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(13)おわり
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私はベルに腰を抱かれたまま、闇色狼の背中に乗って玉座の大広間にやってきた。
…やってきてしまった。
目の前には、赤い絨毯が玉座に座る父上の足元まで続いている。
その手前にはガレットがおり、振り返った体勢のまま口をあんぐりと開けて扉からやってきた私達を見ている。
彼の顔は真っ青である。
無理もない。
彼にとっては魔王も闇色狼もバミア平原の記憶が新しいのだから。
可愛そうなほどに震えはじめた第二王子に対して、第一王子であるレゼル兄様は魔王をきつく睨んだまま佇んでいる。
この状況に驚きはしたが、それでも反抗の姿勢を滲ませている…レゼル兄様がここまで好戦的な態度を表に出しているところは初めて見た。
父上もレゼル兄様もこちらの動きに警戒するだけの意識がある。
チラリと貴族の諸侯らの列に目線を向ければ、その中に母上もいた。
剣を構えた広間の騎士たちに守られながら母上は悲鳴を押し殺している。
その視線は嫌というほど私に突き刺さる…まるで死人でも目撃したような反応だな、と、私は思った。
「魔王が…いったい、なぜここへ?」
父上が声を振り絞って問う。
「しれたことよ、俺様の言葉を聞くがいい人間共よ」
ベルはフンと鼻先で笑った。
(…この五百年間によって、ベルの魔王キャラは俺様になったのか…知らなかった)
魔王とはいえ昔は花と紅茶が似合う優しげな貴公子様だったのに…
まぁ…これはこれで魔王らしくて悪くないなと考える。
「俺様がこの国の第三王子を貰うかわりに、人間に対する魔王の侵攻を手打ちにしようと思ってな」
「なん、だと?…どういうつもりだ…?」
「そのまま言ったとおりだ。二度も言わせるな」
ベルは玉座に座る父上を睨みながら続ける。
「今までの五百年間の争いは、貴様ら人間が妻を殺した事件が発端だ。それなら、貴様らが妻のかわりの者を差し出し、それを俺が娶ることで怒りを収めてやろうと言っているのだ。わからぬのか?」
ドヤ顔で魔王様は言った。
(それでいいのかベル!?)
黙って話を聞いていた私はツッコミを入れたい衝動に駆られた。
この状況では…今まで散々リアーネの死に取り憑かれた魔王が人間たちに復讐していたというのに、ぽっと出の第三王子に鞍替えしたように見える。
生贄か何かと勘違いされるのはどうかと思うのだが。
「その言い方だと…説明がたりなさすぎて人間たちは勘違いを引き起こすと思うのだが…」
私から何かを言うべきなのだろうか?
本当は私の前世が常闇の魔女リアーネである、と…
だが、それはそれで大きな混乱を招くことになる。
全ては魔王ベルグラの傲慢ということにしてしまえば丸く収まるのはわかるのだが。
「それでいいのか?…魔王のせいにして?」
私が小声でこそっとベルに耳打ちして伝えると、彼は口元に笑みをそえる。
「この場にいる人間など、どうせ百年後にはみんな死んでいるのだから些細なことだ」
「人間は些細な歴史や伝承を後世に残す生き物なのだが…」
まあいいか。
私もその人間だ。
この場にいる者たちはベルの言葉にざわつきながらも、声を上げるような勇者はいないようだった。
広間で主導権を握っているのは魔王ベルグラだ。
「リグレット…君はそれで本当にいいのか?」
ザワザワと騒ぐ人間たちの中、レゼル兄様が私へ問いかけた。
兄の立場からは、魔王に脅されているように見えているはずだが…あえて問いかけたようだった。
私はどうしたものかと考える。
だが、ここまで来たのなら本当の事を言う必要はないのではという思考に至る。
「私は彼の申し出を受け入れました。悪いようにはしないと魔王と魔族たちは約束してくれました、私はそれに従おうと思います」
私はしおらしく話しを合わせることにした。
(ベルすまない。レゼル兄様すみません)
人間たちから見れば、第三王子を差し出せば手打ちにすると魔王が申し出たのだ。
嘘か本当かはともかく、多くの人間たちが忌み嫌う子供なら差し出しても問題ない。
