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第十三小隊および聖王国の正規軍はバミア平原にて魔王と交戦した後、アルケミス聖王国に帰還した。
国王は玉座に座り、第二王子ガレットの報告を聞いた。
国王の横には第一王子レゼルが控えており、魔族に対して否定的な諸侯たちがその下には連なっている。
無論、第二王子と第三王子の母親たる女もそこにいた。
すでにガレットから第三王子である忌み子のリグレットがバミア平原にて、魔王との戦い死んだ可能性が高いとの報告を聞いていた。
忌々しい血の呪いが鎖となって十七年間も女を苦しめていた。
この事実の嬉しさに笑顔を噛み殺しながら、その女はこの場に立っていた。
「―――――我が弟である第三王子リグレットは指揮官である俺を庇い、バミア平原で魔王と対峙しました。その後、魔王に討たれて死亡したのではないのかと思われます。現在の行方は知れません」
「…ふむ」
ガレットの報告が終わると、国王は表情を取り繕ったまま一つうなずく。
眉間に深いしわを刻み、眉を寄せてつり上げると小さなため息を吐いた。
その顔には疲労が滲んでいる。
「報告ありがとうガレット。この場に来るのも心苦しかっただろう…下がって戦いの傷を癒やしてくれ」
「…父上。少しよろしいですか?」
広間を去ろうとはせず、ガレットは玉座に座る国王へ問う。
「なんだね?」
「今一度、我が弟リグレットを捜索する許可をいただけませんか?」
その申出により広場の貴族たちがざわついた。
王妃が眉を吊り上げた変化を視界に入れつつ、ガレットは続ける。
「現在リグレットは行方不明であり、生存の可能性はあります…だがもし、亡くなっているのならば、その死体を探して祖国に持ち帰り、丁重に葬りたいと考えています」
そのように語るガレットの真意を計りかねたのか、国王は思考を逡巡させる。
対するレゼルは表情を曇らせたまま黙り込んでいた。
だが、心の中では思っていた…ガレットは母親の命令でリグレットの死体を見るまで諦めないということを。
この流れでは、国王がその申し出を無下にするとは思えない。
「お待ち下さい。それならば僕が捜索へ向かいます」
レゼルが会話に割り込んで言葉を放つ。
突然名乗り出た兄へ目線を向けると、ガレットは眉をしかめた。
「ガレットは平原の戦いの疲れがまだ残っていることでしょう。それなら僕が少数精鋭を連れて探しに行く方が効率的だと思います」
「だが兄上…」
「それともなんだい?ガレットは僕が信用できないのかい?」
文句を言いたそうにするガレットの口をふさぐようにレゼルは言葉をぶつけた。
渋面を浮かべたガレットは奥歯を食いしばると、吐き出すように言う。
「そもそも、この結果を招いたのは俺だ…たった一人の弟も戦場で守ることが出来なかった無様な俺に償わせてくれ」
今の台詞は聞き間違いではなかったのかと、貴族の誰もが困惑した。
あの第二王子がそんな事を口にするとは思わなかった。
それは国王も王妃も同じだった。
唯一、ガレットの兄であるレゼルのみが表情を変えず瞳を細めて口元を引き伸ばした。
「ガレットの口からそんな台詞を聞く日がやってくるとは思わなかったよ。明日は槍でも降るのかな?」
やれやれと言いたそうにレゼルは肩をすくめる。
弟の成長を素直に喜べない立場であるがゆえに皮肉を口にした。
その時だった。
『茶番はそれぐらいにしろ。貴様らが探しに行く必要はないからな』
地獄の底から響くような声音が王城の広間に響いた。
誰もがその異質な空気を感じて周りを見渡す。
この声はいったいなんだ?
『まったく。人間どもはよく群れるな。丁度いいから俺の話を聞け』
この場にいる全員が姿を見せぬ声の主を探した。
「誰だ?どこにいる?」
動揺はしたが、第三者に弱みを見せないように国王が声に向かって問う。
まるでこちらだとでもいうかのように、大広間の出入り口の扉が開く。
誰も扉に手は触れていない。
開いた扉の隙間から黒く濁った霧が流れ込んでくる。
毒ではないのかと黒色の霧を警戒する人間たちに対して、霧は人の形に変わる。
姿を表したひとりは魔王ベルグラであり、もうひとりはリグレットだった。
二人は闇色狼に跨り、リグレットは後ろに座るベルグラに支えられていた。
「…。」
リグレットはバミア平原にいた時の服ではない。
濡烏色のローブを全身にまとい、黒百合とオニキスが飾る闇のヴェールを被っていたが、自らの手でそれをすくい上げると顔を晒した。
「リグレット!?!?」
消息不明との報告を受けていた我が子の登場に国王が動揺する。
人間たちは困惑した。
なぜ、魔王とリグレットが一緒にいるのか…?
