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78_待ち望んだお客様
しおりを挟むその日も朝から快晴で、私達はいつものように、農作業に精を出していた。
「ふう・・・・」
疲れから作業の手を止めて、遠くを見やる。
修道院を取り囲む景色は、来る日も来る日も、変化することがない。
「・・・・あれは何かしら?」
だけどその日は奇妙なことに、その景色の中に小さな変化を見つけた。
なだらかな草原の向こう側に、砂埃のようなものが見えたのだ。
私の呟きを不思議に思ったのか、ヘルタ達も私の視線の先にあるものに、目を向ける。
距離が近づくと、それが馬に乗った一団だとわかった。
馬上にいるのは、マントを羽織った男達だ。軍服を着ているように見えるけれど、遠目では細かい装飾がわからないから、軍服だと断言はできない。
「立派な服を着ているようだけれど・・・・何者かしら?」
この修道院は、主要な道から外れた場所にあるから、賊ですら見逃してしまうらしく、今までならず者達の襲撃を受けたことはない。だけど、今後もないとは言い切れなかった。
だから見慣れない男達を見て、私達は警戒する。
「もしかして、魔物退治に来てくださった方々?」
修道長様が国軍に依頼した、派兵のことを思い出す。
「魔物退治って、何のこと?」
「あ・・・・」
ルーナティア様に聞かれて、魔物退治の件を彼女には話していなかったことを思い出し、焦った。
「あ、あの方々は、ルーナティア様のお知り合いでは?」
誤魔化すため、私はルーナティア様の注意を、馬に乗った一団に向けることにした。
「見覚えはないと思うけど・・・・」
苦しまぎれの方法だったけれど、功を奏して、ルーナティア様の注意は、馬に乗った一団に向かう。
距離が近づいて、馬上の人物が纏っているのが、やはり軍服であることがわかった。
「派兵された方々にしては、装いが立派過ぎないかしら? この前来てくださった方々は、鎧姿だったでしょう?」
以前、魔物退治に来てくれた人達は、一兵卒だったらしく、鎧もそれほど立派ではなかった。
だけど、今近づいてきている男性達は、兵士というよりは、貴族のような立派な装いをしている。袖には金のラインが入っているし、ブレザーを留めているボタンもおそらく、金ボタンだろう。
「まさか――――」
その時ルーナティア様が、何かに気づいたようだった。
彼女は突然、農具を放り出して、馬が見える方向へ走りだしてしまう。
「る、ルーナティア様!」
私達は慌てて、追いかける。
ルーナティア様は修道服の裾が足にまとわりついて邪魔だったのか、スカートをたくし上げてしまい、足が丸見えになっていた。
「お待ちください! まだ何者かわかりませんから、不用意に近づいてはなりません」
「いえ、あの人達は多分、私の知りあいなの!」
ルーナティア様を止めようとすると、そんな答えが返ってきた。
「・・・・知りあい?」
予想外の一言に、足が止まってしまう。
すると、一団も立ち止まった。先頭の人物が軽い身のこなしで下馬して、私達に近づいてくる。
近づいてきた赤毛の男性が、ルーナティア様を見るなり、破願した。
「エンリケ!」
「お久しぶりです、ルーナティア様」
その赤毛の男性は、よろめいたルーナティア様を抱きとめていた。
「どうしてあなたがここにいるの?」
「任務で来ました。お元気そうで、何よりです」
二人の様子を見て、彼らが賊ではないとわかった。――――だけど、それよりも。
(エンリケ? 今、エンリケって呼んだ?)
エンリケという何度も耳にした名前、綺麗な顔立ちに均整がとれた体格、赤い髪に立派な軍服。それらの要素を組み合わせれば、答えは簡単に出たのに、私は混乱して、その人が誰なのか、すぐには気づけなかった。
「エンリケ? エンリケってもしかして、カルデロン卿のこと!?」
ヘルタのほうが先に、状況を理解していた。
「まさか、カルデロン卿が魔物退治に来てくれたの!?」
きゃああ、と黄色い声が弾ける。
その声に驚いたのか、ルーナティア様とカルデロン卿の目は丸くなった。
ヘルタ達は弾かれたように走り出して、あっという間にカルデロン卿とルーナティア様を取り囲んでしまう。
「本物のカルデロン卿ですか?」
「本物?」
「あ、えっと・・・・魔王オディウムを討伐した、エンリケ・カルデロン卿ですか?」
「ええ、そうですが・・・・」
「本物よ! 本物だわ!」
今度は、黄色い声、などという可愛いレベルではない野太い絶叫が、ヘルタ達の口から飛び出した。その絶叫に鼓膜を貫かれたのか、カルデロン卿の後ろにいる騎士が、耳を押さえる。
「えっと・・・・」
主役であるカルデロン卿は、戸惑い気味だ。
「あ、す、すみません!」
私はヘルタを押し退け、前に出る。
「ヘルタ達が大変失礼な態度をとってしまい、申し訳ありません。どうか、お許しください」
頭を下げてから、ヘルタ達を睨みつける。
「ヘルタ! 貴人にたいして、なんて態度なの!」
「も、申し訳ありません!」
ヘルタ達もようやく、無礼な態度を取っていたと気づいたらしく、カルデロン卿の前に跪こうとした。
「かしこまらないでください。どうか、そのままで」
カルデロン卿は、笑顔で許してくれた。
「あ、ありがとうございます・・・・」
私達は折ろうとしていた膝を伸ばして、真っ直ぐカルデロン卿と向き合った。カルデロン卿は微笑を浮かべてくれている。
(想像通りの人だわ・・・・)
長身、赤い髪、軍人らしい体格に、気さくな人柄――――何もかも、思い描いていた通りの人で、感激する。
「本当に、失礼しました。私達、まさか本物のカルデロン卿に会えるなんて、夢にも思ってなくて・・・・それで取り乱してしまったんです」
「団長、こんなところでも人気者なんですね」
身体の大きな騎士が、からかうような口調でそう言った。
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