三国第一の戦神・呂布は近未来に転生して女になってしまった！！

第十二章 オンライン会議

　１週間後。

　海辺の別荘の書斎には緊迫した空気が流れていた。パソコンの前にはロボットのようにカチコチになった呂布が緊張の面持ちで座っている。画面に映り込まない位置に陳嬋が陣取り、そのかたわらでアイクとジェイソンが試験監督のように目を光らせる。
「よく聞いて。あなたは私の言ったことを繰り返せばいいだけ。一言一句漏らさずに」
　陳嬋が真剣な顔で念を押すと、呂布は自信たっぷりに胸をたたく。
「大船に乗ったつもりで俺に任せろ」
　毎度のことながら、この自信は一体どこから来るのかと、他の３人は、あきれ顔で呂布を見つめる。
（心配しかない！）

　ついにオンライン会議が始まった。
　陳嬋は呂布を見つめ、イヤホンで本社会議室の様子をモニターしながら、小声でささやく。
「会長、取締役各位、先日は大変失礼しました……」
　呂布は無表情のまま、オウムのように陳嬋の言葉をまねて声に出す。
　しんと静まりかえった大漢グループ本社の会議室では、会長の曹徳が興味深げにディスプレーに映る呂布を見つめている。
　そばで見守るアイクは、呂布の真剣なようすに、満足そうにうなずいている。ジェイソンは、呂布がまた豹変するのではないかと、硬い表情でいつものハンカチを握りしめていた。
　呂布はそんなふたりを気にもとめず、陳嬋の言葉を一心に繰り返す。
「一刻も早く、社会と株主の信頼を取り戻すために、２点の緊急措置を実施します」
　少し息を吸う。
「第１に、記者会見を開き私の健康状態が、きわめて良好であることを表明します」
「第２に、資金繰りの問題を解決するために、工事が頓挫している西区の未完成ビルの一般競争入札を行います」
　会議室に拍手が鳴り響く。
「記者会見は早いほうがいいだろう。今夜でどうかね？」
　曹徳の発言に、呂布は嫌悪感をあらわにするが、陳嬋に太ももをつねられる。
「ええ、今夜で結構です」
　すぐさま表情を消し、ロボット状態に戻り答えた。
「では決まりだ。しかし第２の措置には賛成できない」
「なぜですか？」
「政府は来年、西区の大規模再開発計画を発表する。そうなれば、あの未完成ビルの価値は少なくとも今の50倍に跳ねあがるだろう」
「さすがは会長です！ お見それいたしました！」
　陳取締役が賛辞を述べると、とたんに会議室が静寂に包まれる。他の取締役から同情のまなざしを向けられた陳取締役は、「な、何か間違ったことでも？」と吹き出した汗をハンカチでぬぐった。
「ですが大規模再開発には東区も名乗りをあげており、西区よりは東区に分があるという話もあるようですね」
　ディスプレーの中の呂布が淡々と返す。
「さすが私の養女だけあって、よく調べているな」
　呂布は自分が何を言っているのかさっぱり分かっていないが、ひたすら陳嬋の言葉を繰り返す。
「やはり未完成ビルからはなるべく早く手を引いて、目の前の資金問題を解決することが先決かと。そうすれば新たなプロジェクトを始めることもできますので、将来的に……」
「新たなプロジェクト？」
　曹徳が冷ややかな表情で言葉を遮る。
「１年で50倍になる西区のビルに匹敵する儲けが出せるとでも？」
　取締役らは、そうだそうだと一斉に首を振り口々に同意を示す。
　───会長の言うとおりですよ。
　───私は会長に賛成します。
「無礼者め！」
　突然、呂布がテーブルをたたいて立ちあがる。
「失礼しました。これより社長は休憩に入らせていただきます。では今夜の記者会見で」
　すかさず画面に割り込んだアイクがカメラの電源を落とす。
　曹徳は、真っ黒になったディスプレーをいつまでも見つめていた。