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31・神様なんて信じちゃいないですけど。
しおりを挟む「だから、何!」
手を引かれながらもリリアに問いかけますが、急かすばかりで答えてくれません。
強引にリリアを引き留めると、振り向きざま、苛立たしそうに声を上げます。
「赤鬼ですよ」
「はあ~?」
我ながら、随分と間抜けな声を上げてしまいました。
「赤鬼ですよ」
繰り返し言うリリアの確信に満ちた言葉に、疑念を挟む余地はありません。
「赤鬼だ~!」
間抜けな声、再びです。
今更気付くとは、迂闊にも程がありますが、先程聞こえた馬を追う声、赤鬼に違いありません。
「リリア! 何やっているの、急ぐわよ!」「お嬢! 何言っています、急いでいるじゃないですか!」
顔を突き合わせて、互いに指差して言い争って……いえ、全面的に気付かない私が悪いだけなのですが、自分の迂闊さは棚の上にぶん投げて、棚ごとぶっ壊して、リリアの手を取り駆け出しました。
「教えないリリアが悪いのよ!」「分からないお嬢が悪いのです!」「近侍として報告する義務があるでしょう!」「こんな時だけ主人面して!」「むっきー! あー! もう」「何ですか!」「何ですかとは、何よ!」
館を出て中庭を横切り、馬場の手前に差し掛かると、空気を切り裂き、震わせて、甲高い声が響き、思わず立ち竦んでしまいました。
すかさずリリアが私の前に飛び出して、周囲を見渡し、何か異変がないか気配を探ります。
馬蹄の音が潮騒のように近づいては遠ざかっていく合間に合間に、先程の甲高い声、裂帛の気合が聞こえてきます。
リリアが慎重に進む後にひっついて行き、馬場の傍まで来ると、赤鬼の騎乗する姿が見えてきました。
さらに場柵を開けて中に入って、直ぐ側まで近寄ると。
すごい迫力です! 正に赤鬼。
斧槍を軽々と、前後左右、縦横無尽に振り回しながら駆け行く様は、圧巻の一言。
赤鬼の眼に私たちの姿が目に留まったのでしょうか。
斧槍を担ぎ上げ、手綱も使わず器用に太腿で馬を御しながら、私たちの目の前に馬蹄を響かせ、土ぼこりを舞い上げて止まりました。
赤鬼の騎乗する姿に、朝陽の逆光が降り注ぎ、まるで押し固めたように濃厚な、黒い影が浮かび上がります。
もろ肌脱ぎの岩の様な身体から、妙に生々しい汗が噴き出て、逆光にきらめき、全身から熱気を放つように大気を歪ませていました。
仰ぎ見るような形になった所為もあるのですが、何とも神々しい姿に、つい、見とれてしまい、魂などという物が本当にあるのならば、根こそぎ引っこ抜かれたような心持です。
「おう、姫にリリア嬢か、お早う!」
「お早うございます」
「……ロッソ様、お早うございます」
リリアも赤鬼の姿に圧倒されていたのでしょう、挨拶を交わすのに随分と間が空きましたが、続けて言います。
「ロッソ様こちらで何を?」
えー!? リリアは何を当たり前の事を聞いているのでしょう。
私の間抜けが、うつったか!
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