レゼル兄様が私の身を案じているのなら、もう少し言っておく必要はあると思うが…レゼル兄様と話している時のベルの視線が私の方にいちいち刺さる。
「…そうか」
表情を曇らせたレゼル兄様は嘆息すると、懐から何かを取り出した。
そして、手に収まるそれを空中に高く放り投げた。
「リグレット、これを持って行ってくれ。僕からの結婚祝いの選別だ」
丁度私の手元に落ちてくる角度で降ってきたのだが、私の手が届くより先にベルがそれを片手でキャッチした。
ベルの手に収まったそれは、一振りの短剣だった。
鞘ごと投げられたので、特に怪我もない。
「…短剣?」
私が小首をかしげると、ベルは手に持った短剣を一瞥した後、高らかに笑った。
「はははっ!これは傑作だ!!アルケミス聖王国で結婚祝いに短剣を送るのは「浮気したらこれで相手を刺し殺せ」という意味だったかな?」
レゼル兄様からすれば…リアーネが死んだというのに、今はリグレットにうつつを抜かしている魔王など今すぐこれで刺し殺せという意図なのかもしれない。
とんだブラックジョークを受け取ったベルが腹を抱えて笑っている。
対するレゼル兄様は目すら笑っていない。
「第一王子はこの場で俺を笑わせることができる器の持ち主とはな。貴様が戴冠式を迎えるあかつきには俺からも祝いの品を贈ろう」
レゼル兄様は「送ってくるな」という空気を滲ませているが、私は二人の会話に割って入ることなく傍観していた。
(それにしても…転生した先の第二の人生で、兄様から結婚祝いに短剣を送られるとはなぁ)
前世の私の死因を思い出し、複雑な心境になった。
安全確認を終えたベルからその短剣を手渡しで受け取ると、私は懐へ収める。
「父様。兄様。今までお世話になりました」
「…すまないリグレット、私は我が子であるリグレットには…何もしてやれなかった」
父上はそう言うと頭を垂らした。
私は返す言葉を探したが、見つからなかった。
ここでどんな言葉を返そうと、父上の今後の立場を悪くすることになりそうだったから。
「それでは、親族共の挨拶も終わったのだからここに長居をする必要はない。行こう。我が妻リグレットよ」
後ろから抱きしめる形で片手は腰に回し、もう片手で私の手を握るとベルは囁くように言う。
「ああ。行こう」
「正直に言うと、話を聞いた限りお前の母親をこの手でブチのめしておきたいのだが、それは望まないことだろう?」
小声で囁くベルの声音には殺意が滲んでいたが、私はひとつ頷いた。
ああいう輩が権力を握り、人族を従えていたからこそ前世のリアーネは人間どもに殺されたのだとベルは言う。
彼の話いわく、私を殺した首謀者たちは五百年前に末代も残さず八つ裂きにしたらしい。
この場の見せしめは必要ではないのかとここに来るまで散々話し合ったことだが、私の意思は変わらなかった。
母上に憎しみがないわけではない。
だがあの女に対して、復讐するまでの関心が私にはなかった。
二千年以上生きた私に対して、あの女はたった十七年しか私と関わっていないのである。
そんな些細なことを気にするほど私は繊細ではなかった。
(それに、殺したいほど憎んでいた忌み子が人間たちの前で魔王と盛大に婚姻を結び魔族に迎え入れられるなんて、あの女にとっては発狂するぐらいの嫌がらせにはなっただろうしな)
これぐらいが丁度いい。
ベルの号令で闇色狼がくるりと踵を返し、広間を去ろうとしたところで「待ってくれ!」と呼び止められた。
どこから聞こえた声かと思えばガレットからだった。
まだなにか用か?と、ベルが忌々しそうに相手を見下す。
私は上半身だけひねって振り返るように後ろを見た。
私達が広間に来た時までずっと青くなって震えていたガレットは、おずおずと続きを口にする。
怯えと震えは残っているのだが、この際見なかったことにしよう。
「君と…お茶を…一緒にする約束は叶わなかったな」
その約束はそもそも却下したはずだが…私は静かに言葉の続きを待つ。
ガレットは真っ直ぐに私を見つめながら思いを口にした。
「二人とも結婚おめでとう。心から祝福する」
その言葉に私もベルも目を丸くした。
