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2話
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第二話「闇の影、忍び寄る試練」
村はざわめきに包まれていた。
つい先ほどまで干ばつでしおれていた作物が、瑞々しい実をつけたのだ。農夫たちは驚きと歓喜の声を上げ、広場では急ごしらえの収穫祭が始まっている。
「これ、本当に私がやったのかな……?」
リーリは、魔法のペンを胸に抱きしめながらカインに尋ねた。
「どうだろうな。でも、あのタイミングで奇跡が起きたのは確かだ。」
カインは冷静に観察を続ける。その横顔はどこか険しい。
「だったら、もっと感謝状を書けば、村をもっと良くできるかも!」
リーリの瞳が輝いた。無邪気な笑顔には、彼女の特有の純粋さが溢れていた。
「ちょっと待て。こういう力には必ず代償がある。手放しで使うのは危険だ。」
「代償?」
「世の中、タダで奇跡が起こるなんてことはない。」
カインの言葉にリーリは少し黙り込んだが、それでもペンを握る手の力は緩まなかった。
その夜。
祭りの喧騒が遠ざかり、静かな夜風が村を包む中、リーリはこっそり家を抜け出した。
「もう一度、試してみよう。もっとすごい感謝状を書けば、もっと大きな奇跡が起きるかも!」
ペンを片手に、彼女は広場の大きな樫の木の下に座り込んだ。
「えっと……今度は誰に感謝しよう?」
リーリは村の人々の顔を思い浮かべた。優しいおじさんや面倒見のいいおばさん、そして普段は無愛想だけど、いつも助けてくれるカインのことも――。
そのときだった。
足元から黒い霧が静かに広がり始めた。温かな夜風とは不釣り合いな冷たい空気が、リーリの肌を刺す。
「え……なに、これ?」
驚いて立ち上がろうとした瞬間、黒い霧の中から何かが現れた。
「感謝の力を持つ者よ――。」
低く不気味な声が響く。
霧の中から現れたのは、全身を黒いローブに包んだ男だった。顔はフードに隠され見えないが、その目だけが赤く光り、リーリをじっと見つめている。
「だ、誰……?あなた、何者なの?」
リーリは恐怖に震えながらも、ペンを握りしめた。
「私は『影』。無感謝の影――この世界から感謝という概念を消し去る者だ。」
「感謝を……消し去る?」
男は一歩前に進み、鋭い声で言った。
「お前が拾ったそのペン。それはこの世界に再び奇跡を呼ぶ道具だ。だが、その力が蘇ることを私は許さない。」
リーリは一歩後ずさりした。足が震え、声も出ない。
「感謝状なんて愚かしいものだ。人々が感謝を失えば、全てが平等になる。妬みも、争いもない完璧な世界だ。」
男の声は冷たく、どこか悲しげでもあった。
「そんなの間違ってる!」
震える声を振り絞り、リーリは叫んだ。
「感謝は……大事な気持ちだよ!それがあるから、人は優しくなれるの!」
男は嘲笑を浮かべたように見えた。
「ならば証明してみせろ。そのペンが真に奇跡を起こす力を持つのならな。」
突然、男が手を振ると、黒い霧が渦を巻き、巨大な怪物の形を成した。鋭い爪と赤い目を持つその怪物がリーリに向かって吠えた。
「――書け、感謝状を!」
ペンが再び輝き、リーリの耳元に声が囁いた。
「心の底からの感謝を込めれば、奇跡は再び生まれる。」
「で、でも……誰に?どんな言葉を……!」
恐怖に足がすくむ中、リーリは必死に考えた。そして、頭に浮かんだのは――。
「……カイン!」
カインがいつも冷静に自分を助けてくれる姿が脳裏に浮かぶ。彼は時に厳しいことを言うけれど、それが全て自分を思ってのことだと気づいていた。
リーリは震える手で感謝状を書き始めた。
『カインへ。いつもありがとう。あなたがいるから私は頑張れる。これからも私を支えてください。』
書き終えた瞬間、ペンが眩い光を放った。その光はリーリを包み込み、彼女の手から力強い風となって怪物を吹き飛ばした。
「これは……感謝の力……!」
男が目を見開く中、怪物は消え、黒い霧も晴れていった。
「覚えておけ……これは始まりに過ぎない。」
男は悔しげに呟き、霧と共に姿を消した。
光が消え、静寂が戻った広場に、リーリは一人立ち尽くしていた。
そして――。
「リーリ!」
遠くからカインの声が聞こえた。
彼が駆け寄り、リーリの肩を掴む。
「お前、何やってるんだ!無事でよかった……。」
その言葉を聞いた瞬間、リーリの目に涙が溢れた。
「カイン……私、感謝状を書いたの。あなたのことを――。」
その言葉に、カインは驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく笑った。
「……まあ、感謝されるのも悪くないな。」
