異なる世界、鬼説

伽藍 瑠為

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ロストハート

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2節「ロストハート」




100人は座れる長方形の長いテーブル。
その上座(かみざ)に、足を組み、肘掛を使い、拳に顎を乗せ、真っ赤な長髪をした黒の眼帯の幼女。
結晶華会長が座り、帰ってきた為心達を見て口を開いた。











※会長のイメージ










「戻ったか。…佐藤が見当たらぬが?……もしや…」



上座の近くの席に座ろうとしながら為心は言葉を口にした。



「会長…そのことだ……佐藤さんが死んだ。いや…死んだとは断定出来ないし、したくはない。」



為心は佐藤が死んだとは思いたくなかった。
この状況で死が本当にあると仮定して、現実側、いわゆるリアルの自分はどうなっているのか。
なんらかの転移、召喚、ダイブ、などのリアルである創作物の現象と同様なのか。
どれにしても最終的にゲームで死に、リアルの自分が生きていると記実されてるものは少ない為に為心は死と決定づけたくはなかった。
そして、更に為心は口を開いた。



「会長はどう思う?この事を皆に伝えるべきだと思うか?」

「…ふむ……佐藤がいなくなった事を隠すことはできまい……じゃが、死を肯定してはいかんとワシは思う。きっとワシらがここで話してることはもう既に周りも話しておるじゃろう。先にこちらから伝え、死への概念を曖昧にせんと皆の精神が持たん。今からクラン全員を集める。まずはそこからじゃ。その後ワシは会長会で情報の共有をはかってこよう。主らは少し休むのじゃ。」







クラン会議が終わり、その後、ある程度の情報が入るまで安全圏内で待機と伝えられていた。
しかし、稀(まれ)に鬼は空間の歪みから出現し、総力を持って討伐にかかるが、毎回数人が帰らぬ人となる。


彼らはそれを「ロスト」と呼んでいる。


鬼説(ここ)はデータの世界なのは間違いなかった。
決して死ではなく、失われた心となり「ロストハート」となった。




そして、今に至る。






『私がやらなきゃ!私がやらなきゃ!強くならなきゃ…このゲームを!…私がっ!終わらせる為にっ!』


「うぁぁぁぁぁあああああ!!!!」



凄まじい速度で駆ける幼女。
しかし、鬼もそれに気付き右手の長い爪をさらに伸ばして幼女めがけ振り下ろそうとしていた。



「ユナちゃんだっ!危ないっ!!」



ちくびがそう叫んだとほぼ同時だった。



「ちっ!閃光!!」



為心の姿が瞬間的に発光し、その場から消えた。
そして、鬼の爪が振り下ろされ、幼女に触れそうになった時、幼女の姿が消え、鬼より数メートル先に2人は移動していた。



「っ!?…マジかよ…一撃でこれかよ…。」


為心はユナの状況を確認し、叫んだ。


「誰かっ!魔氣(マギ)はいるかっ!?早くユナを回復してくれっ!!」


間一髪で回避できだと誰もが思っていたはずだった。
しかし、幼女の脇腹半分は無くなっていた。


「い…いやああああああああ!!!!!!」


周りから悲鳴が上がった。
そして、ふと気づくと為心に影が覆い被さり、振り向いた時には爪を振り上げた鬼がそこにはいた。



「クッソっ!!!間に合わないっ!」



為心はとっさに防御態勢だけとった。




だがその時、赤髪が目の前を遮(さえぎ)った。




「無事そうじゃの。」



鬼の振り下ろした腕めがけ赤髪は太刀を下から振り上げ、鬼の腕を飛ばした。
為心はその一言で誰が助けてくれたのかがわかった。



「会長!助かった!」



間髪入(かんぱつい)れず、鬼がもう一方の腕を振り上げたのが見えた。



「感謝は後でよい。ワシとそこの幼女を抱えてお主の閃光で移動するのじゃ。」



「あいよっ!…閃光!!」



為心がスキルを使用した瞬間、鬼の振り下ろした爪は空を切り、為心達は円を作る生徒たちの後ろ側へ移動した。
そして、目の前にはちくびがいた。


「ちくよ、この幼女を回復出来るかやるのじゃ。」


会長は目の前にいるちくびにそう指示を出した。


「ユナちゃん!大丈夫!?意識保ってっ!大丈夫だからっ!」


ユナのレベルはあまりに低く、鬼の一撃で瀕死の状態だった。


そしてその時。



「ギュゥゥゥゥィィイイイイ…」



鬼から機械音に似た低い音から高い音へと変わる何かが聞こえてきた。



「タンク隊!!前へっ!!」



どこかでチームを結成してるリーダーから指示が飛んだ。
陽刀(かたな)を持つ4人の体格のいい男性達が同じ構えに入った。
気づくと鬼は4足歩行の体制になり、口からは光が漏れ、そこから出る音は耳が痛くなるほど高くなった。
そして、音が無くなったと同時に鬼の口から炎の玉の様な、雷の玉の様な丸型のライトエフェクトが4人に向かって放たれた。