「俺からしてみればこの結婚は魔王の強制かもしれないが、その真意はわからない。だが、俺は祝福して送り出したい。二人の行く末に幸があらんこと」
ベルはその祝電を受け取ると、口元をつり上げて笑いながらガレットに向かって後ろ手を振った。
闇色狼に走るように命令すると今度こそ大広間を二人は去った。
「弟に守られてばかりの腰抜けかと思っていたが、案外いいやつじゃないか」
「そうだと…いいのだがな」
十七年の間、黒髪の忌み子として生きてきた私は人間たちから嫌われていた。
そんな私とベルを唯一祝福して送り出したガレット兄様は、人間でありながら召使いや兵士たちに嫌われる存在だった。
皮肉なことにベルも人間たちから嫌われている魔王ベルグラである。
立場も状況も全然違うのに、人間から嫌われる者同士という点では一緒だったのかもしれない。
私は彼の祝電を素直に受け取ることにした。
広間を出るとワープで王城の上空まで出た。
太陽が輝く蒼天のもと、そこから空中を蹴って走りながら魔族の領域まで狼が走りはじめる。
ワープで即座に帰ることも可能だったが、今日は空中散歩の気分だ。
「帰ったら盛大な宴を開き、挙式をあげよう」
「…他の魔族たちは納得するだろうか?」
人間の、それも第三王子と魔王の結婚になる。
「俺が全員黙らせるよ」
「…うーん」
「それから、お前の寿命が尽きる前に内側から俺の魔力を注ぎ込んで不老の措置を取ろう」
方法がないわけではないと言ったのを思い出し、私は頭を抱えた。
ベルが私に魔力を注ぎ込むとは、つまりそういうことである。
「君は恥ずかしげもなくそういうことが言えるようになったのだな」
「昔は恥ずかしさも含めて何も出来なかったから後悔したんだ。今度こそ成し遂げてみせる」
キリッと表情を引き締めて言うものの、内容は残念なそれである。
「期待しない程度に期待しておくよ」
「どういう意味だそれは!?」
ベルは動揺しつつも、どこか楽しげだった。
私もその雰囲気につられて笑みをこぼす。
(なんにしても…)
二千年以上、魔女と魔族の婚姻は続いた。
そこから五百年たった後、私達の縁はまたこれからも続こうとしている。
(この縁が末永く続きますように)
私は心の中でそれを願わずにはいられなかった。
おわり
…やってきてしまった。
目の前には、赤い絨毯が玉座に座る父上の足元まで続いている。
その手前にはガレットがおり、振り返った体勢のまま口をあんぐりと開けて扉からやってきた私達を見ている。
彼の顔は真っ青である。
無理もない。
彼にとっては魔王も闇色狼もバミア平原の記憶が新しいのだから。
可愛そうなほどに震えはじめた第二王子に対して、第一王子であるレゼル兄様は魔王をきつく睨んだまま佇んでいる。
この状況に驚きはしたが、それでも反抗の姿勢を滲ませている…レゼル兄様がここまで好戦的な態度を表に出しているところは初めて見た。
父上もレゼル兄様もこちらの動きに警戒するだけの意識がある。
チラリと貴族の諸侯らの列に目線を向ければ、その中に母上もいた。
剣を構えた広間の騎士たちに守られながら母上は悲鳴を押し殺している。
その視線は嫌というほど私に突き刺さる…まるで死人でも目撃したような反応だな、と、私は思った。
「魔王が…いったい、なぜここへ?」
父上が声を振り絞って問う。
「しれたことよ、俺様の言葉を聞くがいい人間共よ」
ベルはフンと鼻先で笑った。
(…この五百年間によって、ベルの魔王キャラは俺様になったのか…知らなかった)
魔王とはいえ昔は花と紅茶が似合う優しげな貴公子様だったのに…
まぁ…これはこれで魔王らしくて悪くないなと考える。
「俺様がこの国の第三王子を貰うかわりに、人間に対する魔王の侵攻を手打ちにしようと思ってな」
「なん、だと?…どういうつもりだ…?」
「そのまま言ったとおりだ。二度も言わせるな」
ベルは玉座に座る父上を睨みながら続ける。
「今までの五百年間の争いは、貴様ら人間が妻を殺した事件が発端だ。それなら、貴様らが妻のかわりの者を差し出し、それを俺が娶ることで怒りを収めてやろうと言っているのだ。わからぬのか?」
ドヤ顔で魔王様は言った。
(それでいいのかベル!?)
