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19.告白
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休み明けの月曜日、登校するのは怪我をした日以来で、学校までの足取りがいつもより重く感じていた。
あの日救急車がきて大事になったからか、私はちょっとした有名人になっていたらしく、周りがなんとなくザワついているのは鈴から聞いて知っていた。だから覚悟はできていたけれど、それでも好奇の目で見られるのはあまり気分のいいものではない。
「葵!」
後方から呼びかけられて振り向くと、目の前には息を切らした鈴がいた。
「もう……大丈夫なの?」
「電話でもいったじゃん! もう大丈夫だよ!」
「ほんと? どこも痛くない?」
「そんな気にしないでよー! 大事をとって休んでただけなんだから……ほらっ、もう元気、元気!」
今にも泣きだしそうな鈴を元気づけようと、ガッツポーズをして見せる。
「そか……良かった!」
「ふふ、ありがとね、鈴」
鈴の顔を見て気持ちが解れた私は、それ以上周囲の目を気にすることはなかった。
——昼休み
鈴と一緒に屋上で寝転び空を仰ぐ。一面に広がる澄み切った青空と、頬を撫でる風の心地良さに眠りに落ちそうになる。
「ねぇ」
「んー?」
「葵が休んでた間にさ、見ちゃった子がいて」
「なにを?」
「睦美いるでしょ? 森田睦美」
「うん」
「倉田に告白してたんだって」
先生に『告白』と聞いて、一瞬で眠気が吹っ飛んだ私は、勢いよく起き上がり鈴を見た。直接口に出さなくても何が言いたいのかわかったのだろう。首を横に振って。
「駄目だったみたい」
鈴の言葉を聞いて咄嗟に安堵の息を吐くも、同時に人の失恋を喜んでしまったことへの罪悪感で胸が少し痛む。
「理由とか……聞いてる?」
「ううん、さすがに居た堪れなくてすぐに離れたみたいだし」
「そっか……」
(やっぱり『生徒』だから、なのかな)
「ねぇ、鈴」
「ん?」
「『先生』ってさ、私たちにとって家族以外で一番身近な大人だと思うんだよね……だから、私や彼女みたいに本気で好きになってしまうことも不思議じゃないのかなって」
「でも……『先生』からしたら『生徒』って別次元の存在なのかな? 『生徒』ってだけで、枠から除外されちゃうのかな? それってなんだか少し、悲しいよね……好きな気持ちを否定されたみたいでさ」
「葵……」
「でも、頑張るって決めたから……後悔だけはしたくない」
「うん……そうだね」
それから二週間が経ち、ついに期末テストが始まった。学校中が試験ムードで、どこへ行ってもテスト用語ばかりが聞こえてくる。
前のテストの答えあわせをして、落胆する人や友達と答えが一緒で喜んでいる人。次のテストの勉強をする人もいれば、諦めて寝る人もいたけれど。
肝心の私は勉強の成果が現れ、今のところどの教科も手応えはバッチリだった。
そして、残すはあと一教科。
(ついに、先生の教科……)
試験日程を見た時に、最後が先生の教科だなんて、神様はなんてニクイ演出をするのだろうかと思ったのは言うまでもない。
「えー! お前マジで言ってんのソレ?」
「ぎゃはははは」
教室の中は、あと一つで終わりという開放感からか、少し騒がしくて。
「ちょっと静かにしてよ! うるさくて集中出来ないじゃない!」
クラスの女子の一人が、声を荒げた。
「したらよぉ、今日、アレな?」
「おー、アレな」
一瞬静まるも、全く気にしていない様子でまた騒ぎ始める。
(はぁ……)
呆れていると、倉田先生が教室に入って来て黒板になにやら書き始めた。
(先生だ! どうしたんだろう?)
「お? 倉田じゃん! 問題教えてくれー」
「俺も俺も!」
次のテストが先生の教科だからと男子生徒たちが更に騒ぎだす。
(先生怒りそう……)
なんとなくそんな気がした瞬間──
「勉強してるヤツがいるんだからお前ら喋んな!」
(やっぱり……)
先生が怒鳴ると瞬く間に教室内は静かになった。
「テストが始まってからまた回るから、質問があればその時にするように」
どうやら選択肢に間違いがあったようで、訂正に来た先生はそう口にして次のクラスへと移動していった。
先生がいなくなってから『怖い』と誰かが小声で囁いた。
でも、私はそうは思わない。
だって先生は、意味もなく怒ったりしない。今も、真面目に勉強していた私達の為に怒ってくれた。怒鳴るから怖いって思われるのかもしれないけれど、ちゃんと理由があるのだ。
いつか皆にも先生の優しさが伝わればいいと思う。
(肝心の先生は、全く気にしてなさそうだけどね)
──キーンコーン
予鈴が鳴り目の前にテストが配られる。裏返しのテストを見つめながら、深呼吸をして心を落ち着かせる。
(遂に、この日が来たんだ)
やれるだけの事はやった筈だ。
「はい、始め!」
テストの始まりの合図と共に、一斉にテスト用紙を表にする音が聞こえる。みんなより一足遅れて問題を見た私は、どれもこれも見たことがある問題ばかりで、思わず笑みがこぼれそうになる。
(これ……もしかしてもしかすると……イケるんじゃない?)
