【完結】前世は魔王の妻でしたが転生したら人間の王子になったので元旦那と戦います

ほしふり

文字の大きさ
10 / 15

(10)

しおりを挟む
私の腕から力が抜け落ち、いとも容易く剣が弾かれる。
手を離れた武器が空中を回転しながら数メートル先の地面に落ちた。
それを視界の隅に捉えながら、怒りに狂った魔王ベルクラの眼前で私は頭を垂らした。

「私は…残された君の気持ちなど…到底わからないさ」

ポツリと呟く私に対してベルグラは低い声音で問う。

「命乞いの準備はできたか?」
「…もとよりそのつもりはない。私の心臓なり何なり好きなものをえぐるといいさ」

もう、どうにでもなれ。

ベルグラが咆哮を上げて私に襲いかかる。
バランスを崩して後ろに倒れた私は地面に手をつく。
そんな私に対して魔王は正面から馬乗りになり、彼は手に持った剣を振り下ろした。

そのまま切り伏せられる覚悟はしていた。

だが、その痛みは待てども待てども訪れはしなかった。
彼が手に持った剣の切っ先が、私の胸に当たる手前で止まっていた。

そして信じられないものでも目撃したかのように、ベルグラは私の胸元に目線を落としていた。
そこには心臓があり、魂がある。

戦場の喧騒が遠退いた。
闇色狼とそれによる兵士たちの攻防は今もなお続いているはずなのに、そのどれもが別の世界の出来事のように感じた。

「…。」

無言のベルグラの目線を受け止めたまま、私は言葉を紡いだ。

「心臓を亡き妻に捧げるのではなかったのか?」

「…。」

「この羽虫にまだ用があるのか?」

「…。」

「私の命乞いが聞きたいのか?」

「…。」

「なぁ、ベル?」

私の唇がその名を口にした瞬間、顔を覗き込むベルの目尻に涙が滲んだ。
唇を引き結び、必死に何かを耐えるかのように息を呑む。
ベルは長いまつげを震わせながら零れそうになった涙を目尻にためて私を見ている。

(前世でも今生でも君の泣き顔を見ることになるとは…これも私のせいか)

動きを止めた魔王に対して、私は右手を伸ばした。
その手を男の頬にそえると、白い肌に土がついた。
彼は気にせず、私の顔を覗き込んだまま見つめ続けている。

その後、何が起こったのか瞬時には理解できなかった。
驚くよりも先に私とベルの身体がふわりと浮いたかと思えば、闇色狼の本体と一緒に戦場を離脱していた。
先程の浮く感覚がワープだったのは後から知った。

視界に広がる景色はバミア平原から森の景色に一瞬にして切り替わったが、周りの植物には見覚えがある。
平原から数百キロ離れた場所…魔族の領域だ。
私はワープする前と同じく地面に尻もちをつき、上半身は後ろに向かって背中から倒れそうになった。

だが、倒れることはなかった。
手に持っていた剣を放り投げたベルが正面から私を抱きしめたからだ。
両手を背中に回して力強く固定し、そのまま私の肩口に顔をうずめた。

その力強さに身体が軋む。
私が文句を言う前に、彼のくぐもった嗚咽が聞こえてきた。
ぐすぐすと泣き声を押し殺すベルに抱きつかれたまま、私が動けないでいると闇色狼が剣の柄を口に咥えて持ってきた。
よく見れば、平原で跳ね飛ばされたはずの私の剣も一緒に咥えている。
私達のもとまで近づいて来た闇色狼が二本の剣を地面に置き、その場でお座りをして待機する。

先程の戦闘で切り崩した謝罪をしようと闇色狼に向かって手を伸ばそうとしたら、その手をベルがガシッ!と掴んだ。
その勢いに私は困惑していたが、ベルは無言のまま何も言わない。