黙って話を聞いていた私はツッコミを入れたい衝動に駆られた。
この状況では…今まで散々リアーネの死に取り憑かれた魔王が人間たちに復讐していたというのに、ぽっと出の第三王子に鞍替えしたように見える。
生贄か何かと勘違いされるのはどうかと思うのだが。
「その言い方だと…説明がたりなさすぎて人間たちは勘違いを引き起こすと思うのだが…」
私から何かを言うべきなのだろうか?
本当は私の前世が常闇の魔女リアーネである、と…
だが、それはそれで大きな混乱を招くことになる。
全ては魔王ベルグラの傲慢ということにしてしまえば丸く収まるのはわかるのだが。
「それでいいのか?…魔王のせいにして?」
私が小声でこそっとベルに耳打ちして伝えると、彼は口元に笑みをそえる。
「この場にいる人間など、どうせ百年後にはみんな死んでいるのだから些細なことだ」
「人間は些細な歴史や伝承を後世に残す生き物なのだが…」
まあいいか。
私もその人間だ。
この場にいる者たちはベルの言葉にざわつきながらも、声を上げるような勇者はいないようだった。
広間で主導権を握っているのは魔王ベルグラだ。
「リグレット…君はそれで本当にいいのか?」
ザワザワと騒ぐ人間たちの中、レゼル兄様が私へ問いかけた。
兄の立場からは、魔王に脅されているように見えているはずだが…あえて問いかけたようだった。
私はどうしたものかと考える。
だが、ここまで来たのなら本当の事を言う必要はないのではという思考に至る。
「私は彼の申し出を受け入れました。悪いようにはしないと魔王と魔族たちは約束してくれました、私はそれに従おうと思います」
私はしおらしく話しを合わせることにした。
(ベルすまない。レゼル兄様すみません)
人間たちから見れば、第三王子を差し出せば手打ちにすると魔王が申し出たのだ。
嘘か本当かはともかく、多くの人間たちが忌み嫌う子供なら差し出しても問題ない。
レゼル兄様が私の身を案じているのなら、もう少し言っておく必要はあると思うが…レゼル兄様と話している時のベルの視線が私の方にいちいち刺さる。
「…そうか」
表情を曇らせたレゼル兄様は嘆息すると、懐から何かを取り出した。
そして、手に収まるそれを空中に高く放り投げた。
「リグレット、これを持って行ってくれ。僕からの結婚祝いの選別だ」
丁度私の手元に落ちてくる角度で降ってきたのだが、私の手が届くより先にベルがそれを片手でキャッチした。
ベルの手に収まったそれは、一振りの短剣だった。
鞘ごと投げられたので、特に怪我もない。
「…短剣?」
私が小首をかしげると、ベルは手に持った短剣を一瞥した後、高らかに笑った。
「はははっ!これは傑作だ!!アルケミス聖王国で結婚祝いに短剣を送るのは「浮気したらこれで相手を刺し殺せ」という意味だったかな?」
レゼル兄様からすれば…リアーネが死んだというのに、今はリグレットにうつつを抜かしている魔王など今すぐこれで刺し殺せという意図なのかもしれない。
とんだブラックジョークを受け取ったベルが腹を抱えて笑っている。
対するレゼル兄様は目すら笑っていない。
「第一王子はこの場で俺を笑わせることができる器の持ち主とはな。貴様が戴冠式を迎えるあかつきには俺からも祝いの品を贈ろう」
レゼル兄様は「送ってくるな」という空気を滲ませているが、私は二人の会話に割って入ることなく傍観していた。
(それにしても…転生した先の第二の人生で、兄様から結婚祝いに短剣を送られるとはなぁ)
前世の私の死因を思い出し、複雑な心境になった。
安全確認を終えたベルからその短剣を手渡しで受け取ると、私は懐へ収める。
「父様。兄様。今までお世話になりました」
「…すまないリグレット、私は我が子であるリグレットには…何もしてやれなかった」
父上はそう言うと頭を垂らした。
私は返す言葉を探したが、見つからなかった。
ここでどんな言葉を返そうと、父上の今後の立場を悪くすることになりそうだったから。
「それでは、親族共の挨拶も終わったのだからここに長居をする必要はない。行こう。我が妻リグレットよ」
後ろから抱きしめる形で片手は腰に回し、もう片手で私の手を握るとベルは囁くように言う。
「ああ。行こう」