こうして、リーリとカインは「感謝状の魔法」の本当の力を知ることとなった。しかし、それは同時に、二人が世界の運命を背負う旅の始まりでもあった。
村はざわめきに包まれていた。
つい先ほどまで干ばつでしおれていた作物が、瑞々しい実をつけたのだ。農夫たちは驚きと歓喜の声を上げ、広場では急ごしらえの収穫祭が始まっている。
「これ、本当に私がやったのかな……?」
リーリは、魔法のペンを胸に抱きしめながらカインに尋ねた。
「どうだろうな。でも、あのタイミングで奇跡が起きたのは確かだ。」
カインは冷静に観察を続ける。その横顔はどこか険しい。
「だったら、もっと感謝状を書けば、村をもっと良くできるかも!」
リーリの瞳が輝いた。無邪気な笑顔には、彼女の特有の純粋さが溢れていた。
「ちょっと待て。こういう力には必ず代償がある。手放しで使うのは危険だ。」
「代償?」
「世の中、タダで奇跡が起こるなんてことはない。」
カインの言葉にリーリは少し黙り込んだが、それでもペンを握る手の力は緩まなかった。
その夜。
祭りの喧騒が遠ざかり、静かな夜風が村を包む中、リーリはこっそり家を抜け出した。
「もう一度、試してみよう。もっとすごい感謝状を書けば、もっと大きな奇跡が起きるかも!」
ペンを片手に、彼女は広場の大きな樫の木の下に座り込んだ。
「えっと……今度は誰に感謝しよう?」
リーリは村の人々の顔を思い浮かべた。優しいおじさんや面倒見のいいおばさん、そして普段は無愛想だけど、いつも助けてくれるカインのことも――。
そのときだった。
足元から黒い霧が静かに広がり始めた。温かな夜風とは不釣り合いな冷たい空気が、リーリの肌を刺す。
「え……なに、これ?」
驚いて立ち上がろうとした瞬間、黒い霧の中から何かが現れた。
「感謝の力を持つ者よ――。」
低く不気味な声が響く。
霧の中から現れたのは、全身を黒いローブに包んだ男だった。顔はフードに隠され見えないが、その目だけが赤く光り、リーリをじっと見つめている。
「だ、誰……?あなた、何者なの?」
リーリは恐怖に震えながらも、ペンを握りしめた。
「私は『影』。無感謝の影――この世界から感謝という概念を消し去る者だ。」
「感謝を……消し去る?」
男は一歩前に進み、鋭い声で言った。
「お前が拾ったそのペン。それはこの世界に再び奇跡を呼ぶ道具だ。だが、その力が蘇ることを私は許さない。」
リーリは一歩後ずさりした。足が震え、声も出ない。
「感謝状なんて愚かしいものだ。人々が感謝を失えば、全てが平等になる。妬みも、争いもない完璧な世界だ。」
男の声は冷たく、どこか悲しげでもあった。
「そんなの間違ってる!」
震える声を振り絞り、リーリは叫んだ。
「感謝は……大事な気持ちだよ!それがあるから、人は優しくなれるの!」
男は嘲笑を浮かべたように見えた。
「ならば証明してみせろ。そのペンが真に奇跡を起こす力を持つのならな。」
突然、男が手を振ると、黒い霧が渦を巻き、巨大な怪物の形を成した。鋭い爪と赤い目を持つその怪物がリーリに向かって吠えた。
「――書け、感謝状を!」
ペンが再び輝き、リーリの耳元に声が囁いた。
「心の底からの感謝を込めれば、奇跡は再び生まれる。」
「で、でも……誰に?どんな言葉を……!」
恐怖に足がすくむ中、リーリは必死に考えた。そして、頭に浮かんだのは――。
「……カイン!」
カインがいつも冷静に自分を助けてくれる姿が脳裏に浮かぶ。彼は時に厳しいことを言うけれど、それが全て自分を思ってのことだと気づいていた。
リーリは震える手で感謝状を書き始めた。
『カインへ。いつもありがとう。あなたがいるから私は頑張れる。これからも私を支えてください。』
書き終えた瞬間、ペンが眩い光を放った。その光はリーリを包み込み、彼女の手から力強い風となって怪物を吹き飛ばした。
「これは……感謝の力……!」
男が目を見開く中、怪物は消え、黒い霧も晴れていった。
「覚えておけ……これは始まりに過ぎない。」
男は悔しげに呟き、霧と共に姿を消した。
光が消え、静寂が戻った広場に、リーリは一人立ち尽くしていた。
そして――。
「リーリ!」
遠くからカインの声が聞こえた。
彼が駆け寄り、リーリの肩を掴む。
「お前、何やってるんだ!無事でよかった……。」
その言葉を聞いた瞬間、リーリの目に涙が溢れた。
「カイン……私、感謝状を書いたの。あなたのことを――。」
その言葉に、カインは驚いたように目を見開いたが、すぐに優しく笑った。
「……まあ、感謝されるのも悪くないな。」
こうして、リーリとカインは「感謝状の魔法」の本当の力を知ることとなった。しかし、それは同時に、二人が世界の運命を背負う旅の始まりでもあった。
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