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37_断たれた繋がり
「この裏切者め!」
皇宮のエントランスに、怒鳴り声が響きわたる。
石造りの空間に声は強く反響し、多くの人を驚かせた。
声に引き寄せられ、人々の視線が、エントランスの中央へ向かう。
エントランスで、二人の男が口論していた。
一人は毛皮をまとった貴族で、もう一人は暗色の僧服を着た司祭だ。肩を怒らせ、怒鳴り散らしているのは司祭のほうだった。
――――貴族はダヴィド・ガメイラ・ヘレボルスで、司祭はリカルドゥス枢機卿だ。大物の口論を目にして、人々は驚いている。
「なぜ裏切った、ダヴィド!」
リカルドゥス枢機卿は怒声を撒き散らしながら、ダヴィドの胸倉につかみかかる。
「猊下、私は裏切ってなどおりません!」
一方、ダヴィドは、猊下を必死になだめようとしていた。
「嘘をつけ! 貴様は今年も、私を大法官に推すと言っていたではないか! その言葉を信じ、続投の知らせを待っていたのだぞ! だが蓋を開けてみれば、大法官になったのは、そなただというではないか!」
「私も、なぜこのような事態になったのか、まったくわからず・・・・」
「閣僚なのに、知らぬだと? よくもそんな白々しい嘘が吐けるものだ!」
リカルドゥス枢機卿は痩身だけれど、背が高い。
長身に圧倒されて、ダヴィドは後退った。
「大法官を決める会議には、私は欠席していたのです。ニベアへの帰り道で、馬車の車輪が外れてしまい――――」
「閣僚が満場一致で、そなたを推したそうじゃないか! 前々からの根回しがなければ、満場一致で決まるものか!」
理詰めで詰めよられ、ダヴィドは反論できなくなり、黙り込んでしまう。それを見て、リカルドゥス枢機卿はますます怒りを滾らせていった。
「もはや言い訳も思いつかないか」
「本当に、身に覚えがないことなのです。どうか信じてください、猊下」
「すべて誤解なのです!」
「黙れ! 言い訳など、聞きたくない!」
「私を大法官に推したのは、グレゴリウスだと聞きました。これは私達を仲違いさせようとする、グレゴリウスの罠です!」
「グレゴリウスが、敵であるそなたを推しただと? もっとましな言い訳を考えるんだな!」
ダヴィドの反論も、リカルドゥス枢機卿は一蹴する。
「私はそなたに恩義を感じ、長年、そなたに尽くしてきた。なのに今さら、この裏切りか!?」
「猊下――――」
「私はもう用済みか? 協力するふりをして、裏では自分が大法官になるために、着々と根回しを進めていたのだな!? なんという卑劣な奴だ!」
リカルドゥス枢機卿は、ダヴィドの眼前に指を突きつけた。
「覚えていろ! 私はこの恨みを、絶対に忘れぬ!」
もはや言うことはないとばかりに、リカルドゥス枢機卿は身を翻す。
そして大理石の床を叩くように、出口に向かって歩き出した。
「お待ちください、猊下!」
ダヴィドの声は虚しく響くばかりで、リカルドゥス枢機卿の足を止めることはできなかった。
「・・・・うまくいったようですね」
二人の様子を遠くから眺めながら、私はグレゴリウス卿に話しかけた。
「ああ。――――今後が楽しみだ」
グレゴリウス卿はその言葉通り、楽しそうに笑っていた。
――――ダヴィド・ガメイラ・ヘレボルスと、リカルドゥス枢機卿が仲違いしたという報せは、すぐにニベア中に広まった。
教会と強い繋がりがあるというのが、ヘレボルスの強みの一つだった。
そこに、溝が生れてしまったのだ。
ツェザリの失態、商人ギルドとの繋がりの暴露、枢機卿との関係の破綻など、立て続けの醜聞で、ヘレボルスは順調に、求心力を失いつつある。
一方リカルドゥス枢機卿も、ヘレボルスを通してパンタシアの政治に影響力があるという点が強みだったので、ダメージは大きかったようだ。
教会内部の抗争で、彼は坂道を転がり落ちるように転落し、二度と表舞台に出てくることはなかった。
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