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32・誰の声だかわかりましたが、拙い事になりそうです。
しおりを挟む「こいつが可愛くてな」
赤鬼は馬を降り、着衣を整えると、二度、三度と労わる様に撫でてあげながら言いました。
着衣を整えたとはいえ、胸は開け放しですし、両腕は肩から剥き出しの姿に目のやり場に困ると思いましたが、その堂々とした赤銅色の体躯は、あたかも彫刻像を鑑賞しているようで、何一つ羞恥を覚えませんでした。
それにしても、人の思惑をスルリと躱すのですから嫌になります。
馬を駆り、裂帛の気合と共に斧槍を振り回しているのですから、リリアの問い掛けに、当たり前の事を聞くなとばかりに『武技の鍛錬をしている』と、答えると思っていました。
「しかし、こいつが、とんだお転婆娘で困っている」
赤鬼、泣き出しそうな顔です。
何だか可哀想になって、庇ってあげたくなってしまいます。
「見事に乗りこなしていたようですが?」
「いやいや、馬というのは大事な相棒だからな、阿吽の呼吸が大事なんだ。どうも俺はこいつに好かれてはいるが、愛されていないようだ」
「ぷっ!」
あ! リリア、それは流石に失礼です。
私だって赤鬼の口から『愛』などという言葉が出て来たのは、余りに似合わな過ぎて噴き出しそうになりましたが、ちゃんと堪えたのに。
礼節をわきまえるリリアも、赤鬼の前では調子を狂わされてしまうようです。
「おいおい、笑ってくれるな」
怒るなら謝罪の仕様もあるものの、益々眉根を寄せて泣き顔になるものですから、どういう態度を取れば良いのか、私の方が困ってしまいます。
「他の馬では駄目なのですか?」
「前にも言ったが、この家の馬はどれも素晴らしく、目移りしてしまうのだが、いっそ一番の美人さんにしようと思ったのが、この娘なんだ」
「お目が高いですわ。おいで、リンゴ!」
「……ん゛?」
私の呼び声に応じて、それまで大人しく待機していた馬、リンゴが、いななき一つ上げて駆け寄って、鼻面を頬にこすりつけてきます。
「えぇぇ!」
「ぷぷぷ!」「ぷーっ!」
赤鬼の間抜けた声に、我慢など出来よう筈もありません。
リリアと顔を見合わせて、何の遠慮も無く、腹を抱えて大笑いです。
「ロッソ様、この娘の名はリンゴ。その名の通り林檎が大好物ですの。この娘を射止めたければ、林檎を山ほどご用意いただければ落とせますわ」
「何だ! 姫は馬を扱えるのか!?」
「あら、大得意ですわ。特にリンゴとは仲良しですの」
私が優越感に浸って、鼻高々にしていた……その時です。
「おい、こんな所で何やっていやがる」
馬場に野太い声が響き渡りました。
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