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1 義弟との初夜①
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ハミルトン公爵家、当主夫人の寝室。
キングサイズの巨大な天蓋付きのベッドで、私は枕をクッション代わりに寄り掛かり寝そべっていた。
侍女に着せられた夜着は肌が透けるほど薄くて頼りなく、リボン一つ解けば容易に脱げてしまう。
その煽情的なうす紅色の夜着は、今夜のために特別に用意されたもので、目的のためには必要だと言われても、いつもの寝間着が恋しくなるのを止められないでいた。
私はいま、ただの布切れと変わりないような薄衣一枚で、夫ではない人を待っている。
これから起きるだろうことを思うと胸がドキドキして、今にも呼吸困難になりそうだった。
コンコンコン。
「どうぞ」
「待たせたね、レティシア」
「いえ……」
燭台一つの薄暗い室内に入ってきたのは、癖毛の金髪と深緑の瞳の爽やかな青年、ニコラスだ。
ハミルトン家の次男であるニコラスは、私にとって夫の弟にあたる。
でも私は17歳で、ニコラスは20歳。
実際には義兄のように思っていた。
そのニコラスがなぜ兄嫁である私の寝室に堂々と現れたのかと言うと、それにはそれなりの事情がある。
彼は天蓋から垂れ下がるレースの内幕の前で立ち止まり、困ったように笑う。
「レティシア、本当に良いの? もし嫌なら……私が兄上に言うよ?」
「うぅん、大丈夫」
「今ならまだ間に合う」
真剣な眼差しでそう告げられて、私は一瞬だけ躊躇った。
脳裏に憂いを帯びた夫の顔が浮かんだが、その時に聞かされた言葉を忘れてはいけない。
夫は確かに私を愛してくれているけれど、それ以上に公爵家の当主として『子孫を残す』という義務を果たそうとしているのだ。
「これはジョルジュの望みだから、私はそれを叶えたいの」
「……そうか」
私の覚悟を確かめたニコラスは、それならと自分も腹を決めたようだ。
徐ろにガウンを脱ぎ捨て、ズボン姿でレースの内幕を静かに開いた。
最後の障害物が取り除かれた今、二人を劃かつものは何もない。
均整のとれた裸の上半身が晒され、その引き締まった腹筋を見ただけで、私の下腹の奥がこれからの行為を想いキュンと締まる。
掛布を捲ってそっとベッドへ入ってきたニコラスの手が私の頬に触れ、彼の空いた片腕に抱き寄せられた。
ニコラスの眼差しには明らかな劣情が含まれていて、見詰められただけでも肌が泡立つ。
「もう、引き返すことはできないよ?」
改めて問われると、やっぱり動揺する。
しっかり見返しているのに、自分の瞳が揺れていると分かってしまった。
それでも今夜、私はニコラスに抱いてもらうのだ。
それだけはやり遂げると決めている。
「……はい」
だから。
震えないように、細心の注意を払って返事をした。
「じゃあ、始めようか……」
ニコラスの顔が近付き、私は静かに目を閉じてその唇を受け入れた。
初めは軽く触れるように、次は何度も啄むように。
やがて舌が差し込まれ、口内を舐め回される。
何度も角度を変えて繰り返される口付けは、まるでやっと結ばれた恋人のようだ。
ニコラスからこんな風にされるとは思っていなかった。
私は自分が醜女とは思わない。
社交界デビューしたあと複数の男性から求婚されたし、父の言によるとその全てが政略ということはなく、半分くらいは私自身を見初めての申し込みだったそうだ。
そして一時期は王太子妃候補に推薦されたこともある。
だから少なくとも、平均よりは美しいのだと思う。
でもそれは比較対象が一般的な貴族女性だからであって、ニコラスのように眉目秀麗な──まるで神の手による彫像のような、そんな完璧な男性と釣り合うとは思えなかった。
私が持っているものといえば、体の割に大き目な──夫のジョルジュが言うには、形の良い理想的な胸くらいなものだ。
それもきっとジョルジュにとって理想的なだけで、巨乳と言うには少し小さく、決して万人受けするようなものではないし、殿方を虜にするような手練手管も持ち合わせてはいない。
その上私は、彼の兄嫁。
処女でもないどころか、御下がりの中古品だ。
噂によればニコラスに胸への執着は無いらしいし、若さを求めるなら別の人でも代用が効くだろう。
そうなるともう、彼に好かれる要素は一つも見つからない。
本当ならニコラスのような美男子が、私の相手をする必要などなく、尊敬する兄の願いだとしても断れるはずなのに……。
それでも抱いてくれると言うのなら、それは無類の兄思いであるニコラスだからで、決して私を好きだとかいう理由では有り得ない。
なのに……。
今ニコラスはやっと唇を離し、息も絶えだえで荒い呼吸を繰り返す私の首筋へと舌を這わせていく。
