三国第一の戦神・呂布は近未来に転生して女になってしまった！！

第十七章 乱闘騒ぎ

「見つかった、逃げなきゃ！」
　陳嬋は呂布の袖口を引っ張ったが、呂布は微動だにしない。その視線はレッドの首の傷に釘づけになっていた。
　記憶の波が一気に押しよせる。
　あの日、白門楼の刑場で愛馬の赤兎が、首に同じような傷を負っていた。
「何を見てるの？ 行くわよ！」
　陳嬋は焦るが、あっという間に男たちに囲まれた。しかし呂布は目を見開いたまま、その場を動こうとしない。
「てめえらは袋のネズミだ。観念しろ！」
　太った男がすごむ。
「ここを誰の縄張りだと思ってんだ」
　痩せた男が続ける。
（縄張り？ バカじゃないの？ 私の土地だけど？）
　陳嬋は心の中で毒づく。
　太った男と痩せた男は、それぞれ陳嬋と呂布に手を伸ばすが、その手を誰かにつかまれる。レッドだった。
「小僧、邪魔するな……ギャッ！」
　腕をひねりあげられ、悲鳴をあげたとたん、ふたりまとめてレッドに蹴り飛ばされた。
　レッドは呂布の姿をした陳嬋に鼻を寄せてにおいをかぎ、何かが違うとつぶやく。
「ちょっと何するのよ！」
　陳嬋はひそかに自分の腕をにおってみる。
（毎日シャワーを浴びてるのに、そんなに臭い？）
　レッドは振り向き、呂布に鼻を寄せる。
「懐かしいにおいだが……」
　今度は不思議そうに首をかしげた。そんなレッドに呂布が何かを言いかけた時、３人は再び男たちに囲まれる。
「かかれ！」
　リーダー格の男が命令すると、手下どもがいっせいに襲いかかる。
　レッドがすかさず足をはらうと、男たちが次々と宙に舞った。いつの間にか格闘技の選手とおぼしき男たちも敵方に加勢している。
「ここは逃げるが勝ちだ！」
　呂布が叫ぶと、一瞬レッドの動きがとまった。
　けれど次の瞬間、さっと陳嬋と呂布を両肩に担ぎあげ、包囲網を突破した。
「やだ、すごい力！ なんか守られてるって感じ！」
　陳嬋は うっとりとした表情で身を任せる。


　乱闘騒ぎの一部始終は、ＶＩＰルームのモニターにも映し出されている。部屋ではこの地下格闘技場の主催者であるゼウス社ＣＥＯの曹猛と大漢グループ会長の曹徳が、今日もワインを片手に試合を観戦していたのだ。
　このふたり、実は一卵性の双子の兄弟である。ある日、半分に分かれた曹操の魂がそれぞれの身体に入り込んでからというもの、雷雨のたびに身体に異常をきたすようになった。どこで何をしていても必ず激しい痙攣を起こして気を失い、雷雨がおさまると目が覚めるという死ぬほどの苦しみを味わっている。
　そんな彼らには共通の目的があった。ひとつは、いまだ技術的な欠陥がある人神プロジェクトの完成のために資金を稼ぐこと、もうひとつは魂の半分を取り戻すために兄弟を殺すことだ。しかし皮肉なことに、魂を取り戻す前に相手が別の形で命を落とせば自分も死ぬことになり、互いを守りあうしかない。どうしてこんな身体になってしまったのかと、双子の兄弟はそろっておのれの運命を呪っている。
　曹猛と曹徳は、それぞれ手下を呼ぶ。
「陳嬋を捕らえろ。あの子の両親が娘に何を遺(のこ)したのか、私から直接聞く」
　曹猛は赤ワインのグラスを揺らしながら命令する。
「生け捕りだぞ」
　曹徳が念を押すと、手下たちは二手に分かれて出ていった。
「あのふたりを捕まえたら、どうする？」
　曹猛が弟に問う。
「うちのスパイ組織に催眠読心術の専門家がいる。私に任せておけ」
　そう言って曹徳は不敵な笑みを浮かべるが、すぐに反論される。
「いや、うちの傭兵軍には思考をコントロールできる医学博士がいるから、ここはやはり私が……」
「争うのはよそう。とりあえず地下の秘密の牢獄に閉じ込めて、一緒に聞きだそう」
　曹徳の提案に納得したのか、曹猛は「なら地下で会おう」と言って先に部屋を出た。


　未完成ビルの入口から、陳嬋と呂布を担いだレッドが出てきた。
「ストップ！ あれが私の車だから早くおろして」
　陳嬋がレッドの腕をバンバンたたく。
　停車中の車の中から、陳嬋らの姿を見つけたジェイソンは、ボタンを押して後部座席のドアを開けた。
「早く乗って！」
　アイクが窓から顔を出して叫ぶ。