剣聖の転生~崖っぷちから俺はひたすらレベルアップしていく件

kakuちゃん

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第二章 小剣聖の転生

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……

 ポタッ!ポタッ!

 ポタッ!

 ポタッ!

 ……



 時空を穿うがち未知の世界に届きそうなくらいに、冴えた音を響かせながら血が滴っている。



 限りなく静かな牢獄で、鮮血の滴り落ちる音はことのほか耳障りだった。



 剣一が重いまぶたをゆっくりと開くと、目の前には暗く湿った壁があり、手のひらほどの小窓にはサビだらけの鉄鎖が見えた。彼は手足を動かそうとしたが、鉄鎖がガチャガチャと音を立てるだけだった。視線を落とし、床に落ちた血を見ると、そこには見知らぬ少年の顔が映っていた。その少年は十五、六歳にしか見えず、痩せ細り体中傷だらけだった。彼は一体今までどうやって生き延びてきたのだろう。



 剣一の脳裏に「ブーン」という音が鳴り響いた。



 「これは誰だ?俺はどこにいるんだ?これは、俺なのか?どうして別人になってるんだ?」



 続けて考える間もなく、まるで電撃を受けたように突如無数の痛みに襲われ、苦痛と共に剣一の脳裏に雑然とした無数の記憶が押し寄せた。



 少年は孤児院で他の子供たちに追いかけられながら殴られている、人々が呼ぶ彼の名前も剣一だった。



 検査により植物系の血統だと判明した後、その剣一という名の見知らぬ少年は孤児院からも追い出された。



 それからほかの少年たちは剣一を孤児院の近くの湖へ投げ込んだ。湖の中で、剣一は無数の巨大な水草に包まれ、幻想的な神殿に入った。彼は何かのシステムに触れたようだ。



 二人の長身の衛兵はその少年を容赦なく殴り、謎めいた黒いローブの人物が一歩一歩近付いてくる…。



 そうだったのか!



 剣一は頭の中で記憶の断片を少しずつ消化していった。出血過多のせいか、感覚が徐々に麻痺まひしていくのを感じた剣一は軽く舌を咬かんだ。その痛みのお陰で、彼の頭は冴えて回るようになり、思わず嘆息して言った。



 「この哀れむべき体に転生した理由はわからないが、俺は確かにまだ生きている!天から再び命を授かったからには、国や父さんが受けた屈辱を晴らしてみせる!」





 剣一が左右を見回しながら脱出方法を検討していたその時、牢獄のドアが開いた。



 背の高い二人の衛兵が扉から入って来た。一人は燃えるような赤い髪、もう一人は金髪で、まさに記憶の中の「剣一」を鞭むちった衛兵だった。赤毛の衛兵は手に大きな麻袋を持っていたが、その用途はわからなかった。



 剣一は両目を少し細め、顔色一つ変えずに二人を観察していた。



 赤毛の衛兵は麻袋を適当に床に放り投げ、剣一を見もせずに、あくびをしながら言った。



 「早くこのくそ野郎を引き渡して、酒を飲みに行くぞ」



 「こいつは見かけによらず頑固な奴だ。死んで当然だ」



 金髪の衛兵はそう言いながら、腰の辺りから鍵を取り出し、剣一を拘束していた鎖を解いた。剣一はそのまま地面に倒れ込み、弱ったふりをした。



 「くたばったのか?」



赤毛の衛兵剣一を足蹴にし、彼がピクリとも動かないのを見ると、金髪の衛兵と一緒に剣一を麻袋に放り込もうとした。



 ところが二人が剣一の体に手を掛けようとした瞬間、剣一が突然目を見開いた。彼は足を振り上げ後ろにいた赤毛の衛兵に蹴りを入れたが、残念ながら背が高く逞たくましい体つきをした衛兵を蹴り倒すことはできなかった。



 剣一はすぐにもう一度蹴りを放ち、その勢いで身を翻して目の前にいた金髪の衛兵に飛び掛かると同時に、床に落ちていた鉄鎖を拾い上げると、衛兵の首に巻き付け、歯を食いしばって必死にその首を絞めた。金髪の衛兵はほどなく目を白黒させ、足をばたつかせた。赤毛の衛兵は驚きの余り顔色を失い、慌てて拳を振り上げ、剣一に攻撃を仕掛けようとした。しかし赤毛の衛兵の拳を横目で捉えていた剣一が、すぐさま鎖を引っ張って方向を調整すると、金髪の衛兵の顔に赤毛の衛兵の一撃が直撃し、彼はあっという間に二本の前歯を失い、気絶してしまった。



 赤毛の衛兵は思わず驚いて「なぜ急にこんなに強く!?」と叫ぶと、 振り返って牢獄の外へ逃げて行った。



 剣一は眉をひそめると、すぐに地面に落ちていたもう一本の鎖をつかみ、外に放り投げると同時に「お前にもここに残ってもらおう」とそっと言い付けた。



 鎖は生きた蛇のように曲がりくねりながら飛んで行き、赤毛の衛兵の足首に巻き付いた。剣一がぐいっと鉄鎖を引っ張ると、赤毛の衛兵はバタンと倒れた。転倒して顔を血だらけした衛兵は、間もなく激痛から大きな悲鳴をあげた。剣一は悲鳴に気付いた他の衛兵が駆け付けて脱出しづらくなるのではと心配になり、急いで身に付けていたボロボロの服を引きちぎって赤毛の衛兵の口に詰め込むと、手を伸ばして必死に彼の喉を絞めつけた。剣一は一瞬で彼の息の根を止めるつもりでいたが、手に力が入らず、こともあろうに口に詰め込んでいたボロボロの服を吐き出され、大声で助けを叫ばれてしまった。



 剣一は切羽詰まり、赤毛の衛兵の後頭部にある「脳戸」のツボを拳で殴ると、彼は頭を傾けて気絶した。

 「ふぅ、やっと片付いた。しかし…」



 剣一の脳裏に、二人の衛兵に容赦なく鞭むち打たれる剣一の姿がよぎった。剣一は赤毛の衛兵が腰に差していた短刀に目をやり、厳しい目つきで短刀を抜くと、二人の衛兵の喉を次々にかき切った。



 鮮血が噴き出し、飛び散った。



 「神は殺生を好まないが、徳を備えていない者は、早目に生まれ変わってもらおう。来世は善人であるよう祈っているぞ!」



 時間が迫っていた。剣一は考える暇もなく、以前死んだ「剣一」の記憶を頼りに、牢獄から脱出した。秘かに設けられたチェックポイントを避け、暗い監獄から脱出した後は、遠くに見える森に向かってもの凄い勢いで走り続けた。



 しばらくして、背後から物音が聞こえてきた。犬の鳴き声、足音、そして人の叫び声…。



 「逃げられるものか、止まれ!」



 剣一は体力がどんどん削られていくのを感じていた。この体は本当に軟弱すぎる。剣一がふと振り返って眺めると、追っ手がどんどん迫って来るのが見えた。彼の額にはどっと汗が噴き出した。



 「神は慈悲深く、自分にもう一度命を与えてくださったのに、絶対こんな所で死ぬわけにはいかない!」



 剣一は心の中で呟いた。そして彼は目標を確信した。やはり真相を明らかにせねばならない!父の仇を討つために、彼は生き延びねばならないのだ!



 体力を使い果たす直前に、剣一は川のほとりまでたどり着いた。川幅は広くも狭くもなかったが、暗くて先が見えず、水面みなもには血のように赤い月が逆さまに映り、水の流れは急だった。



 あれこれ考える暇もなく、剣一は跳び上がると、川の中へ姿を消した。

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