その瞳は甘く笑みを湛えていて、私は尚更困惑するのだった。
キングサイズの巨大な天蓋付きのベッドで、私は枕をクッション代わりに寄り掛かり寝そべっていた。
侍女に着せられた夜着は肌が透けるほど薄くて頼りなく、リボン一つ解けば容易に脱げてしまう。
その煽情的なうす紅色の夜着は、今夜のために特別に用意されたもので、目的のためには必要だと言われても、いつもの寝間着が恋しくなるのを止められないでいた。
私はいま、ただの布切れと変わりないような薄衣一枚で、夫ではない人を待っている。
これから起きるだろうことを思うと胸がドキドキして、今にも呼吸困難になりそうだった。
コンコンコン。
「どうぞ」
「待たせたね、レティシア」
「いえ……」
燭台一つの薄暗い室内に入ってきたのは、癖毛の金髪と深緑の瞳の爽やかな青年、ニコラスだ。
ハミルトン家の次男であるニコラスは、私にとって夫の弟にあたる。
でも私は17歳で、ニコラスは20歳。
実際には義兄のように思っていた。
そのニコラスがなぜ兄嫁である私の寝室に堂々と現れたのかと言うと、それにはそれなりの事情がある。
彼は天蓋から垂れ下がるレースの内幕の前で立ち止まり、困ったように笑う。
「レティシア、本当に良いの? もし嫌なら……私が兄上に言うよ?」
「うぅん、大丈夫」
「今ならまだ間に合う」
真剣な眼差しでそう告げられて、私は一瞬だけ躊躇った。
脳裏に憂いを帯びた夫の顔が浮かんだが、その時に聞かされた言葉を忘れてはいけない。
夫は確かに私を愛してくれているけれど、それ以上に公爵家の当主として『子孫を残す』という義務を果たそうとしているのだ。
「これはジョルジュの望みだから、私はそれを叶えたいの」
「……そうか」
私の覚悟を確かめたニコラスは、それならと自分も腹を決めたようだ。
徐ろにガウンを脱ぎ捨て、ズボン姿でレースの内幕を静かに開いた。
最後の障害物が取り除かれた今、二人を劃かつものは何もない。
均整のとれた裸の上半身が晒され、その引き締まった腹筋を見ただけで、私の下腹の奥がこれからの行為を想いキュンと締まる。
掛布を捲ってそっとベッドへ入ってきたニコラスの手が私の頬に触れ、彼の空いた片腕に抱き寄せられた。
ニコラスの眼差しには明らかな劣情が含まれていて、見詰められただけでも肌が泡立つ。
「もう、引き返すことはできないよ?」
改めて問われると、やっぱり動揺する。
しっかり見返しているのに、自分の瞳が揺れていると分かってしまった。
それでも今夜、私はニコラスに抱いてもらうのだ。
それだけはやり遂げると決めている。
「……はい」
だから。
震えないように、細心の注意を払って返事をした。
「じゃあ、始めようか……」
ニコラスの顔が近付き、私は静かに目を閉じてその唇を受け入れた。
初めは軽く触れるように、次は何度も啄むように。
やがて舌が差し込まれ、口内を舐め回される。
何度も角度を変えて繰り返される口付けは、まるでやっと結ばれた恋人のようだ。
ニコラスからこんな風にされるとは思っていなかった。
私は自分が醜女とは思わない。
社交界デビューしたあと複数の男性から求婚されたし、父の言によるとその全てが政略ということはなく、半分くらいは私自身を見初めての申し込みだったそうだ。
そして一時期は王太子妃候補に推薦されたこともある。
だから少なくとも、平均よりは美しいのだと思う。
でもそれは比較対象が一般的な貴族女性だからであって、ニコラスのように眉目秀麗な──まるで神の手による彫像のような、そんな完璧な男性と釣り合うとは思えなかった。
私が持っているものといえば、体の割に大き目な──夫のジョルジュが言うには、形の良い理想的な胸くらいなものだ。
それもきっとジョルジュにとって理想的なだけで、巨乳と言うには少し小さく、決して万人受けするようなものではないし、殿方を虜にするような手練手管も持ち合わせてはいない。
その上私は、彼の兄嫁。
処女でもないどころか、御下がりの中古品だ。
噂によればニコラスに胸への執着は無いらしいし、若さを求めるなら別の人でも代用が効くだろう。
そうなるともう、彼に好かれる要素は一つも見つからない。
本当ならニコラスのような美男子が、私の相手をする必要などなく、尊敬する兄の願いだとしても断れるはずなのに……。
それでも抱いてくれると言うのなら、それは無類の兄思いであるニコラスだからで、決して私を好きだとかいう理由では有り得ない。
なのに……。
今ニコラスはやっと唇を離し、息も絶えだえで荒い呼吸を繰り返す私の首筋へと舌を這わせていく。
その瞳は甘く笑みを湛えていて、私は尚更困惑するのだった。
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