この空気の中でリグレットは元夫をじとりと睨む。
これみよがしに腰に回された腕から離れようと身動ぎすれば、余計にきつく巻き付いてくる。
何度か離れるように試みたものの、その都度身体を引き戻された。
そんな些細な攻防戦など今は重要なことではない。
突然の魔王降臨によってアルケミス聖王国の大広間は悲鳴と恐怖に震える人間たちによって騒然としていた。
国王は玉座に座り、第二王子ガレットの報告を聞いた。
国王の横には第一王子レゼルが控えており、魔族に対して否定的な諸侯たちがその下には連なっている。
無論、第二王子と第三王子の母親たる女もそこにいた。
すでにガレットから第三王子である忌み子のリグレットがバミア平原にて、魔王との戦い死んだ可能性が高いとの報告を聞いていた。
忌々しい血の呪いが鎖となって十七年間も女を苦しめていた。
この事実の嬉しさに笑顔を噛み殺しながら、その女はこの場に立っていた。
「―――――我が弟である第三王子リグレットは指揮官である俺を庇い、バミア平原で魔王と対峙しました。その後、魔王に討たれて死亡したのではないのかと思われます。現在の行方は知れません」
「…ふむ」
ガレットの報告が終わると、国王は表情を取り繕ったまま一つうなずく。
眉間に深いしわを刻み、眉を寄せてつり上げると小さなため息を吐いた。
その顔には疲労が滲んでいる。
「報告ありがとうガレット。この場に来るのも心苦しかっただろう…下がって戦いの傷を癒やしてくれ」
「…父上。少しよろしいですか?」
広間を去ろうとはせず、ガレットは玉座に座る国王へ問う。
「なんだね?」
「今一度、我が弟リグレットを捜索する許可をいただけませんか?」
その申出により広場の貴族たちがざわついた。
王妃が眉を吊り上げた変化を視界に入れつつ、ガレットは続ける。
「現在リグレットは行方不明であり、生存の可能性はあります…だがもし、亡くなっているのならば、その死体を探して祖国に持ち帰り、丁重に葬りたいと考えています」
そのように語るガレットの真意を計りかねたのか、国王は思考を逡巡させる。
対するレゼルは表情を曇らせたまま黙り込んでいた。
だが、心の中では思っていた…ガレットは母親の命令でリグレットの死体を見るまで諦めないということを。
この流れでは、国王がその申し出を無下にするとは思えない。
「お待ち下さい。それならば僕が捜索へ向かいます」
レゼルが会話に割り込んで言葉を放つ。
突然名乗り出た兄へ目線を向けると、ガレットは眉をしかめた。
「ガレットは平原の戦いの疲れがまだ残っていることでしょう。それなら僕が少数精鋭を連れて探しに行く方が効率的だと思います」
「だが兄上…」
「それともなんだい?ガレットは僕が信用できないのかい?」
文句を言いたそうにするガレットの口をふさぐようにレゼルは言葉をぶつけた。
渋面を浮かべたガレットは奥歯を食いしばると、吐き出すように言う。
「そもそも、この結果を招いたのは俺だ…たった一人の弟も戦場で守ることが出来なかった無様な俺に償わせてくれ」
今の台詞は聞き間違いではなかったのかと、貴族の誰もが困惑した。
あの第二王子がそんな事を口にするとは思わなかった。
それは国王も王妃も同じだった。
唯一、ガレットの兄であるレゼルのみが表情を変えず瞳を細めて口元を引き伸ばした。
「ガレットの口からそんな台詞を聞く日がやってくるとは思わなかったよ。明日は槍でも降るのかな?」
やれやれと言いたそうにレゼルは肩をすくめる。
弟の成長を素直に喜べない立場であるがゆえに皮肉を口にした。
その時だった。
『茶番はそれぐらいにしろ。貴様らが探しに行く必要はないからな』
地獄の底から響くような声音が王城の広間に響いた。
誰もがその異質な空気を感じて周りを見渡す。
この声はいったいなんだ?
『まったく。人間どもはよく群れるな。丁度いいから俺の話を聞け』
この場にいる全員が姿を見せぬ声の主を探した。
「誰だ?どこにいる?」
動揺はしたが、第三者に弱みを見せないように国王が声に向かって問う。
まるでこちらだとでもいうかのように、大広間の出入り口の扉が開く。
誰も扉に手は触れていない。
開いた扉の隙間から黒く濁った霧が流れ込んでくる。
毒ではないのかと黒色の霧を警戒する人間たちに対して、霧は人の形に変わる。
姿を表したひとりは魔王ベルグラであり、もうひとりはリグレットだった。
二人は闇色狼に跨り、リグレットは後ろに座るベルグラに支えられていた。
「…。」
リグレットはバミア平原にいた時の服ではない。
濡烏色のローブを全身にまとい、黒百合とオニキスが飾る闇のヴェールを被っていたが、自らの手でそれをすくい上げると顔を晒した。
「リグレット!?!?」
消息不明との報告を受けていた我が子の登場に国王が動揺する。
人間たちは困惑した。
なぜ、魔王とリグレットが一緒にいるのか…?
この空気の中でリグレットは元夫をじとりと睨む。
これみよがしに腰に回された腕から離れようと身動ぎすれば、余計にきつく巻き付いてくる。
何度か離れるように試みたものの、その都度身体を引き戻された。
そんな些細な攻防戦など今は重要なことではない。
突然の魔王降臨によってアルケミス聖王国の大広間は悲鳴と恐怖に震える人間たちによって騒然としていた。
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