手が止まる事なく解答用紙の空欄をうめていき、問題を最後まで解き終わったところでちょうど廊下から足音が聞こえてきた。なんとなく足音で先生だとわかるのは好きだから、なのだろうか。
「質問ある人ー?」
「先生、問3って平仮名でもいいですか?」
「あー……まぁ、間違えるよりはな。ただなるべく漢字で書けよ」
「はーい」
「他いるかー?」
ふと視線をあげると教卓にいる先生と目が合った。まともに目を合わせるのは久しぶりで心臓がちょっとうるさい。笑みを浮かべながら小さくピースサインをしたら、心なしか先生が目を細めた気がした。
あの日救急車がきて大事になったからか、私はちょっとした有名人になっていたらしく、周りがなんとなくザワついているのは鈴から聞いて知っていた。だから覚悟はできていたけれど、それでも好奇の目で見られるのはあまり気分のいいものではない。
「葵!」
後方から呼びかけられて振り向くと、目の前には息を切らした鈴がいた。
「もう……大丈夫なの?」
「電話でもいったじゃん! もう大丈夫だよ!」
「ほんと? どこも痛くない?」
「そんな気にしないでよー! 大事をとって休んでただけなんだから……ほらっ、もう元気、元気!」
今にも泣きだしそうな鈴を元気づけようと、ガッツポーズをして見せる。
「そか……良かった!」
「ふふ、ありがとね、鈴」
鈴の顔を見て気持ちが解れた私は、それ以上周囲の目を気にすることはなかった。
——昼休み
鈴と一緒に屋上で寝転び空を仰ぐ。一面に広がる澄み切った青空と、頬を撫でる風の心地良さに眠りに落ちそうになる。
「ねぇ」
「んー?」
「葵が休んでた間にさ、見ちゃった子がいて」
「なにを?」
「睦美いるでしょ? 森田睦美」
「うん」
「倉田に告白してたんだって」
先生に『告白』と聞いて、一瞬で眠気が吹っ飛んだ私は、勢いよく起き上がり鈴を見た。直接口に出さなくても何が言いたいのかわかったのだろう。首を横に振って。
「駄目だったみたい」
鈴の言葉を聞いて咄嗟に安堵の息を吐くも、同時に人の失恋を喜んでしまったことへの罪悪感で胸が少し痛む。
「理由とか……聞いてる?」
「ううん、さすがに居た堪れなくてすぐに離れたみたいだし」
「そっか……」
(やっぱり『生徒』だから、なのかな)
「ねぇ、鈴」
「ん?」
「『先生』ってさ、私たちにとって家族以外で一番身近な大人だと思うんだよね……だから、私や彼女みたいに本気で好きになってしまうことも不思議じゃないのかなって」
「でも……『先生』からしたら『生徒』って別次元の存在なのかな? 『生徒』ってだけで、枠から除外されちゃうのかな? それってなんだか少し、悲しいよね……好きな気持ちを否定されたみたいでさ」
「葵……」
「でも、頑張るって決めたから……後悔だけはしたくない」
「うん……そうだね」
それから二週間が経ち、ついに期末テストが始まった。学校中が試験ムードで、どこへ行ってもテスト用語ばかりが聞こえてくる。
前のテストの答えあわせをして、落胆する人や友達と答えが一緒で喜んでいる人。次のテストの勉強をする人もいれば、諦めて寝る人もいたけれど。
肝心の私は勉強の成果が現れ、今のところどの教科も手応えはバッチリだった。
そして、残すはあと一教科。
(ついに、先生の教科……)
試験日程を見た時に、最後が先生の教科だなんて、神様はなんてニクイ演出をするのだろうかと思ったのは言うまでもない。
「えー! お前マジで言ってんのソレ?」
「ぎゃはははは」
教室の中は、あと一つで終わりという開放感からか、少し騒がしくて。
「ちょっと静かにしてよ! うるさくて集中出来ないじゃない!」
クラスの女子の一人が、声を荒げた。
「したらよぉ、今日、アレな?」
「おー、アレな」
一瞬静まるも、全く気にしていない様子でまた騒ぎ始める。
(はぁ……)
呆れていると、倉田先生が教室に入って来て黒板になにやら書き始めた。
(先生だ! どうしたんだろう?)
「お? 倉田じゃん! 問題教えてくれー」
「俺も俺も!」
次のテストが先生の教科だからと男子生徒たちが更に騒ぎだす。
(先生怒りそう……)
なんとなくそんな気がした瞬間──
「勉強してるヤツがいるんだからお前ら喋んな!」
(やっぱり……)
先生が怒鳴ると瞬く間に教室内は静かになった。
「テストが始まってからまた回るから、質問があればその時にするように」
どうやら選択肢に間違いがあったようで、訂正に来た先生はそう口にして次のクラスへと移動していった。
先生がいなくなってから『怖い』と誰かが小声で囁いた。
でも、私はそうは思わない。
だって先生は、意味もなく怒ったりしない。今も、真面目に勉強していた私達の為に怒ってくれた。怒鳴るから怖いって思われるのかもしれないけれど、ちゃんと理由があるのだ。
いつか皆にも先生の優しさが伝わればいいと思う。
(肝心の先生は、全く気にしてなさそうだけどね)
──キーンコーン
予鈴が鳴り目の前にテストが配られる。裏返しのテストを見つめながら、深呼吸をして心を落ち着かせる。
(遂に、この日が来たんだ)
やれるだけの事はやった筈だ。
「はい、始め!」
テストの始まりの合図と共に、一斉にテスト用紙を表にする音が聞こえる。みんなより一足遅れて問題を見た私は、どれもこれも見たことがある問題ばかりで、思わず笑みがこぼれそうになる。
(これ……もしかしてもしかすると……イケるんじゃない?)
手が止まる事なく解答用紙の空欄をうめていき、問題を最後まで解き終わったところでちょうど廊下から足音が聞こえてきた。なんとなく足音で先生だとわかるのは好きだから、なのだろうか。
「質問ある人ー?」
「先生、問3って平仮名でもいいですか?」
「あー……まぁ、間違えるよりはな。ただなるべく漢字で書けよ」
「はーい」
「他いるかー?」
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