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第十八章 今日からお前は軍馬ではなく、俺の兄弟だ!
しおりを挟む陳嬋と呂布に続いてレッドも乗り込もうとしたが、身体が大きすぎて車に入れない。
「やだぁ、たくましすぎて、ほれぼれしちゃう……」
相変わらずのアイクである。まさに追っ手が迫り来ていることや、レッドが何者かなどはまったく気にならないようだ。
そうしている間に、格闘技の選手たちがビルから出てきた。
「ここは俺がなんとかする。早く行け!」
レッドが車のドアを閉めて叫ぶ。
「レッド、だめだ。一緒に逃げよう!」
呂布が窓から手を伸ばす。
「そうよ。命の恩人を置いていけない!」
しかしジェイソンの認識は違う。陳嬋の安全が最優先の彼は、なんの迷いもなくコントロールパネルを操作し、飛行モードを選択した。
エンジンが起動して車両が浮き上がったと思えば、あっという間に加速しその場から飛び去った。
呂布は、珍しく強硬手段に出たジェイソンの首に腕を回す。
「停めろ!」
息が詰まり薄れゆく意識の中、ジェイソンは思い出していた。呂布と初めて会った日も、こんな風に首を絞められ死にかけたのだった。
「やめなさい!」
陳嬋とアイクが必死で呂布をなだめる。
「このままじゃ、落っこちて全員死んじゃうわ!」
呂布は陳嬋とアイクをにらみつけ、「なら俺はあいつと生死をともにする」と言い、ドアを開けて車から飛びおりた。
「キャーーーー」
アイクと陳嬋が悲鳴をあげ、慌てて手を伸ばすが届くはずもない。窓から下をのぞくと、地上でゴロゴロと転がり受け身をとった呂布は、すぐに立ちあがりビルのへ走り出した。
(命の恩人だからって何もそこまで……)
陳嬋はそう思ったが、呂布にはもうひとつ、どうしても見捨てられない別の理由があった。あのレッドという選手が赤兎にそっくりだったからだ。馬と人間ではあるが、赤兎とレッドは何かつながりがあるような気がしていたのだ。
(しかと確かめねば……)
呂布はその思いだけで、一心にレッドのもとに走る。だが姿が見えた時には、大勢の選手に囲まれ劣勢を喫していた。
本来の実力なら、100人相手でも負けるとは思えない。だがライオンと戦い、ふたりの人間を担いで数百メートル走った直後では、間違いなく体力が削られているはずだった。
レッドが悔しそうに天を仰ぐ。
「お前の名は? 一体どこから来た?」
さっき担いだ女が乱入してきた。どこか懐かしい雰囲気があり他人とは思えなかった。レッドの表情が引きしまり、急に力が湧いてくる。
「レッドだ。目覚めたらここにいた。で、みんな俺をレッドと呼ぶ」
呂布と背中あわせになり答えると、敵をふたりまとめて蹴り飛ばした。
「こんなヤバいとこに、なんで戻ってきた?」
「どうしても他人とは思えなかった」
呂布は防御しながら答える。
「俺もだ!」
レッドは次々と敵を倒していく。
「いいか、俺の合図で膝をつけ! せーの!」
レッドが言われるがまま片膝をつくと、呂布はその背中に乗る。驚くほどに息があっている。
「逃げるが勝ちだ!」
呂布の叫び声を聞いたレッドの身体に電流が走る。目に涙をいっぱいにため、両手でしっかりと呂布の足をつかむと、馬のいななきにも似た雄叫びをあげた。そのあまりの迫力に、周囲の敵があとずさる。
レッドの中に、自分は赤褐色の毛並みをした駿馬であるという意識が芽生えていた。きらめく甲冑に身を包み、方天戟(ほうてんげき)を手にした天下無双の主(あるじ)とともに戦場を駆けるさまが、ありありと脳裏に浮かんでくる。
主が、山際に潜伏していた無数の敵兵を相手に死闘を繰り広げている。俺が主を救おうと敵陣をかきわけ突っ込んでいくと、主はひらりと身を翻し俺の背中にまたがった。その瞬間から文字どおり人馬が一体となり次々と敵をなぎ倒した。たとえ千万の敵を前にしようと、主は冷静さを失わない。
「逃げるが勝ちだ」
そう言って主が優しく俺の背中をたたく。これは俺と主の合言葉だ。
ヒヒーーーーーン!
俺のいななきで周囲の兵がひるむ。そのすきに主を背中に乗せた俺は山上の密林に駆け込んだ。
そこで記憶が途切れる。
「ご主人様 ついにあなたを見つけました」
レッドは目をうるませる。
「ですが……、なにゆえ女子(おなご)の姿に?」
「俺にも分からん。目覚めたらこの姿だったのだ」
ふたりは顔を見あわせ、大声で笑った。
突然、レッドが真顔に戻った。迷彩服を着た男の群れと、奇妙な格好をした者たちが近づいてくるのが見えた。彼らは曹兄弟の手下であることをレッドは知っている。
「ご主人様、少し面倒なことになりました。俺が奴らの気を引くので、先に逃げてください」
「ならん! 二度とお前と離れるつもりはない」
「たかが軍馬に、そんなこと……」
「お前以上に大切な存在はいない」
呂布はレッドの肩を後ろから抱きしめる。
「今日からお前は軍馬ではなく、俺の兄弟だ!」
呂布は、レッドの背中からおりる。そして再びレッドと背中あわせになり、途切れることなく攻めてくる敵を協力して倒していく。
レッドは重厚な蹴りとパンチで相手につけいるすきを与えない。一方、呂布は俊敏さをいかし、攻撃をかわしながら着実に反撃をする。
「俺を阻む者は、死あるのみ!」
呂布が叫ぶ。
「おーー!」
レッドも叫ぶ。
空中で車の窓から乱闘の様子を見守っていた陳嬋は、無傷のふたりを見てにっこり微笑む。
「ジェイソン、あのふたりを迎えに行って!」
「ですが……」
「早く!」
「…………」
ジェイソンは迷っていた。
この時、彼らの車に向けられた狙撃銃の銃口から、一発の銃弾が飛び出した。
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