魔王になったけど、夫(国王)と義弟(騎士団長)が倒せない!

炭田おと

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95_王妃vs元王妃

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「ようこそいらっしゃいました、ルーナティア元妃殿下!」


 出会い頭に、スカーレットは、元、という部分を強調して、嫌味たっぷりに出迎えてくれた。


「さあ、ここに座って」


 彼女は表向きはにこやかに、椅子を勧めてくれる。まだ〝話し合い〟ははじまったばかりなので、私はひとまず勧めに応じて着席し、部屋の中を見回した。



 私が使っていた時とは、部屋は様変わりしていた。


 カーテンからシーツまで、光沢がある原色に近い色合いの品に取り換えられていた。派手なだけじゃなく、家具や小物まで金と銀があしらわれ、かなり値が張りそうな代物と取り換えられている。


 どれも色が強すぎるので目が痛く、私からするときらびやかを通り越して、毒々しく見えた。



「それで、今日はどんなご用件なの?」


 私の対座に座り、スカーレットは本題を切り出してきた。


「できれば、二人で話がしたいわ」


 できるだけにこやかに、言ったつもりだった。スカーレットが私の態度をどう思ったのかはわからないけれど、口の端にわずかに苛立ちが滲んだことは読みとれた。


「二人きりにして」

「かしこまりました」


 侍女達は静かに退室し、私達は二人きりになる。


「それで、どんなお話かしら?」


「――――あなたに忠告しに来たの、スカーレット」


 私が笑顔を消すと、スカーレットの顔に張り付いていた笑顔も、あっさり萎んでしまう。代わりに、嫌悪感という黒い色が、顔の前面に押し出された。


「忠告? この私に?」


 スカーレットは大仰に、自分の胸に手を当てる。


「賭博をして借金を作ったうえ、国庫のお金を借金返済に流用しているそうね。・・・・王妃にあるまじき振る舞いよ」


「お言葉ですが、ルーナティア元妃殿下」


 スカーレットは足を組みなおした。


「今のあなたに、私に意見する権利があると思っているのかしら? あなたは今では、一時だけ、王妃だったに過ぎない女性よ。貴族階級だという自負があるのかもしれないけど、王妃になった私のほうが、今では立場が上だわ!」

「ええ、あなたの言う通りよ」


 私は侍女が持ってきてくれた紅茶を飲み、喉を潤して、これからの長い話に備えた。


 そして、本題を切り出す。


「でも、私はあなたに意見を言うことができる。――――あなたの弱みを握っているからね」

「私の弱み・・・・?」


 スカーレットは鼻で笑う。


「あなたが、私の何を知っていると言うの? 私の悪い噂かしら? 残念ね、陛下はすべてご存知よ。でも信じていらっしゃらないわ。当然よね。すべて、根も葉もない噂にすぎないんだから」

「根も葉もない・・・・」


 追求したいところだけれど、スカーレットがここまで強気に出るということは、過去の悪事の証拠はすべて、隠滅済みということなのだろう。


「・・・・その根も葉もない噂というのが、どんな内容なのかはわからないけれど――――私は、あなたの王妃としての資質を問える、ある事実を知っている」


「王妃としての資質・・・・?」


 私はカップを、ソーサーに戻す。


「あなたは正式な手続きを経て、王妃になったわけじゃないから、知らないんだろうけど、カーヌスの王妃になるには、ある条件が求められるの。それをクリアできていない場合、結婚は無効とされるわ」

「条件ですって?」


 馬鹿にするように、スカーレットは笑った。どうせくだらない内容なんでしょう、という侮りが見える。

 私も笑い返した。



「――――陛下と結婚する前に、他の男性と婚約し、その人とすでに肉体関係を持っていたことが発覚した場合、結婚は無効とされるの。・・・・あなた、知ってた?」



 スカーレットの笑顔が、凍りつく。



「後継者問題を複雑にしないための取り決めよ。陛下以外の誰かと婚約を交わし、すでに肉体関係を持っている場合は、まだ結婚していなくても、結婚したも同然と見做される。本来なら、王妃の候補者に選ばれた時点で、身辺を調査されるし、身体を検査される。その審査に合格してはじめて、候補者として認められるの。・・・・私も嫌だったけれど、その検査を受けたわ」


 王室が派遣した女性に、私とエレアノールは身体を調べられた。痛みはないけれど、精神的な苦痛を伴う検査だった。


「そ、そうなの・・・・」


 スカーレットは一瞬だけ顔に浮かんだ動揺を、作り物の笑顔で打ち消す。


「それが何だって言うの?」

「あなたは、その審査を受けていないわよね?」

「ええ、受けていないわ。でも、心配は無用よ。私は陛下以外の男性と恋人関係になったことも、婚約をかわしたこともないわ」


 スカーレットは自信満々に、胸を張る。


「そうなの? おかしいわね・・・・」


 私が考え込む演技をすると、スカーレットの目付きはさらに険しくなっていた。


「何がおかしいって言うの?」


 私は薄く笑う。



「――――私、昔、あなたと恋人関係だった人を知っているの」


 スカーレットは笑顔を浮かべたまま、固まっていた。



「名前は言えないけれど、外国の裕福な貿易商の子息で、作曲家を目指していた青年、と言えば、あなたには十分に伝わるはず。陛下と会う前に、数年間付き合っていたんでしょう? 結婚の約束までしたと聞いたわ。・・・・あなたのほうから、破談を申し出たみたいだけれど」


 破談の時期と、私が彼女とエセキアスを引き合わせた時期が一致しているから、スカーレットは自分の物欲を満たしてくれるより良い相手を見つけ、乗り換えたのだろう。


 彼には悪いことをしたと思うけれど、スカーレットはいずれ、エセキアスと結ばれることが決まっていた。私が何もしなくても、二人はいずれ、破局しただろう。



「で、でたらめよ!」


 スカーレットは勢いよく立ち上がり、大きな声でまくし立てた。


「落ち着いて。私は、咎めに来たんじゃないの。結婚前の話だから、誰にも咎める権利はないし」

「だから違うって言ってるでしょ!」

「本当? 彼はあなたのことを、本当によく知ってたわ」

「どうして、その男が真実を言ってると思うの? あなたは、私のことなんて何も知らないじゃない!」

「ええ、そうね。私は知らない」


 私もゆっくり立ち上がり、近い距離でスカーレットと睨み合う。


「でも陛下なら、きっとご存知でしょう。陛下に聞いて、その証言の真偽を確かめてもらうのが、一番よね」

「やめなさいよっ!」


 金切り声を上げて、スカーレットはつかみかかってきた。


 私は白魚のようなその手を振り払って、正面から、真っ直ぐ彼女の目を睨みつける。

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