「正直に言うと、話を聞いた限りお前の母親をこの手でブチのめしておきたいのだが、それは望まないことだろう?」
小声で囁くベルの声音には殺意が滲んでいたが、私はひとつ頷いた。
ああいう輩が権力を握り、人族を従えていたからこそ前世のリアーネは人間どもに殺されたのだとベルは言う。
彼の話いわく、私を殺した首謀者たちは五百年前に末代も残さず八つ裂きにしたらしい。
この場の見せしめは必要ではないのかとここに来るまで散々話し合ったことだが、私の意思は変わらなかった。
母上に憎しみがないわけではない。
だがあの女に対して、復讐するまでの関心が私にはなかった。
二千年以上生きた私に対して、あの女はたった十七年しか私と関わっていないのである。
そんな些細なことを気にするほど私は繊細ではなかった。
(それに、殺したいほど憎んでいた忌み子が人間たちの前で魔王と盛大に婚姻を結び魔族に迎え入れられるなんて、あの女にとっては発狂するぐらいの嫌がらせにはなっただろうしな)
これぐらいが丁度いい。
ベルの号令で闇色狼がくるりと踵を返し、広間を去ろうとしたところで「待ってくれ!」と呼び止められた。
どこから聞こえた声かと思えばガレットからだった。
まだなにか用か?と、ベルが忌々しそうに相手を見下す。
私は上半身だけひねって振り返るように後ろを見た。
私達が広間に来た時までずっと青くなって震えていたガレットは、おずおずと続きを口にする。
怯えと震えは残っているのだが、この際見なかったことにしよう。
「君と…お茶を…一緒にする約束は叶わなかったな」
その約束はそもそも却下したはずだが…私は静かに言葉の続きを待つ。
ガレットは真っ直ぐに私を見つめながら思いを口にした。
「二人とも結婚おめでとう。心から祝福する」
その言葉に私もベルも目を丸くした。
「俺からしてみればこの結婚は魔王の強制かもしれないが、その真意はわからない。だが、俺は祝福して送り出したい。二人の行く末に幸があらんこと」
ベルはその祝電を受け取ると、口元をつり上げて笑いながらガレットに向かって後ろ手を振った。
闇色狼に走るように命令すると今度こそ大広間を二人は去った。
「弟に守られてばかりの腰抜けかと思っていたが、案外いいやつじゃないか」
「そうだと…いいのだがな」
十七年の間、黒髪の忌み子として生きてきた私は人間たちから嫌われていた。
そんな私とベルを唯一祝福して送り出したガレット兄様は、人間でありながら召使いや兵士たちに嫌われる存在だった。
皮肉なことにベルも人間たちから嫌われている魔王ベルグラである。
立場も状況も全然違うのに、人間から嫌われる者同士という点では一緒だったのかもしれない。
私は彼の祝電を素直に受け取ることにした。
広間を出るとワープで王城の上空まで出た。
太陽が輝く蒼天のもと、そこから空中を蹴って走りながら魔族の領域まで狼が走りはじめる。
ワープで即座に帰ることも可能だったが、今日は空中散歩の気分だ。
「帰ったら盛大な宴を開き、挙式をあげよう」
「…他の魔族たちは納得するだろうか?」
人間の、それも第三王子と魔王の結婚になる。
「俺が全員黙らせるよ」
「…うーん」
「それから、お前の寿命が尽きる前に内側から俺の魔力を注ぎ込んで不老の措置を取ろう」
方法がないわけではないと言ったのを思い出し、私は頭を抱えた。
ベルが私に魔力を注ぎ込むとは、つまりそういうことである。
「君は恥ずかしげもなくそういうことが言えるようになったのだな」
「昔は恥ずかしさも含めて何も出来なかったから後悔したんだ。今度こそ成し遂げてみせる」
キリッと表情を引き締めて言うものの、内容は残念なそれである。
「期待しない程度に期待しておくよ」
「どういう意味だそれは!?」
ベルは動揺しつつも、どこか楽しげだった。
私もその雰囲気につられて笑みをこぼす。
(なんにしても…)
二千年以上、魔女と魔族の婚姻は続いた。
そこから五百年たった後、私達の縁はまたこれからも続こうとしている。
(この縁が末永く続きますように)
私は心の中でそれを願わずにはいられなかった。
おわり
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