普通、ファミレスで子連れの男をナンパするか⁈〜Oh,my little boy〜

SA

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「今日、うちに誰か来るの?」
仏壇の掃除をしていると、聡がそう訊いてきた。
「な...」なんでバレたんだ?と焦って、逆に聞き返してしまう。
「なんで?」
「今日は朝から掃除してるから、お客さんが来るのかなって思ったんだ」と返ってきた。
「だ、誰も来ないよ。休みの日はいつも午前中に掃除してるだろ」
「じゃあ、なんでお客さん用のコーヒーカップを棚から出してるの」
「よ、汚れが付いてたから、後で洗おうと思って」
焦りながらも、どうにか誤魔化す。
「ふーん」
一応納得したようだが、なにか疑っているように目つきは鋭いままだ。
「ほら、出かける準備しろよ。そろそろ豊くんが迎えに来る時間だぞ」
俊哉がそう言った時、ちょうどチャイムが鳴ってくれた。


「聡の追求が厳しくて、焦っちゃったよ」
俊哉はキッチンでコーヒーを淹れながら、リビングのソファに座っている能條に言う。
「まるで浮気を疑っている妻みたいだな」
能條はそう言って笑っているが、俊哉はその冗談を笑えず、ため息を吐く。
この恋が始まって二ヶ月経っていた。
息子にバレないようにと不安要素を抱えたままだったが、とりあえず男二人の秘密の関係は順調に続いている。
今のところは、だが。
「この関係はバレてないと思うけど...」
テーブルにコーヒーカップと茶菓子を並べると、能條の隣に座り、不安を吐露する。
「聡はなにか勘付いているかもしれない」
今日、能條が自宅に来たのは、ただ遊びに来たわけじゃなく、妻の仏壇に線香をあげるためだ。
ちゃんとあいさつをしときたいと、能條の方から申し出があった。
もちろん、その申し出を断る理由はなく、今回の訪問は仕方ないと言えるが、やっぱり能條を自宅に呼ぶのはもう少し慎重にするべきだった。
聡はなにか勘付いている。だから、あんなに厳しく追求してきたのだ...。

「パパと二人がいい」

今にも聡が帰って来そうで、つい腕時計で時間を確認した。
聡は友人と映画を観に行っている。上映開始時間は確か二時だった。
「今、三時過ぎか。まだ映画を観ている最中だな」
「心配し過ぎだよ」と能條は笑う。「人生、なるようにしかならないんだから」
まったくこの男は、どうにかなるとか、なるようにしかならないとか、いい加減なことしか言わない。
でも、少し気が楽になったのは否めない。
「確かにちょっとナーバスになり過ぎかも」
俊哉はコーヒーを飲んで、気分を落ち着かせた。
「週末しか会えないんだから、今は二人の時間を楽しもう」
能條は耳元でそう囁くと、身体を密着してくる。
俊哉は棚に飾ってある写真の中の妻に目をやった。
自分の気持ちに決着をつけたつもりでも、やはり後ろめたさがあるのは確かだ。
でも、少しずつ割り切れるようになっている自覚はある。

「能條雅人と申します。この度、俊哉さんとお付き合いすることになりました。時々、ここにお邪魔して、ちょっとイチャイチャすることもあるかもしれませんが、そこらへんは目をつぶってくれたらありがたいです。今後とも、どうぞよろしくお願いします」

さっき、仏壇に手を合わせながら、能條は声に出して、妻にそう語りかけていた。
やっぱり変な人だな、と笑ってしまったが、もちろん分かっている。
それくらいの図太さも必要だと伝えてくれているのだと。
これまでも能條の言動に振り回されたり、困惑してきたが、その根底には心に寄り添う優しさがあることを知っている。
ただの幼稚な言い分の時もあるが、この男に脱力させられたり、背中を押されたりしながら、俊哉は日々、新しい恋に挑んでいる。
「ごめん、恵理。今は目をつぶってて」
俊哉は心の中で妻に詫びながら、目を閉じて、キスを受け入れた。

誰かがいるような気配を感じたのはその時だった。

目を開けると、目が合った。
母親とそっくりな大きな瞳が見開かれている。
「...っ」
聡だった。
聡がリビングのドアから顔を覗かせていた。
咄嗟に密着していた能條を突き飛ばす。
勢い余って能條はソファから転げ落ちてしまった。が、そんなことにかまっていられない。
「あ...」
この修羅場をなんとかしようと言い訳を考えるが、なにも思いつかない。
キスしているところを見られてしまったのだ。
結局、誤魔化すことも言い訳もできず、「こ...こんなに早く帰って来るとは思わなかったから...」と間抜けなことしか言えなかった。
「映画観てたら、豊くんが急にお腹痛くなっちゃって、だから途中で映画観るのやめて帰ってきたんだ」
顔を強張らせているが、聡は淡々とそう説明した。そして、床に落ちた能條に目を向ける。
「誰、この人...」
「えっと、この人は...」
注目された能條は素早くソファに座り直し、「聡くん、こんにちは。俺のこと覚えてる?」と聡に話しかけた。
「あ、ファミレスの変な...」
聡はまた大きく目を見開いた。
その眼球は内心を表すかのように大きく揺れている。
父親が男とキスをしていた現場を目撃しまっただけでも天と地がひっくり返るような衝撃があっただろうに、その相手がファミレスの変な男だと分かって、さらに混乱が増したようだ。
「の、能條さんとはファミレスで会ってるよね。あ、えっと...それで...その」
呆然としている息子になんとか説明をしようとするが、なにより自分自身が混乱して、あたふたとしてしまう。
「そうだ。これもいい機会だし、三人で一緒に食事でもしようか」
この緊迫した空気を無視するように、能條はこんなことを提案してきた。
「な、なに言って」
「こうやって三人揃ったことだし、まだちょっと夕食には早いけど、寿司か鰻重の出前でもとろう」
まるで親戚が集まった時のノリだ。
「今、どういう状況か分かってるのか?」
俊哉は能條に詰め寄る。
「僕は別にいいけど」と言ったのは聡だ。
「え?」
「寿司より鰻重がいいな」
軽いノリでそんなことまで言う。
「じゃあ鰻重にしよう。俺も鰻重食べたかったし」
能條も軽いノリで言う。
「ちょ...」
軽いノリで勝手に話を進める二人を慌てて止める。
「ちょっと待って、勝手に決めな...」
「別にいいじゃん。食事くらい」
そう言い放ち、聡は自分の部屋に行ってしまった。

え?鰻重?
三人で一緒に食事?
この急激な展開に頭が働かず、「どうしよう...」と力なく言うほかなかった。







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