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しおりを挟む「奴がアラーニャのボス、アンデルです」
バルドゥールさんが、列の先頭でひざまずかされている男を指差した。
確かにその人物だけ、一目で高価だとわかる上等な服と、装飾品を身に着けている。もっとも強襲に遭ったせいで、高価な服も装飾品も汚れてしまい、見る影もなくなっているけれど。
「ビュットナー伯爵に関することは、なにか聞き出せたか?」
アラーニャのメンバーに会話を聞かれないよう、私達はカウンターの裏に移動し、小声で話しあった。
アリアドナがアラーニャに接触していたのだから、ビュットナー伯爵が倒れた件に、アラーニャも一枚噛んでいることは間違いない。
「何も話しませんでした。なにか知っていることは間違いないと思いますが、口を割らせるには時間がかかりそうです」
「そうですか・・・・」
「口を割らせるのは、容易じゃないだろう。アラーニャが貴族御用達の組織にまで成り上がれたのは、今まで情報を漏洩しなかったからだ」
アラーニャがならず者の集まりだったとしても、雇い主の信頼を得るための最低限のルールは守ってきたはずだ。そのルールの一つが、〝口を割らない〟なのだろうと思う。
「仕方ありません。根気強く、尋問を続けましょう。それで、雇い主から依頼を受ける時に、受付役をしていた男は?」
バルドゥールさんは奥にいたヴォルケのメンバーに目配せすると、彼は奥の部屋に入り、一人の男を引きずりながら戻ってきた。
「ひぃぃ! お許しを! 命だけは助けてください!」
その男も目隠しをされていたけれど、猿ぐつわは外されていた。この状況でも他のアラーニャのメンバーはできるだけ感情を抑えているのに、その男だけはなりふり構わず、子供のように泣きわめいている。
「このグラシアノという男が、受付役のようです」
グラシアノという男は目隠しをされているのに、声の出所を探すようなしぐさをした。顔面は、涙と鼻水で濡れている。小心者のようだ。
「この人だけは、組織に残しましょう」
「残りのメンバーはどうする?」
クリストフは、アラーニャのメンバー達を一瞥した。
「領地へ送りましょう。懲役刑の代わりに、労働者として役務についてもらいます」
私はその言葉だけは、アラーニャのメンバーに聞こえるよう、わざと大きな声で言った。
「懲役刑か?」
「指示されたからとはいえ、伝染病を意図的に広めたり、穀物を買い占めて値段を吊り上げたりして、大勢の人を死に追いやった人達です。もう証拠は抹消済みだろうから、彼らを公式に裁判にかけることは無理でしょう。なので刑務所に収容できない代わりに、労働者として働いてもらいます。もちろん、監視付きで」
「労働者と同じ仕事内容じゃ、罰にならないんじゃないか?」
「刑罰にふさわしいように、過酷な労働条件を用意しています」
私がそう言うと、アラーニャのメンバーは震え上がる。
「逃がさない自信はあるかい? 彼らが皇都に戻ってきたら厄介だぞ」
「こうなることを予測して、領土に監視体制がある農園を造っておきました。塀で何重にも囲ってあるので、脱走は難しいです」
私はアラーニャのメンバーを、冷たく睨む。睨んだところで、目隠しをされた彼らにはわかるはずもないけれど、冷えきった声は聞こえているはずだ。
「・・・・きっと逃げ出したいと思うほど、過酷な日々になるでしょうね」
背筋が寒くなったのか、アラーニャのメンバー達は冷汗を流している。中には、必死に何かを訴えようとする人もいたけれど、猿ぐつわをしているせいで、言葉は聞きとれなかった。
「連れていけ」
クリストフの指示で、ヴォルケのメンバーが動き出し、アラーニャの男達を外に連れ出していった。彼らは拠点の前に停められていた荷馬車の荷台の中に、家畜のように詰め込まれていく。
「・・・・彼らを監視状態に置いたあと、私の家臣に、厳しい看守と優しい看守の二役を演じてもらって、彼らから情報を引き出せないか、試してみます」
「おお! 刑事ドラマのやりかただな!」
クリストフが目を輝かせる。
刑事ドラマでよくある、事情聴取のやりかたを試してみようと考えていた。厳しく追及する刑事と、相方をなだめつつ、優しく聞き出そうとする刑事の二役で、犯人の心理を揺さぶりつつ、本音を聞き出すという手法だ。
「雇い主に裏切られた場合を考慮して、彼らが犯行の証拠品を隠している可能性もあります。もし証拠品が残っていないのだとしても、交渉材料に、ヴュートリッヒの情報を出してくるでしょう」
「確かに、彼らが保険のために何らかの情報を持っている可能性はあるな」
アラーニャのように汚れ仕事を押し付けられてきた集団が、何の保険もなしに、雇い主の命令を従順に聞き続けるとは思えない。彼らなりに、雇い主から切り捨てられそうになった時に備えて、対策を講じているはず。
例えば、雇い主の秘密を握り、簡単には切り捨てられないようにしている可能性はあった。
でも、たとえ雇い主に関する重要な情報を持っていたとしても、彼らはそれをすんなりとは教えてくれないだろう。
なぜなら、情報をわたした後に、私達に用済みだと判断され、殺されてしまう可能性があるからだ。情報を売っても殺されないと彼らに確信させるまで、あるていど時間を置く必要がある。
「それで? ボリスにはまず、どんな情報を流すつもりなんだ?」
「手始めに、皇子達の今後の予定について、流そうと思います」
私の答えが意外だったのか、クリストフは怪訝そうな眼差しを返してきた。
「意外ですか?」
「アラーニャを乗っ取ったのだから、もっと派手なことができるはずなのに、最初に選んだのが地味だったのは、確かに意外だ。理由を聞いていいかい?」
「まだ秘密です」
私が口の前人差し指を立てて、微笑むと、クリストフは目を瞬かせた。
「ーーーーすぐにわかると思いますから、楽しみに待っていてください」
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