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58・それぐらい、すぐ分かります。
しおりを挟むリリアがお茶を淹れてくれています。
私から視線を逸らし、ただ黙ったままのリリアの姿を、何とはなしに、ぼんやりと眺めています。
お父様にエドモンド商会への訪問のご許可を得には行きました。
私は、よほど陰惨な表情をしていたのでしょうか、ただ、首を縦に振るばかりのお父様に、理由も告げず、良いも悪いも答えも聞かず、ただ言い捨てて帰ってきてしまいました。
「―――ッツ!」
リリアの差し出してくれたお茶を、冷ましもせずに口にして、その熱さに耐えかねて、カップを取り落としてしまい飛沫が上がり……いち早くリリアの手が伸びて、カップを鷲づかみにしました。
熱いのは身をもって知っていますが、リリアは顔色一つ変えずに、水の入ったグラスと、濡れた布巾を差し出してくれました。
その手際の良さは、あらかじめ、こうなる事が分かっていたとしか思えません。
しかも普段だったら『何やっているのですか!』と、遠慮会釈なく叱りつけられる場面だというのに、素知らぬ顔でいます。
「ごめん、リリア」
慌てて濡れ布巾を、リリアがカップを抑えた手に当てようとするも、リリアはやんわりと押し返してきました。
そのまま、ゆっくりと私の前に腰掛け、ほんの僅か、眉をしかめて、困ったような顔をします。
「話さなきゃ……ダメ?」
リリアは、ただ、黙って静かに頷きます。
「ダメ?」
「話した方が楽になるに決まっていますよ」
私が部屋に入って来た時の雰囲気だけで、何か嫌な事があったと、すかさず感じ取り、私から話し出すまで何も言わなかった、リリアの気遣いは痛いほど分かります。
リリアに話した方が気が楽になるのも、重々分かっています。
ただ、どうにも先ほどの出来事をリリアに話すのは抵抗があります。
その理由はと尋ねられると……何でしょう?
実際、その場を見た訳でもあるまいし、下劣な邪推をリリアに話したら、見下されるからか、リリアを汚すような気になるからか。
リリアも……いや、いや、リリアは赤鬼を慕っているようにも、見受けられますから、失望する姿を見たくないからか。
初心なネンネじゃあるまいし、そんな事を気にして、どうするのですか、と、呆れられるからか。
考えているうちに様々な頭の中の灰の塊が崩れ落ち、真実が浮かんできました。
リリアの所為にしているだけです。
本心は、あの光景を、私が二度と思いだしたくないだけですね。
何も言わないで、リリアは許してくれるでしょうか?
伏せていた顔を恐る恐る上げると、そこにはリリアの冷ややかな瞳が。
(うん、許してくれないな)
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