魔王になったけど、夫(国王)と義弟(騎士団長)が倒せない!

炭田おと

文字の大きさ
78 / 118

77_順応力が高い

しおりを挟む


 ルーナティア様を出迎えた後、修道長様が修道服に着替えた彼女に、ここでの暮らしがどんなものなのかを説明した。


「この修道院では、修道女をみな同列に扱うようにしています。ここで暮らす以上、ルーナティア様にも他の修道女と同じように、実家の家格や身分にとらわれず、対等の相手と思い、接してもらいたいんです」


「もちろんです。受け入れてもらったのですから、ここの方針に従います」


 ルーナティア様は修道服を嫌がらず、修道長様の話を素直に受け入れてくれた。側で聞いていた私は内心、ルーナティア様の素直さに驚く。



 それから私達は日常に戻り、農作業に取りかかることになった。



 教区からの手当てや、寄付金があるとはいえ、エレウシス修道院は貧しい。教会や富裕層の収入も安定しているわけではないので、年によっては手当や寄付金の額が変わってしまう。


 そんな不安定な生活の中、私達は自給自足で少しでも食卓を豊かにしようと、修道院の裏手に畑を作り、野菜を育てている。


「畑を持ってるんですね」


 ルーナティア様を、裏手にある畑に連れていくと、彼女は目を輝かせた。


 その様子を、他の修道女が不安そうに見つめている。



「・・・・修道長様。王妃まで務められた方に、農作業などできるでしょうか?」


 一人が、修道長様にそっと耳打ちした。


「・・・・まだいらっしゃったばかりなのですから、今日は見学だけに留めておいてもいいのでは?」

「私もそう言ったのだけれど、ルーナティア様本人が、みなと一緒に働くとおっしゃったのよ」


 修道長様も、戸惑いを隠せていない。


「それでまず、私は何をすればいいのでしょう?」


 ルーナティア様はくわを両手にしっかりと持ち、やる気を漲らせている。みんなと一緒に働くという本人の心意気に、偽りはないようだ。


「何が植えられているんですか?」

「ここには、芋を植えています。もう、収穫の時期なんです。掘り出すのを手伝ってくれるかしら、ルーナティアさん」

「もちろんです!」


 ルーナティア様は意気揚々と、くわを振り上げた。



 それから、芋の収穫作業がはじまった。


 私達はルーナティア様のことが気がかりだったけれど、彼女は土に触れることをまったく嫌がらず、掘り返す作業に集中していた。


「修道長様!」


 作業に取りかかってから、どれぐらい時間が過ぎただろうか、突然悲鳴のような声が飛んできて、私達は驚かされる。



 慌てて声の根元を見ると、そこには土から掘り出したばかりの芋を掲げ、目を輝かせているルーナティア様がいた。


「芋が・・・・芋が取れましたよ!」


 ルーナティア様は見せびらかすように、芋を頭上まで持ち上げる。


 悲鳴のような声を聞いたときは、何事かと慌てたけれど、ルーナティア様はただ、芋を掘り出せたことを喜んでいただけらしい。


「そ、そうね。頑張りましたね。その調子で、他の芋も収穫しましょう」

「はい、頑張ります!」


 ルーナティア様は泥がついた顔で、屈託なく笑う。それからまた意気揚々と、芋掘りの作業に戻った。


(完全に収穫作業を楽しんでいらっしゃるわ・・・・)


 元王妃とは思えない適応ぶりに、私達は呆然としてしまった。


(というか、たった一個を掘り返すだけなのに、ずいぶん時間がかかったのね)


 私達が土の中から、数個の芋を掘り出している間、ルーナティア様はたった一個の芋と悪戦苦闘していたようだ。不器用な方なのだろう。


(あの姿、元王妃とは思えないわ・・・・)


 ルーナティア様は気位など道端に投げ捨てたがごとく、驚くほど農作業に馴染んでいる。彼女は泥まみれになって、深く張った芋の根っこに悪戦苦闘しつつも、この作業を心から楽しんでいる様子だった。


「・・・・王妃を務められていた方なんでしょう? なのに、ここでの暮らしにまったく抵抗がないなんて、おかしな方よね」

「でも、お高くとまっているよりは、何倍もいいじゃない」

「私も、親近感が湧いたわ。仲良くなれそう」

「後でみんなで話しかけてみましょう。もしかしたら、打ち解けられるかも」

「いいわね、賛成よ」


 ルーナティア様の態度が、彼女を遠巻きに眺めるだけだった修道女達の心境も変化させたようだった。


(よかった、うまくいきそう・・・・)