「絶!!」



4人の周りには黄色のライトエフェクトで六角型が並ぶシールドが貼られた。
その後ろで弓を構える何人かの男女達、そして、リーダーが次の指示を送る。



「皇矢(こうや)隊!!ってぇーっ!!」



皇矢(ゆみ)を持つ男女が空に構えた。



「時雨!!」



空に向かって彼らは一本の矢を放った。
そして、鬼の攻撃はシールドに着弾と同時に凄まじい衝撃音を放ち、4人の太刀を持つタンク隊は弾かれ、吹き飛んだ。
その一方で空から光輝く無数の矢が雨の様に鬼に降り注ぎ、その攻撃に鬼がよろめいた。



「双月隊っ!!」



指示が出た後に双月(そうげつ)隊の声が聞こえた。



「閃光!!」



鬼を囲う様に円を描いていた生徒たちの中から双剣の役職が十数人、鬼に向かって斬り裂き、通り抜け、反転してはまた斬る。
幾度となく斬り裂かれる鬼は耐えきれずバランスを崩し、片膝を地面につけた。



「これで終わりだっ!陽刀隊っ!しあげ……」
「どけ。邪魔だ。」



指示が言い終える前に目の前に黒い紫色の光が凄まじい勢いと速度で鬼に向かって伸びた。
その光は鬼を通り過ぎた所で止まり、少しずつ光は消えていった。
そこに現れたのは、黒い髪に黒のロングコートをまとい、双月を手にし、紫色の稲妻をまとった男性がいた。












※ノーネームのイメージ











その後ろで鬼は倒れ、その場に居た全員の視界にクリアの文字が浮かんだ。





「遅かったのぅ。名無しよ。」




会長がノーネームに話しかけた。



「それはすまなかった。少し用事があってな。」

「ほう?それはワシには言えないことなのじゃな?」

「まだ断定出来ないからな。」

「そうか。…ナリムも小奴(こやつ)に振り回されて大変そうじゃのう。」




ノーネームの横に、オレンジ色の髪、そして、ショートに前髪が眉毛の上まで切られた特徴のある幼女、ナリムに会長は話しかけた。












※ナリムイメージ











「いえ。私の為でもありますし、ノネムさんの為でもありますから全然平気です。」

「よう出来た子じゃの。名無しには勿体無いのう。」



会長はさらに言葉を続けた。



「…しかし、主は相変わらず化け物じゃの。あの残りのHPを根こそぎ無くすとは。」



それに対し、ノーネームは言葉を返した。



「お前が本気を出せば俺の必要は無かったんじゃないのか?」

「名無しよ。…それはかいかぶりすぎじゃ。ワシはお主ほど強とぉない。」

「どうだかな。隠してるのは俺だけじゃなさそうだがな。」



ノーネームは会長を見た後にちくびを見た。
そして、ナリムが口を開いた。



「ノネムさん早く探しに行きましょう。麻也(まなり)が待っています。」



それを聞きノーネームも口を開いた。



「そうだな。」



そして会長へと目線を向け口を開く。



「…?その幼女…そうか……そいつはもう助からん。最後の言葉を聞いてやれ。俺は先を急ぐ。」



ノーネームはそう言い残し、ナリムは頭を下げ、その場を去っていった。
それを聞き、会長はユナの所へ屈(かが)み話しかけた。



「すまないが主を助ける術(すべ)がない。最後に何か言い残したいことはあるか?」



会長は優しくユナに問いかけた。
ユナは必死に叫んだ。



「嫌だ!私は死にたくない!なんとかして!お願い!やだっ!嫌だ!しに…」



ユナの姿はポリゴンになり弾け、そして、消えた。
会長はその消えたところを見つめて口を開いた。



「本当に…すまない。」


それを見ていた為心がさらに口を開く。



「ユナ…ごめん…助けられなかった…。」



目の前の現象は数式で出来たデータがただ消えただけかもしれない。
そうであれば確かに死ではない。
しかし、その後どうなってしまったのかがわからない状況は恐怖そのものだった。
死と同じ比率にして、変わらない感情。
その感情を感じ、意識を感じ、心を感じる事が出来る自分達(この)データが消えるということはもはや死ではないのか。

データが消えただけ。

アバターと共に心が消えただけ。



「ロストハートとは良く言い過ぎたものだな。」



死を誤魔化した言葉だった。
為心はロストハートを2回目にして恐怖を肌で感じた。
本日のゼロだったロスト数が1増えた。





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