異なるネクタイを見るに、三年生だ。わざわざ俺の前に座らなくてもいいと思うけど。

「いいですよ。俺の席じゃないですし、許可なんていりませんよ」
「でも、いつも原賀会長が座ってた席だよね。最近来てないみたいだけど。捨てられたの? 倉光くん」

 なるほど。わざと俺の前に座ったのか。原賀先輩が最近来なくなったから、気になって聞きにきたんだ。
 ただの好奇心ならいいけど、親衛隊なら厄介だ。

「捨てられたも何も、原賀先輩とはたまたま一緒だっただけですよ」
「たまたま? そのわりには頻度が高かったよね。僕たち親衛隊も、あんなに頻繁にご一緒してもらったことないよ」

 親衛隊のメンバーか。成瀬先輩とは違うタイプだ。俺が原賀先輩と一緒にいることに、ただ妬みを感じるタイプ。

「俺が食べてたらそこに原賀先輩が座るだけです。編入生が物珍しかっただけじゃないですかね。飽きたんじゃないですか」
「本当に? ただそれだけの理由で、あの原賀会長が特定の個人と接するわけないよね。どういう関係?」

 知らねぇよ。と言いかけたのをすんでのところで押しとどめる。
 そもそもこの人の言う原賀会長像がどんな人物なのかも知らない。
 俺が知ってるのは幼少期の兄だった人物と、俺の素性に気づいてるのか気づいてないのかわからない言動を繰り返す原賀先輩だけだ。
 特定の個人と接するわけがない、か。いよいよ、原賀先輩が俺の素性を知ってて近づいてきた可能性が高まってきた。この人の言う原賀先輩の性格なら、そうでもなければ、俺と話す理由なんてないだろうし。

「俺は原賀先輩のことをよく知りません。だから、何を思って俺の前に座ってたのかは知りません。本人に聞いてください」
「そんなことできるわけないだろ。原賀会長がそんな簡単にお話できる相手だと思ってるわけ? 生意気。だいたい想像つくけど。ちょっと抱かれたくらいで、あの人と親しくなれたと思わないほうがいいよ」
「は……?」

 抱かれた? 俺が? 原賀先輩に?
 この人は本当にそう思ってるのか。俺が、兄に抱かれたと。

「何も言えないんだ。図星なんだよね。別に抱かれたからって特別じゃないよ。親衛隊にもそういう相手はたくさんいるし。忠告はしたから。次はないよ」

 そう言って立ち去って行く三人の親衛隊員を呆然と見送る。
 話したのは目の前の一人だけだったけど、両隣の二人も同じ考えだと思って間違いない。

 親衛隊の中に、兄に抱かれた人間がいる。親衛隊員に、俺もそうだと思ってる人がいる。
 男同士の恋愛が主流で、もちろんそういう行為をしてる生徒たちも多いのは知ってる。ただ、相手は兄で。
 あり得るわけがない。俺はもう、兄とは仲良くできないのに。

 とりあえず、制裁を受けたわけじゃないけど、一応、成瀬先輩には連絡しておこう。
 親衛隊員が来たことで中断された食事を再開する前に、成瀬先輩の連絡先を開いて、親衛隊員からの接触があったとメッセージを送る。

「今日、僕も不審だと思う親衛隊員がいた。放課後、第二家庭科室まで来てもらえないかな」

 食べ終わって確認すると、成瀬先輩からすぐ返事があった。了承の答えを返して、放課後までこれ以上何もありませんように、と願いながら食堂を後にした。
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