 その様子を見て、私は胸を撫で下ろした。



     ※     ※     ※



 それから、ルーナティア様を加えた生活がはじまった。


 ルーナティア様は驚くほど早く、修道院での生活に順応してくれた。


 おかげで私達もすぐに、以前の生活を取り戻すことができた。元王妃に、どのように接すればいいのかと思い悩んでいた時間が嘘に感じるほどだった。



 だけど懸念が、すべて払拭されたわけじゃない。


 魔物討伐のために派兵を要請したのに、国王軍はなかなか、兵士を送ってくれなかった。私達は魔物の影に怯えながら、悶々とした日々を過ごす。


「・・・・魔物の件、どうしましょうか、修道長様」


 ルーナティア様が到着してから二週間後、さすがに到着が遅いと思い、修道長様に問いかけずにはいられなかった。


 首都ブランデから、数日もかかる距離じゃない。兵士の到着が遅れている理由は、他にあるはずだった。


「催促の手紙を送ったわ。・・・・今度こそ、来てくれるといいんだけど」


 修道長様も不安げだ。


 誰も助けに来てくれなかったら、どうすればいいのだろう。ここには、戦えない女しかいない。今はルーナティア様もいらっしゃるのに、すぐ側まで迫っている危険と、どう向き合えばいいのかわからなかった。



「・・・・このことを、ルーナティア様にはどう説明しましょう?」

「そうね・・・・」


 修道長様は、小さく溜息をつく。


「・・・・不安にさせたくないわ。もうしばらく、黙っておきましょう」

「はい・・・・」


 王妃に選ばれるほど高貴な生まれなのに、修道院に送られるという憂き目に遭いながらも、ルーナティア様は表向きは気丈に振舞っている。修道長様は、これ以上彼女に心労をかけたくないと思っているのだろう。その気持ちは、私も同じだ。


「ルーナティア様の前では、不安を見せないように努めてね」

「わかりました」


 助けが来れば、すべての問題はすぐに解決する。自分にそう言い聞かせて、私はこの問題について深くは考えないようにした。



 ――――だけどそれから数日後、思いがけないことが起こった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

『冷酷な悪役令嬢』と婚約破棄されましたが、追放先の辺境で領地経営を始めたら、いつの間にか伝説の女領主になっていました。

黒崎隼人
ファンタジー
「君のような冷たい女とは、もう一緒にいられない」 政略結婚した王太子に、そう告げられ一方的に離婚された悪役令嬢クラリス。聖女を新たな妃に迎えたいがための、理不尽な追放劇だった。 だが、彼女は涙ひとつ見せない。その胸に宿るのは、屈辱と、そして確固たる決意。 「結構ですわ。ならば見せてあげましょう。あなた方が捨てた女の、本当の価値を」 追放された先は、父亡き後の荒れ果てた辺境領地。腐敗した役人、飢える民、乾いた大地。絶望的な状況から、彼女の真の物語は始まる。 経営学、剣術、リーダーシップ――完璧すぎると疎まれたその才能のすべてを武器に、クラリスは民のため、己の誇りのために立ち上がる。 これは、悪役令嬢の汚名を着せられた一人の女性が、自らの手で運命を切り拓き、やがて伝説の“改革者”と呼ばれるまでの、華麗なる逆転の物語。

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

追放された悪役令嬢ですが、前世の知識で辺境を最強の農業特区にしてみせます!〜毒で人間不信の王子を美味しい野菜で餌付け中〜

黒崎隼人
恋愛
前世で農学部だった記憶を持つ侯爵令嬢ルシアナ。 彼女は王太子からいわれのない罪で婚約破棄され、辺境の地へと追放されてしまいます。 しかし、ドレスを汚すことを禁じられていた彼女にとって、自由に土いじりができる辺境はまさに夢のような天国でした! 前世の知識を活かして荒れ地を開墾し、美味しい野菜を次々と育てていくルシアナ。 ある日、彼女の自慢の畑の前で、一人の美しい青年が行き倒れていました。 彼の名はアルト。隣国の王子でありながら、政争で毒を盛られたトラウマから食事ができなくなっていたのです。 ルシアナが差し出したもぎたての甘酸っぱいトマトが、彼の凍りついた心を優しく溶かしていき……。 王都の食糧難もなんのその、最強の農業特区を作り上げるルシアナと、彼女を溺愛する王子が織りなす、温かくて美味しいスローライフ・ラブストーリー、ここに開幕です!

処理中です...