こちらにかまえという強い意思は伝わった。
ベルに掴まれた手を眺めると、私は少し困りながら握り返した。
そうすればベルの身体がビクッと強ばる。

「……っ…」
「ベル」
「…ぅっ」

長身の男が背を丸めて泣いている。
名前を呼んでも泣き止む気配はない。

「悪かった。もう泣くな…と、いうのは無茶かもしれないが…」
「…お前は…俺を…一人にした…」
「あぁ」
「置いていくな、と…言ったのに…」
「あぁ」
「ここにいてくれと…いったのに…」
「すまない。五百年かかったな」
「…リアーネ」

嗚咽混じりに喉の奥から声を振り絞り、前世の私の名前を呼ぶ。
私はベルが泣き止むまで背中をぽんぽんと撫でてやった。

「恨み言なら聞くぞ」
「なぜ、どうして、なんでっ…なぜこんなっ」
「私は人間に生まれ変わったせいで、君どころか魔族に会いに行くことは出来なかった。黒髪の人間は国の命令に背いたら殺されるからな」
「…監禁されていたのか?」
「脅し付きの軟禁だったな。五百年後に生まれ変わって十七年が過ぎたが、王宮の外には出たことがなかった」

どれだけ私が喋ろうとも、全てが言い訳になってしまう。

「人間に恨みがあるのなら私にぶつけろ。君の苦しみの元凶は私だ」
「そんなことできるわけないだろ!?」

震える声音で大声を放つとベルは涙目で続ける。

「お前が、お前がいないせいでっ、俺はっ、どれだけっ!!」

「すまない」

「毎日、毎日、自分の髪をこの手で結うたびに、お前がこの世界からいなくなった朝を迎えた。お前がいない城で夜を過ごすたびに運命を呪った。この髪を切ってそれを供物に死者復活の儀式も試したが徒労に終わった。どんな魔術を試してもお前の魂は戻ってこなかった。何度も…何度も何度も絶望した!!」

「…君は…私がいない間にそんな事をしていたのか…」

すでに次の転生に向けて魂の修復がはじまっていたので、魔王の力でさえ魂を強引に呼び戻すことは出来なかった。

「リアーネ…」
「…すまなかった」

(なにはともあれ、彼と話ができてよかった)

私はベルの身体を抱きしめかえした。
昔は広いと思っていた彼の背中は、今の私の両手に収まっている。
…そういえば、今生の私の身体は男だったことを今更思い出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね

ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」 オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。 しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。 その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。 「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」 卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。 見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……? 追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様 悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない

結衣可
BL
戦の傷跡が癒えた共生都市ルーヴェン。 人族と獣人族が共に暮らすその街で、文官ユリス・アルヴィンは、穏やかな日々の中に、いつも自分を見守る“優しい視線”の存在を感じていた。 その正体は、狼族の戦士長出身の護衛騎士、ガルド・ルヴァーン。 無口で不器用だが、誠実で優しい彼は、いつしかユリスを守ることが日課になっていた。 モフモフ好きなユリスと、心配性すぎるガルド。 灰銀の狼と金灰の文官―― 異種族の二人の関係がルーヴェンの風のようにやさしく、日々の中で少しずつ変わっていく。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

異世界転生したと思ったら、悪役令嬢(男)だった

カイリ
BL
16年間公爵令息として何不自由ない生活を送ってきたヴィンセント。 ある日突然、前世の記憶がよみがえってきて、ここがゲームの世界であると知る。 俺、いつ死んだの?! 死んだことにも驚きが隠せないが、何より自分が転生してしまったのは悪役令嬢だった。 男なのに悪役令嬢ってどういうこと? 乙女げーのキャラクターが男女逆転してしまった世界の話です。 ゆっくり更新していく予定です。 設定等甘いかもしれませんがご容赦ください。

【完結】悪役に転生したので、皇太子を推して生き延びる

ざっしゅ
BL
気づけば、男の婚約者がいる悪役として転生してしまったソウタ。 この小説は、主人公である皇太子ルースが、悪役たちの陰謀によって記憶を失い、最終的に復讐を遂げるという残酷な物語だった。ソウタは、自分の命を守るため、原作の悪役としての行動を改め、記憶を失ったルースを友人として大切にする。 ソウタの献身的な行動は周囲に「ルースへの深い愛」だと噂され、ルース自身もその噂に満更でもない様子を見せ始める。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

処理中です...