三国第一の戦神・呂布は近未来に転生して女になってしまった！！

第十四章 結局は実力がものをいう世界なのだ

全員の視線が壇の下で控えていた陳嬋に集中する。一斉にカメラが向けられ、激しくフラッシュが光る。この状況では呂布に指示を出すことは不可能だ。
　───社長、答えてください。彼との関係は？ 恋人ですか？
　さっきの記者が追い打ちをかける。
「恋人？ いいや違う」
　呂布が陳嬋を見つめ、きっぱり答える。
「だが私の身体を奪った」
　いったん陳嬋らが胸をなでおろしたところで、爆弾発言が飛び出した。一瞬、場内は水を打ったように静まりかえったが、次の瞬間、記者たちが次々に質問を投げかける。
　───おふたりの間に肉体関係が？
「それなりに」
　───おつきあいは、いつからですか？
「数日前」
　───初めて会ったのは？
「数日前」
　───初対面で肉体関係に？
「そうだ」
　───そんな発言をして、あとが怖くないですか？
「怖い？ これまで何かを怖いと思ったことなどない！」
「プライベートな質問は、お控えください！ 会見は以上で終了させていただきます」
　焦ったジェイソンが、マイクを奪い早口で告げる。呂布も陳嬋に守られながら会場から出たが、当然、記者たちも特ダネを拾おうとあとに続く。その後ろを、数人のボディーガード風の屈強な男たちが追っていった。
　会見場の片隅に、この一部始終を撮影していた記者がいた。その男は、ライブ配信が中断されたあとも、階上のＶＩＰ会議室に映像を送り続けていたのだ。


　ＶＩＰ会議室では、スーツ姿の男性がふたり、酒を飲みながらディスプレーを見つめている。一方は、長髪をポニーテールのように後ろでひとまとめにした大漢グループ会長の曹徳だ。そばには、奇抜な服装をした男女が数人立っている。もう一方は、曹徳とそっくりな顔立ちをしている。この男こそがゼウスグループＣＥＯの曹猛である。そのかたわらには、軍人風の大男が数人ひかえている。
「どう見る？」
　先に口を開いたのは曹猛だった。
「おもしろい」
　曹徳がグラスを手に取り、酒を口の中へ流し込んだ。


　車内には重苦しい空気が充満している。いつものように運転手を務めるのはジェイソンだ。アイクは助手席で動画のチェックに忙しい。後部座席には呂布と陳嬋が並んで座っている。
　なぜか呂布だけは満足そうに見える。
「どうだ？ さっきの俺は完璧だっただろ？」
「どこが完璧よ？」
　陳嬋は歯の隙間から声を絞り出す。
「やはり俺は文武両道で……イテッ！」
　突然、脚を蹴られて顔をしかめる。
「誰があなたと肉体関係があるっていうの？ よくも私の清純なイメージを壊してくれたわね！ ほんとサイテー！」
「待って嬋ちゃん。ちょっとこの動画の弾幕を見てよ。みんな、あんたのことを褒めてるわ」
　陳嬋はアイクからスマホを受け取る。
　さっきの一幕が、早くもショート動画に編集されており、視聴回数もみるみるうちに増えていく。
「社長かっこいい！」「正直だわ～」「これこそが情報の透明性だ。きっと株価も上がるだろ？」「ボディーガードの筋肉に惚れた！」「社長は誘拐されたのよね？ マッチョな彼が助けたに決まってる！」「うらやましい！ 私にも最強のボディーガードを！」
　これらのコメントに「いいね」の嵐が吹き荒れている。やがて事実にネット民の妄想が加わり、独創性が増していった。
「ボディーガードと一緒なら安心よ」「女王様社長とイケメン用心棒」など、ラノベのタイトルのようなコメントが量産された。
　陳嬋は腕時計を見た。あと数分後にはアメリカの株式市場があく。アプリを開くと、すでに取引は始まっており、大漢グループの株価は９点９パーセント上昇していた。
　株式市場というのはゴシップの影響を大いに受けるものだが、結局は実力がものをいう世界なのだ。